第39話 粟津の戦い1
粟津戦いの時、史実では義仲軍は義仲、今井兼平、手塚光盛、手塚別当、巴の五騎だけだったとか
流石の三盛もギブアップしてただろうな。
○近江国 粟津合戦場
圧倒的、多勢に無勢の中にあって義仲の軍はよく奮闘していた。戦場は、琵琶湖湖畔の森林地帯に移り、その木の影に隠れて、次次と襲いかかってくる義仲軍を鎌倉軍が少しずつ取り押さえていくいわゆるゲリラ戦の様相を成していた。
「義経様の家臣の方々、あちらに手練れがおります。どうか加勢を! 」
声を掛けられた佐藤継信、忠信の兄弟は、その兵士の後を追った。
「まったく、これだけの兵力差を持っていて仕留めきれんとは……。もっと早く我々を前に出してくれたら……」
呆れ顔で継信が言う。
「まあ、良い役職は合流した範頼隊に全部持っていかれたもんね。」
忠信が言う。2人が駆けつけると、多勢の鎌倉軍相手に孤軍奮闘している1人の武将がいる。彼は槍一本を振り回して、襲いかかってくる兵を次次と討ち取っていた。
「あれは……樋口兼光か。あの炎の神器をの。」
「そうだね。でも、彼、もう神器は……」
既に慶次郎が、その根珠を吸収して能力を永遠に失っている事を彼らは知っていた。
「それであの気迫、あの動きか。」
継信はニヤリと笑う。そして樋口に向かって叫ぶ。
「樋口兼光! 源義経が家臣、佐藤継信。貴殿と一騎討ちを所望する! 」
辺りにいた有象の兵を弾き飛ばし、樋口は継信を見る。
「おお。佐藤殿。これはようやく良き敵に巡り会えた。」
そういうと樋口は、満身創痍傷だらけの表情を槍を構えた。
「忠信。手を出すなよ。久々に前衛で接近戦を楽しめそうだ。」
「了解」
忠信がそう言うのを聞くと、継信は刀を抜き、樋口へと切りかかった。神器を使ってないとは思えない、激しい撃ち合いが始まった。
おそらく、継信は神器を使わないだろう。兄はそういう男だ。きっと戦いは長引くだろうと忠信は予想する。
「おう、継信め、ようやく1人見つけたか。」
「鬼三太……」
忠信の背後に鬼三太が現れる。
「忠信。義仲が北の山の方へ逃げたと情報が入った。兵を連れてそちらへと回って……。」
刹那。忠信は『高雄』と『愛宕』の錫杖を顕現し、それを鬼三太の方へ突きつけた。
「お、おい、忠信……。」
「本物の鬼三太は、今の状況を見たら、まず手柄を取られた事に不平を言います。変装能力を使うなら、もっと相手を研究しないと。今井兼平さん。」
それを聞くと、鬼三太はフッ笑う。鬼三太の顔がグニャリと崩れて、別の男の顔へと変わった。
「はっはっは。この神器、ほぼ義仲様の影武者を作る事にしか使っていなかったでな。」
神器『乱れ翡翠』
この男、今井兼平の神器である。自分でも他人でも、会ったことがある他人に変身させることが出来る。
「今、着ている服は、見たところ鬼三太が着てたものですね……彼は……。」
「ああ、向こうで意識を失って倒れておる。少々、そちらを撹乱させてもらおうと思って拝借したのだ。騙し打ちの詫びに
命も神器も取っておらんよ。」
綺麗な女の人にでも変身されてたら、多分、鬼三太は簡単に騙されただろうと忠信は思う。
「私も樋口と同じだよ。良き敵と会えたら、もう小細工は無用。手合わせ願えるかな? 佐藤忠信よ。」
忠信は、無言でうなづくと、錫杖を静かに構えた。
○少し時間は前後して、義仲陣の近く
「弁慶、俺はこれからお前らの陣に特攻をかける。お前は軍に戻るのか? 」
慶次郎と、義仲と巴そしてなつめがその場にいた。
「ああ。義経をなんとかしないと……。」
「がんばんなよ。応援してるから」
茶化すように言った、なつめに慶次郎は「ありがとう」とだけ言った。
すると、義仲は徐に懐から『八咫』を取り出して、慶次郎に渡した。
「お前に、これを預けようと思う。」
「いや、ちょっと待って、それは……。」
「見ての通り俺たちはもう使わない。このまま死んで、鎌倉や大蛇の手に落ちるのも面白くねえ。お前ならいい使い方が見つけるかもしれんしな。」
慶次郎は巴の方を見ると、巴は慶次郎を見て、一つうなづいた。
この世界での目標の一つ、特異霊装がこんな形で……。慶次郎は固唾をのこみ、その鏡を見つめながら、徐に手を伸ばした。
ーーその時ーー
「父様!! 」
なつめの声が響く。3人が声の方を見ると、天狗面の男が1人、なつめを小脇に抱えて立っていた。
「なつめ! 」
巴が声を上げる。男はふわりと中空に飛び上がるとは高い木の枝に着地した。
「大正坊、てめえ。何のつもりだ。」
ーー大正坊……この男が……。
慶次郎はその面を見つめた。
「ふむ。八咫をどこかに隠されては厄介と、陣の周りを張っていて良かった。」
「なつめを離せ。大正坊。『八咫』ならここだ。なつめと引き換えだって言うならてめえに渡す。」
義仲は、慶次郎に差し出そうとしていた鏡を大正坊に向けた。
「違う。義仲。我々の目的は特異霊装が使用される事だ。誰が持っているかはさして問題ではない。」
「まさか……。」
「その『八咫』の鏡を使って義経と戦いたまえ。それがこの子を渡す条件だ。最初からこうしておけば良かった。分かって欲しい。これでも君との信頼関係を築こうと努力したんだよ。」
義仲は悔しそうに唇を噛む。それを見ると、大正坊はなつめを抱えたまま、森の奥へと消えた。
「義仲様……。」
巴が心配そうに義仲に駆け寄る。
「心配するな。なんとかする……。」
言いつつも義仲の顔には焦りの色が見えた。
「義仲様、なつめの為なら、私も命を捨てられます、今は……。」
「それ以上言うな。巴。」
義仲は強い視線で巴の言葉遮った。
「悪いな弁慶。やっぱり八咫は渡せなくなった。」
「ああ、俺はいいけど……。」
「ひとまずは、義経と戦うしかねえな。」
それは義経に宿る『八尺瓊』を覚醒させる事になるのではないか? と、慶次郎は思う。
「何、なんとかしてみせるさ。俺は征東大将軍、義仲様だぜ。」
義仲は、慶次郎の方を向きながら、無理に笑顔を作って見せた。
書き忘れた気がする。忠信の神器は、『高雄』と『愛宕』の二つの能力を錫杖型のひとつの顕現体から使える、特殊なものです。
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