第49話 母の声
この話は、史実とは関係ありません!
って書かないと、やっぱ鎌倉殿と比較されるよなあ。面白かったもん。伊藤祐親は出しとくべきだったか…
〇義経の精神世界
ーー随分と時間が経った。
まだ、自分は弁慶達と戦っているのだろうか? どちらにしても、この状態から何かが出来るとは思えない。なぜ、こんな事になってしまったのだろう? 源氏再興の為、兵器として使われる事に不満は無い。自分の体の中に特異霊装がある事なんて思いもしなかったが、むしろ進んで頼朝の兄上の道具となる為に今までの人生を歩んできたつもりだった。数名だが、自分を補佐出来る強力な家来を持ち、平家を駆逐して最後には兄の盾となって死ぬことになんの疑いも無い。
ただ、その生き方に疑問を持つ事が今までの人生において無かったわけではない。弁慶……。彼の存在を知った時だ。最初は彼の事を知った奥州に居た時だ。秀衡と茶を飲んでいる時に京に面白い者がいるという話になった。平家に敵対していて能力も面白そうだと聞き、興味本位と久々に京の町を見てみたいという思いから彼を仲間に引き込もうと皆で旅立ったのだった。
捕まえてみれば、想像以上に変わった奴だった。自分を遠くの異世界から来たのだといい、物事に対する考え方も独特だ。中でも自分達と一番違ったのは、戦に対する物の考え方だ。
ーー殺すのも、殺されるのもごめんだ。
いつだったか、彼はそんな事を言っていた。鬼三太達は、覚悟が無いだけだと言っていたが、義経は戦で死ぬことこそ武士の使命としか思っていなかった、今までの自分の価値観を全て覆されたような気がした。それから、皆で何度もぶつかって、その度仲直りして……奥州では本当にたくさんの時間を共有し、いつしか彼の存在が自分の中で信じられない程大きなものになった……。しかし……。
ーーもう、それもどうでもいいことだ。
今、まさに自分は弁慶を殺そうとしている。あいつなら、今回も上手くやり過ごすかもしれないが結局、範頼にあの「写し」を握られている以上、何回でも同じ事を繰り返される。結局、もうあいつとは一緒にはいられないのだ。むしろ一緒にいたら、いつか……。
それは、今はどうでもいい事だ。そこまで考えると義経は静かに目を閉じる。
ーーそんな風に思う必要はないわ……
誰だ? 今、自分の頭に確かに誰かの声が聞こえた。聞き覚えのある声……母上? 何故、母上の声がこんな所で聞こえる? いや、いつか自分に言われたことばか?
そこまで考えた時、義経の目の前に小さな光る球が現れた。
ーーこれは、神器か?
義経は静かにその球体に手を伸ばした。
○粟津 合戦場
ーーおお、凄い!
慶次郎は、あの大正坊と激しく拳を打ち合っている手塚三盛の戦闘に舌を巻く。力も速さも怪物と化した大正坊の方が上なのだろうが、まさに技術。その一点で、三盛は怪物の猛攻をいなしていた。
「何をやっている。大正坊! 」
離れて見ていた範頼がその戦いに割って入るため自分の家来をけしかけようと懐を探る。
「おっと、動くなよ。」
音も無く横に立っていた義仲が、刀をその喉元に突きつけた。
「義仲。良いのか? 貴様とて、助けに入らないとあの若造が危ないぞ。」
「アイツは一対一のが得意でな。邪魔するのは野暮だ。それに……」
義仲は、木の上で義経を抑えている慶次郎を見た。
「全てはあれ次第よ。見守ってやろうぜ。若い世代の選択ってやつをさ。」
激しく打ち合っていた三盛だが、やがて疲労から動きが鈍くなり、腹に大正坊の突きを受ける。大正坊はそのまま、彼を木の幹に押しつけた。三盛は苦しそうに大正坊の手を掴む。
「なかなかやるようだけど、ここまでだ。必殺の拳もネタが分かればなんて事はない。四の拳でも私は倒せなかった。」
それを聞くと三盛はへへっと笑った。
「一発目の四の拳は、弁慶に向かって打った拳だ。前に打ったのが三の拳だから、それが今まで続いてた。今戦いの中で、当てたのは二の拳までだ。後は三の拳、ハマナス。心の拳、吾亦紅五の拳、星孔雀。…と続く。」
「ネタが分かれば簡単な神器だ。もう、私が食う事は無い。」
「ちなみに…話変わって、この神器の拳は、本来の威力から弱めて打つ事も可能だ。そして、呼称した時に相手の体にさえ触っていたら当たった事になる。」
それを聞くと大正坊は慌てて、三盛から離れようとした。
「遅い。六の拳、竜胆! 」
三盛が握っていた大正坊の手を握り潰した。大正坊は痛みから大きな声を上げる。
ーー終の拳、椿ーー
鼓膜が破れる程の轟音。大きく振りかぶって打たれたその拳は大正坊の半身をやすやすと吹き飛ばした。
「すげえ…」
慶次郎はその様を見て呟く。
「おい、弁慶。安心してる場合じゃねえぞ!」
三盛が言った。見ると吹き飛んださきで半分無くなっていた大正坊の体がゆっくりと再生を始めていた。
「油断…… していた事は認めよう。だが…… これが限界のようだな。体が治ったらすぐに留めを刺すよ。」
「ダメだ。もう、体力が続かねえ。って言うか、もう一発当てるなんて不可能だぞ! 」
言っている間に大正坊は体が完全に治り、ゆっくりと慶次郎達に近づいてきた。
頑張って書きます。とにかくこの義仲編の後に書きたい事がいっぱいあるので…




