第55話 北条義時
ちょっと鎌倉殿にあやかってみる…
○鎌倉城内部
彼女は、急いだ。直ちに真相を聞かないといけない。義経にあんな秘密があったとは。そして、その事を鎌倉の中央部はどこまで把握していたのか? 自分はいったい何だったのか? 粟津の戦い顛末を配下の山吹から聞いた北条政子は、それを夫頼朝に確認せんとひたすら城の廊下を急いだ。
「姉上ではありませんか。珍しい。城内にお見えになるなんて。」
「義時。頼朝様に聞きたいことがあるの。今すぐ会わせて。」
不意に自分に立ちはだかるように現れた弟に驚きもせずに政子は言った。
「あいにく、義兄様は今出掛けて鎌倉におりません。ご用件は私が承りましょう。」
いつもニコニコと笑い、心の底を探らせない。数年前まではまだ隙もあったが、今はすっかりそのポーカーフェイスが板についている。政子はこの弟があまり好きではなかった。
「出かけた? 私に何の報告も無しに? 」
「それだけ火急の用件なのですよ。」
「では、戻るまで城内で待たせてもらうわ。何日でもね。私も火急の用なの。」
「姉上……義兄様にお会いできず、寂しいのはわかりますが、今は天下の命運を分ける戦の真っ最中。何とぞご辛抱を……。」
と、そこまで言って、いつになく真剣な表情で自分を睨む姉の視線に気づき、義時は言葉を止めた。
「私がそんな用件でここに来たんじゃない事はあなたもわかってるわよね。ねえ。義時。あなたはどこまで知っていたの? 」
「何の話ですか? 」
「また白々しい。義経様と特異霊装の事よ。」
義時は笑顔を崩さないまま続けた。
「さすが姉上。義経殿一行に帯同させているという忍の情報ですか? 耳が早い。」
「質問に答えなさい。」
「知っていたも何も全てがわかったのは範頼殿が我が軍に来られてからです。私も最初戸惑いましたが、ずっと行方不明だった特異霊装の所在がわかったのですから、それはよろこばしい事でしょう。正直、義経殿がどこまで信頼できるか分からないから本人には当面秘密で行こうというのが私の判断。これには義兄様も同意して頂きました。」
「知ってる? 義時。あなた、本当に隠したい事がある時は不必要に饒舌になって、聞いてめいないことまで、ベラベラしゃべるの。確か平維盛が来た時も似たような失敗してるわよね。」
ここで義時は初めて笑顔を崩した。
「僕が何を隠していると言うのです? 」
「「大蛇」と大正坊について。彼はずっと城に出入りしていた。あなたが知らないとは言わせないわ。頼朝様は……いいえ、あなた達は何をやろうとしているの? 」
義時はため息をついた。そして指をパチンと鳴らす。
政子はビクりとする背後に人の気配があった。それは、政子の背に刃を突き立てている。
そして、その人物は天狗の面を被っていた。さらに義時の背後に2人。同様に天狗面を被った人間がいつの間にかたっている。
「できれば大正坊、本人に来て貰いたかったのですがね。さすがに無理そうなんで、その友人達です。」
「あなた……。」
「そこまで調べたなら、わかっていた筈だ。迂闊に手を出していい組織ではないと。」
こんとは政子がため息をつく。
「まだ話ができると信じて今日は山吹を連れて来なかったのよ。これが、あなたの答えってわけね。」
義時はまたニコリと笑った。
「やだなあ。僕が本気で姉上を手にかける訳は無いでしょう? ちゃんと時が来たら全部説明します。でも、今はその時じゃない。今日は大人しく帰って欲しい。」
政子は黙っている。
「少なくとも今事態は姉上が特異霊装の生贄にならなくても良い方向に進んでいる。だから安心して下さい。姉上だってそれを望んでいたではないですか。」
政子はため息をついた。
「わかりました。でも、義時。二つ……。覚えておきなさい。大事を成す時に犠牲はつきものです。しかし、それは人を殺して良い理由にはなりません。それを正当化した時、人は鬼畜に成り下がります。」
「もう一つは? 」
「もし、あなた達が私の友人達を何らかの手段て、貶めようとしているのなら……。私は何をするかわかりませんよ。」
義時は「怖いなあ」と、おどけて、またニコリと笑った。
異世界の話です、史実とは関係ありません。最後の政子様、「何をするかわからない」は軽い洒落って事で…




