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第12話 暗雲

今回見たいな雰囲気でずっと書きたいんだけどなあ。内容が暗すぎて…。(言い訳)

〇京……秋のある日


「なんで、最近、よく一緒に来るんですか?」


 秋も深まってきたある日…、慶次郎は教経と共に京の町の繁華街を歩いていた。


「仕方無かろう。お前が噂話の密告みたいな仕事は好きじゃないと言うから、今日は俺の仕事を…」


「聞きましたよ。それは。俺、チクり的な仕事は嫌だけど、仕事である以上、マジメにはやるっすよ?」


「お前はよくやっている。特にお前の故郷の絡繰りという、あの須磨法なる小箱…あれには驚いた。音を記録して残す事が出来るとはな…。それも神器の力を介していないから誰でも使える。おかげで捕まえた奴も悪だくみを隠せないと踏んで、自白が早い」


 なんか、スマホが変な漢字に変換されてる気がしたが気のせいか?と慶次郎は思う。だから、スマホは、そんな使い方じゃないんだけど…


「そんな事より、今日ずっと弁天丸がついて来てるのは、知ってるのか?」


「え?マジっすか?」


 慶次郎が角を曲がる時に横目で背後を確認すると、確かにぴょこぴょことついてくる、はるの姿が見えた。


「あいつ…。今日は村で仕事があるのに。」


「久々の登場だが、元気そうで何よりではないか」


「笑い事じゃないっすよ…」


 最初頃の仕事は簡単なものだった。酒場の隅の方でひたすらで座って食事をしているだけだった。そして、教経が指定したターゲットの会話を盗み聞く。平家に関する悪口を言っていたら、それをなるべく詳しく教経に伝える…。密偵…っていうよりチクリ屋だ。チクった相手が、その後、どういう末路を辿るのか…慶次郎は、あまり考えないようにはしている。が、途中から、スマホの録音メモを使うようになった。これなら、報告の際、慶次郎の主観が入る事は無いから。少しでも罪悪感を消せる…ような気がした。


 酒場では三日月を使わないから、話を盗み聞いてる事に気付かれる事にもあった。そういう輩は慶次郎の後をつけてきて、金で買収しようとしたり、実力行使で脅して慶次郎を黙らせようとしたりする。そういう時は、たいてい三日月を使って逃げる。ある時、平家の悪口を聞いかれたターゲットが実力行使で慶次郎を黙らせようとしてきた。慶次郎は、いつものように三日月を使って姿を消そうとした。が、その時、襲い掛かってきたはずの男の胸から根珠がポロリと落ちた。男が動揺していると、その男は背後から受けた衝撃に気を失って倒れた。男の後ろに、神器を顕現させた、はるが立っていた。なぜか、はるは布を顔に巻き付け、覆面のような物で姿を隠している。


「正義の使者、弁天丸見参!危ない所だったな少年!」


「何やってんだ?はる」


「はるではない。私は正義の使者!弁天丸…あいた!」


 慶次郎は、はるの頭を思いっきり、はたいた。


「何するのよ?慶次…じゃなくて少年!」


「それが解らない程、バカだったか?せめて神器の名前で名乗るな。変えろ。」


 慶次郎は、はるの覆面を剥ぎ取った。

 バツの悪そうな顔をしている、はるの顔があった。


 一応、教経に報告をして、その時は笑って許して貰えたのがだ…、しかし教経が面白がって小遣い代わりに根珠を与えたり、慶次郎と一緒に家に呼んで少々の会食をしたり…したのが良く無かった。その後もちょくちょく、はるは慶次郎にこっそりついて来ようとして、その度慶次郎を悩ませていた。


「最近、大人しくしてると思ったら…」


「ふむ。久々に遊んでやりたい所だが…。今日はちょっと時機が悪いな」


「撒いていいっすか?」


「頼む」


 慶次郎は、教経の肩に手を置き、三日月を発動させた。そして、そのまま走って逃げる。当然、はるは2人の姿を見失い、困惑している。少し可哀相な気もした。が、はるを危険な事に首を突っ込ませる事は避けたい。帰りに何か甘い物でも買って帰るか…と、慶次郎はため息をついた。


「今回はちょっと、相手が…特殊でな。下手をすれば平治の乱以来の大きな戦になる」


「ああ…じゃあ、相手は源氏の誰か?」


「いや…公家衆だよ。」


 ああ…後白河院だったか…。この世界にもいるのだろうか?とりあえず、この辺りのごたごたも後の源氏の挙兵に繋がってくるんだよな。


「清盛様が、都を福原に遷都しようとしている事が、よほど気に入らんようでな。なかなか奴らとはうまくやってはいけないようだ」


「福原…確か神戸の…」


「こうべ?摂津の国は大和田の泊だよ」


 話が通じなくなりそうなので、慶次郎はそこで話題を切った。平家…というか、平清盛を狂信的なまでに崇拝している教経に言ったら絶対その場で殺されるが…


ーーどっちもどっちだ…


 と、慶次郎は思う。体のいい軍事力として武家を利用しようとする公家。そして、武力を駆使して公家の権力を取り込んでしまおうとする武家…。いざ、武家が大きな権力を持とうとすると、それを潰そうと画策し、武家は武家で体のいい理由を見つけれて、一気にクーデターを狙うのだろう。


 教経と慶次郎は京都の町をしばらく歩き、東山の方へやってきた。慶次郎が、この世界に来た時にいた場所、大文字山が見える。市街地からはすでに離れ民家はまばらだ。遠くの方に、山荘と呼ばれる身分の高い人達の保養施設のような物が多くある区画があり、そこが目的地らしい。


「この辺りから、相手の警戒網に入る恐れがある。三日月…いけるか?」


「え?いや、少々長くても大丈夫ですけど、こんなに遠くからですか?」


「敵にも相当の神器使いがいる事が予想される。相手の能力次第では、もう警戒網に引っかかってる恐れもあるくらいだ。これを持っていけ」


 教経は懐から、鞘に収まっている脇差を出し慶次郎に渡した。慶次郎が受けとる。想像してたよりズッシリと思い。


「お前は攻撃用の神器を持っていない。下手すれば俺と別行動になる。護身の為の最後の切り札だ。まあ、気休め程度ではあるが…。まあ、なるべく離れんようにはする」


「うす…ありがとう…ございます」


 慶次郎は、ここに来て、今回随分とヤバイ仕事である事を実感した。そして、静かに三日月を発動する。三日月がどういう能力か…、教経には詳しく説明はしていない。教経もそれで良いと言っていた。「存在感」云々の話が、この時代に人間にどこまで理解できるか分らない。それに、結構「抜け穴」がある能力、なのも事実だ。教経にその点まで説明するのもはばかられた。逆に慶次郎も教経の能力等の情報は詳しく聞いていない。知らない方が色々安全だとお互いに思っているのだ。当然、こういった任務の詳細も、必要以上詳しくは知らされていない。


「あの屋敷だな」


 教経が指刺した先に一件…というには随分と大きな屋敷だ。門や、周りを囲む壁の上に数名…弓矢を装備した兵士が警戒をしている。見える限りは神器使いはいないようだが、屋敷の中からは強力な神器使いの気配がある事が、この距離でも解った。

 やがて日が沈む。あたりは暗くなったが、敷地の中は煌々とたいまつが燃えており、ある程度の明るさはあった。三日月を発動したまま、慶次郎と教経は堂々と敷地の中に入り屋敷の中を進み、大広間にたどり着く。既に、高そうな衣装に身を包んだ公家や坊主等大勢の人間が集まっている。宴が始まろうとしているのだ。


「宴は隠れ蓑だな。肝心な話し合いはその後、行われる。しばらくはどこかで待機しておこう。幸い、お前の能力は敵の索敵系能力者と相性がいいようだ。我らの侵入は敵側にバレてはいない。」


 人が酒を飲んで盛り上がっているのを横で見てる程、退屈な事はない。随分と長い時間、慶次郎と教経は宴の様子を、ただ眺めていた。しばらくすると、白拍子の一団が入ってきて、奏でられた音楽の中、優雅に舞い始める。舞妓さんの前身的存在かな? と慶次郎は思う。思った通り、舞が終わると彼女達は上座に座っている人達の横に座り御酌を始めた。


「いいなあ…皆、すっげえ美人ですね。」


「ぼやくな。今度、いい店に連れていってやるよ」


「マジっすか?!」


「はるに黙っといてやるから、海にも黙っとけよ」


「神に誓うッス!っていうか、別にはるには隠さなくても…」


 そんな話をしている中。宴もたけなわ。途中、参加者の一人が酒の入った瓶、瓶子へいしを倒しその注ぎ口を割ってしまう事があった。彼らはその状態を見て、「平氏の首が落ちた! 」と、笑い合い盛り上がっていた。完全に夜のテンションだったが、教経は「全員ぶっ殺す! 」と神器を抜いて今にも襲い掛かろうとしていたので、それを押えるのに慶次郎は苦労した。


 そして、宴が終わり、何名かは場所を移し見るからに密議を始めようとしてた。


「あれだな…」


 と、教経が言い慶次郎達はその部屋のすぐ脇、縁側の通路に座り込んだ。


「須磨法を頼む」


 だからホウって伸ばさないで…と、思いつつ、慶次郎はスマホの録音機能をオンにした。

 会話内容は慶次郎が聞いてもほぼ解らない。しかし、彼らが反平家の勢力を挙兵しようとしている事が解った。


「あたりだな。具体的な戦術も話しているから、須磨法に間違いなく記録しておいてくれ。」


 と…、慶次郎達が座ってた縁側の数メートル先の向かい側の部屋に先ほどの白拍子の一団が入っていくのが見えた。彼女達は口々に、あの助平親父…とか、目つきが嫌らしいとか、どこを触られた…とか、グチを言っている。


「私、今日の夜伽…、あいつに指名されちゃった。もう最悪…」


 夜伽か…つくづく羨ましいな…と慶次郎は思う。そして、彼女達は、おつきの女の子に手伝わせて、静かに衣装を脱ぎ始めた。着替えるのか…!慶次郎は、思わず目を反らした。しかし、どうしてもチラチラと目が行ってしまう。白拍子達の白い柔肌の見える面積が次第に大きくなる。その様子に教経も気付く。


「ああ…まあ、役得…だな。あまり見てやるなよ」


 と、教経は言う。教経のこういう酸いも甘いも噛分ける所があまり好きではなかったが、今は、ひたすら同意する。しかし、ちょうど、1人の女のその上半身の下着に当たる衣装がハラリと下に落ちた瞬間、慶次郎はその彼女と目があった…。


ーーえ?目が合う?三日月の発動中に?


「キャー!」


 という、彼女の悲鳴が屋敷の中に響く、そして周囲を見張っていた兵が「曲者だーー!」と、叫んで集まってきた。


「何が起こった?」


「いや、俺、三日月は解いてないです…」


「待て、お前の能力…、敵意のある干渉をしたら解けてしまうと言っていたな…」


ーーえ…


 慶次郎の時間が止まる。


ーー覗きも干渉に入るの!?盗み聞きはいいのに?我ながら、なんて変な制約が付いた能力だ!


「この助平めが」


「誤解ですよ。偶然ですよ」


「話は後だ。逃げるぞ!?顕現「水鏡」すべらぎ!!」


 教経の手に、一振りの薙刀が現れる。慶次郎はこの神器を見た事があった。反射的に身を伏せる。

 教経の薙刀は一閃で周囲を薙ぎ払った。2人の周囲を囲んでいた数人の兵士、神器使いも何人かいただろう。彼らを一瞬で吹き飛ばし、辺りの部屋を仕切っていた襖も全て壊れていた。その時、密議を行っていた部屋からも慶次郎たちの様子が見えたようだ。たいまつやろうそくの明かりがかなり消えて辺りが暗くなる。


「貴様…平教経か…清盛の犬めが」


 そう言うと、一人の男が心臓部に手を当てて歩いてきた。そこに何か神器があるのが慶次郎にはわかった。


「神器『七龗ななおかみ』」


 男の輪郭が崩れ、次第に巨大化する。筋肉が膨れ上がり、体表に鱗のようなものが現れる。そして男の顔が竜のそれに変化する。手足に長く鋭い爪が見える。やばい。見るからに強そうだ。と慶次郎は思った。すぐに三日月を顕現して逃げないと。


「先に行け、慶次郎。知り合いに顔を見られたようだ。ここで殺れるだけ、殺る」


「え?でも大丈夫っすか?」


 直後、教経は薙刀をもう一度振るった。次の瞬間には、竜人となった男が袈裟切りに切られ、その場に崩れ落ちていた。


「何か言ったか?頼むぞ。その須磨法だけは絶対に手放すな。」


 慶次郎はうなづくと、三日月を顕現させ、その場から消えた。


〇教経の屋敷付近


 慶次郎は一人、ひとまず教経の屋敷方面へと走りその近くまでやって来た。そこで、三日月を解く。まあ、仕事について詳しく話せないのは分かるが、今回はかなり怖い任務だった。自分の能力のせいで色々迷惑をかけたしあまり文句は言えないなと、慶次郎は思う。


「慶次郎!? いた! ひどいじゃない! なんで置いて行くのよ」


 家の前で、はるが待っていた。はるは慶次郎を見ると大慌てで寄ってきた。


「バカ、お前、こんな時間まで…」


「服に血が付いてる…危ない仕事だったの?」


 はるが心配そうに慶次郎を見ると、慶次郎もはるを叱る気が無くなる。


「ああ、大丈夫だ。でも、少し仕事が残っている。今日は教経さんの家で泊めてもらって、休もう」


 はるはうなづく。すると…慶次郎の懐から一匹の小さな虫が出てきた。いつの間に…と、思った瞬間、その虫の輪郭が崩れ、急に巨大化する

ーー…これは、さっき、竜人の姿に変化した神器と同じエフェクト…

 

 案の定、虫はさっきの男の姿になった。竜人に変わるだけじゃないのか?何種類かの異形に変身できる能力…。見ると、彼は胸に深い傷口があり、おびただしい出血が見られる。教経に切られた場所か。もう、そう長くは生きていられないだろう。しかし、男はそんなケガをしてるのが信じられない程、素早く、はるを後ろ手に捕らえた。


「はる!」


 はるは怖がりながらも必死に拘束を解こうともがいている。


「まさか、教経に情報が漏れていたとはな…。残念だが、ここまでのようだ」


「待て、俺は教経の正式な部下じゃない。この場でお前を見逃してやれる。だから、その子を放してくれ」


「少年よ。私も別に命が惜しいわけじゃない。終わりとは、我らの野望の事だ…。うまく行けば、天下を手中にできたか…。故にもう、生きても意味はない。当然この子を殺してもな…」


 男は静かにはるを放した。はるは逃げるように慶次郎に抱き着く。


「最後に良い事を教えてやろう…」


 男はその後に言葉をつづけた。


「呪い」


 慶次郎はその言葉を聞いた時、ふとその二文字を頭に思い浮かべる。いかにそれがヤバイ事実なのか…慶次郎も反射的に分かった。


 その直後…、男は、はるを離すと自らの刀を抜いて自分の頸動脈を切り自害した。


 慶次郎は、はるを胸に抱きよせたままその場に固まっていた。


 少し後、教経がやって来た。教経は慶次郎の様子を見ると淡々と部下を手配し、彼の遺体を片付ける。

 

「すまんな。屋敷の敵は直ぐに片づけたのだが、後始末に時間がかかってしまった。まさか、こんな打ち漏らしがいたとは…」


 教経は、はると慶次郎を見た。


「この男…以前、俺と揉めた事がある平重盛という男の縁者だ。考えたくはないが、今回の反乱未遂…平家の人間が関わっている。明日から警戒が厳しくなるぞ。この男、死に際に何か言ったか?」


 慶次郎は黙ったまま首を振った。


「どうした?何か変だぞ?」


「いえ…何も?」


「そうか…。すぐに須磨法の音を家来の者に書き取らせる。今日は、はるも一緒に泊まっていけ。能力の弱点は驚いたが、お前がいなければ、この陰謀、阻止できなかったかもしれん。よくやってくれた。」


「あ、ありがとう…ございます。」


 慶次郎は静かに馬上の教経に頭を下げた。

  

 その時、死んだ男…、平重盛の妻の兄…という事を慶次郎は後に知る。その悪だくみが教経に見つかった事は、少なからず運命だったのかどうか…。その男、死に際に慶次郎に言った。



「平清盛は既に死んでいる。平治の乱の時、源義朝と刺し違え命を落とした。その現場に居合わせた者は敵味方構わず、皆殺された…。これが何を意味するか…お前にわかるか?」

さあ、いよいよ過去編も佳境です。

せっかく仲良くなってきた教経と慶次郎の間に何がおきるのか…!

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