第58話 夜更け過ぎ
うーむ…我ながら色気が無い。まあ、長い時間の物語を書く以上いつか出てくるシーン
どこまで書いていいかよう分からんし、といっても色気やトキメキ?みたいなんが伝わらないと面白く無いし……むずい。
〇鎌倉軍 駐屯地近く 夜
ーー今夜……少し時間あるか?
頼朝は義経と長い対話をした後、鎌倉へ帰っていった。義経はその後も見た感じ、変わりなく軍の指揮を続けている。ある程度軍を整えたら、いよいよ京に入る。情勢の安定しない京を落ち着け、軍の基盤を作り、年明けた春になったら、いよいよ打倒平家を果たす為、中国四国方面へ遠征軍を派遣する手はずになっている。そんな、忙しいさなか、慶次郎は義経に急に声を掛けられた。そう言えば宇治川の戦いの前に、この戦が終わったら色々話そうと言っていた気がする。慶次郎からしたら、嫌がる理由は何も無かった。
駐屯に使っていた豪族の屋敷の前で待ち合わせ場所で待っていた慶次郎の前に現れた義経を見て彼は目を丸くする。
「お前……どうしたんだよ? その恰好」
動きやすい服装……との事だったが、義経の衣装はまさに女の服装だった。色合いも少し薄桃色の可愛らしい印象がある。
「なんだ、その顔は? 別によいであろう? 女である事を兄上に隠しておく必要は無くなったのだ。私的な出かけの時くらい……」
もじもじと義経は慶次郎の方を見ながら、言葉を止めた。
「いや……いいと思う。かわいいと……」
義経は「そうか」と顔を赤らめた。
「で、いったいどこで何をするんだ? 」
慶次郎も顔を赤くしながら言う。
「うむ。その前にまずいいか? 今からお前に抱きつく。」
「へ? 」
言うと、義経は本当に慶次郎に抱き着いてきた。いつもの義経の匂いが慶次郎の鼻をくすぐる。
「『三日月』を使え。」
「え? ちょっと、待……」
「いいから、早く。」
慶次郎はワケが解らないまま、『三日月』を顕現して隠密を発動させた。
「よし。行くぞ」
言うが早いか、今度は義経が『鞍馬』を顕現して慶次郎の体ごと夜の空へ飛び立った。「うおおー」と、慶次郎が叫ぶ慶次郎をよそに、義経はぐんぐん加速して山奥へと飛び去った。
「お前と違って俺はめったに、飛ばないんだよ! せめてやるなら、先に言ってからにしろ。『三日月』使ったんだしよ! 」
着地したのは山奥にある湖畔だ。慶次郎は軽い酔いからゼエゼエと息を付きながら義経に言った。義経は楽しそうに笑いながら言った。
「日立がな……。昼間からどこへ行くのか? と煩くてな。さっきも隠れて私達を監視していた。それゆえ、こうやってまいた。」
「そこまでして、ここでいったい何を……」
慶次郎は月夜の暗さにようやく目が慣れてきて義経の姿をはっきりと見た。いつもとは全く違う、蒸気したような熱っぽい顔。暗くてはっきりは分からないが、顔は赤らめているのだろう。
「言ったろ。話がしたいと」
慶次郎もはっとして恥ずかしさに俯く。義経は湖畔に腰を下ろした。慶次郎も自然に義経の横に座る。義経は慶次郎の肩に顔を乗っけた。いつものように、驚きはしなかったが慶次郎の胸はまた高鳴る。
「感謝する。お前のおかげで私はまだ、私でいれる……」
「ああ……。」
自分も死なない為必死だったから、仲良くなった義仲一行の為……他ならない義経の為だから。色々言いたかったが慶次郎は胸の苦しさから言葉を失った。義経はクスクスと笑う。
「何故、黙る? 」
「うるさいな。緊張してるんだ。」
義経は、さらに笑い「柄にもない」とおどけた。
「兄上と話をしたそうだな。何を話した? 」
「いや、偶然会っただけだしな。まあ「義経を宜しく」と言われた。お前は? どんな事を話した? 」
「ふふ。秘密だ。だが……、私はこれからも兄上の為に戦う。この体に宿る特異霊装もってな。その決意を新たにした」
頼朝がうまく説得したようだ。今はそれでいい。多分、今は。慶次郎はひとまずうなづいた。
「まだ少し暑いな…。」
不意に義経は立ち上がると自分の服の裾をたくし上げて、ザブザブと湖に入っていった。膝下が水に入ったところで彼女は慶次郎の方を向く。
「冷たくて気持ちいいぞ。弁慶。お前も来い。」
義経は慶次郎の方へ手を差し出した。月明かりに照らされた義経の笑顔。慶次郎に争う術は無く、自然に手を伸ばし自らも水の中に入る。
義経の手を取ったところで彼女が慶次郎の手をグッと引き寄せる。慶次郎はバランスを崩して彼女にもたれかかる。義経は彼をしっかり受け止める。そして2人は自然に抱き合う形になる。
「お前の故郷の言い方で言う。私は……お前の事が好きだ。弁慶。」
背中に回された義経の腕強く締まるのを慶次郎は感じた。既に顔が火が出るような慶次郎だったが、今度は心臓が聞いたこともない鼓動で高鳴るのを感じた。彼は義経を優しく抱き返す。
「俺もあなたの事をお慕いしています。」
する地義経は慶次郎の胸に頭を押しつけたままクスクスと笑い出した。
「何故、敬語なのだ? 」
「うるさい。俺も言い方をそっちに合わせたんだろうが…」
「色気もないのに無理をするな」と義経は笑いを抑えながら言った。
「最近お前を見る度に感じていた胸の苦しさの正体がやっとわかった。私はずっとこうしたかったのだ。」
2人はしばらくの間、身を寄せ合っていたが、義経は、そっと身を離した。
「だがな弁慶、私は明日以降はお前と距離を置こうと思う。」
慶次郎は言われた言葉の意味がわからず、そのまま固まった。
「もちろん、これから平家と戦う為にお前の力は必要だ。勝手な話だが、ずっとよき友人……そして家来あって欲しい。」
『天尊魔王印』もあるし……。と義経はまた顔を熱くして俯く。今は源氏の為に戦いに身を捧げる覚悟がやっと決まった所で色恋の事は考えられないという事を義経は切々と語った。そして…
「もし、兄上が源氏の為、政略的な婚姻を誰か別の男と結べと私に言うなら……私はその通りにする。」
慶次郎と義経は見つめあった。
「兄上は、今はそんな事をさせる気は無いとおっしゃった。しかし……今後は分からん」
慶次郎は俯いて、「お前がそう決めたのなら、それでいい」と言った。
「でも、義経。もしお前がそんな事を言う理由が……いつかお前の中にある特異霊装が俺を巻き込んでしまうかもしれないって事なら……」
義経は、その言葉を遮るように慶次郎に駆け寄り彼の唇に口付けた。『天尊魔王印』を使う時とは違う、熱のこもった接吻を2人は交わした。
「朴念仁のくせに変な所だけ勘がいい。だからお前は……」
唇を離して義経は言った。慶次郎はそれ以上何も言えなかった。
ーー明日になったら今まで通りだ。だから、今は……ーー
2人はもう一度、長い口付けを交わす。誰もいない月明かりの湖畔。静かに夜はふけていった。
それからどれだけの時間が流れたか。軽く空が白み出した頃。2人は前のように湖畔に身を寄せ合って座っていた。やがて義経が徐に立ち上がった。
「さすがに2人で帰るのは気恥ずかしいな。それほど屋敷からは離れていない。『虎徹』で帰れるか? 」
衣服の乱れを直しながら言った義経に、慶次郎はうなづく。
「弁慶。さっきの続きだ……。もし私が誰か別の男の嫁になっても……私の家来でいてくれるか? 」
「ああ」
義経は、フッと笑うと、その場にふわりと浮いて飛び去った。
彼女が去ってから慶次郎はその場にゴロンんと寝転ぶ。
ーーああ、そっか……俺もフラれたんだ。
慶次郎もまた、その自分の言葉が妙に腑に落ちた。
異世界の話です。史実とは関係ありません。
なんか、この話がアップするのに一番気を使った。




