第51話 圧倒
戦闘…に見せかけたイチャラブ回
ーー神器『伊邪那美』の効力、それは……。「自分らしくある事」ーー
そのことをなつめから初めて聞いた時、慶次郎は何だそりゃあ! と、大きな声を上げた。
○粟津合戦場
「大正坊。お前には神器の使い方戦闘のイロハを教わった恩がある。引くならばこの場は深追いはしないぞ」
慶次郎と義経に対峙していた大正坊は拳を引くと、化け物の顔でもそれとわかるようにニヤリと笑った。
「嬉しい言葉だが、義経。僕もこの姿になるのにそれなりの代償を払った。ここで『八尺瓊』も『八咫』も使われないまま引くワケにはいかない……いかないんだ! 」
そう言うと、大正坊はまた拳を繰り出す。乗っていた樹上の枝の上で大きな土埃が起こり周囲の木々が倒れる。
義経は慶次郎を抱えたまま、フワリと飛び上がり、中空に静止した。
「ふむ。凄まじい力だな。あの怪物。」
「落ち着いてんじゃねーよ!」
「怒るな。今、色々、憑き物がとれて気分が良いのだ。状況を把握したい。このまま話せ。」
「いや、このままって……! 」
大正坊は義経を見つけると、すぐさまに樹木を蹴って飛びかかってきた。義経はそれを慶次郎を掴んだままヒラヒラかわしながら逃げる。最初は慌てていた慶次郎も何とかバランスを保ち、状況の説明義経にした。
「なるほど。それでお前はこの腕輪型の神器で母上の『伊邪那美』の出力を上げてみたわけか。」
大正坊の猛攻から少し距離を取り、木の影に隠れながら義経は慶次郎に言った。
「なつめの解析では、正確には常盤さんが亡くなった時に、『伊邪那美』の使用者は義経に変わっていたらしいけどな。」
「無茶をする。貴重な7つ目のスロット? だったのだろう? 」
「でもやった甲斐はあったろ? 正直「自分らしくある神器」ってのが意味わからなくてさ。でもきっとお母さんがお前の為に残した能力だろうって可能性にかけた。」
「いや、わかるぞ……。私にはわかる。母上は自らの罪を悔いていたのだ。そして父の最後の忘れ形見である私にはせめてと……。」
義経の脳裏には生前母の言葉が一つづつ蘇っていた。ずっと悲しそう表情をしていた人だったが、自分の事を本当愛してくれていた。自分も人並みに父と母の愛を受けて生まれ育っていたのだ。義経慶次郎から見えないようにポロポロと涙を流した。慶次郎はそれに気がついたが見えないふりをする。と、その時ーー
「見つけたぞ! 義経え!! 」
慶次郎達の姿をとらえた大正坊が飛び掛かってきた。義経はまたそれをひらりとかわす。
「で、どうする? 」
空中を飛びながら聞いた義経に慶次郎は「え? 」と聞き返す。
「ここからだ。見たところお前の新しい神器は私に触れていないと効果がないようだ。この神器が無いとまた私は範頼の操作に堕ちてしまうのだろう? 私は今後、お前をずっと担いでいないといけないのか? 」
慶次郎は言われて初めてそこまで考えていなかった事に気づく。
「はっはっは。考えなしか。助平のお前の事だ。てっきりこれを期待してくれていたと思ったのだがな」
慶次郎の顔に義経の顔が近づいてきた。いつの間にか義経の顔に、あの神器『天尊魔王印』の化粧が浮かび上がっている。そして、2人は静かに唇を重ねた。慶次郎は何があったか分からずまた呆然としている。
「ふふふ。これを使うたびにそう動揺されては敵わん。しかし、ずっとお前とくっついているのも悪くなかったかもしれんな。」
義経は慶次郎の胸に顔を埋め、耳を真っ赤にしながら言った。慶次郎の耳に「ありがとう」と小さく聞こえた気がするーー。 そしてほんの1秒、そのままいると義経はドンと慶次郎の体を突き放した。
「弁慶! お前の神器、借り受ける! 」
義経の右手に神器『姫鶴一文字』の腕輪が顕現する。落下していく慶次郎を尻目に義経は刀を抜いて大正坊に構えた。
なんでキスしたの? 天尊魔王印って何? って人は、前章の後半、富士川の戦い以降を参照のこと…
この話の義経は女の子です。異世界です。史実とは関係ありません。




