第37話 決意ー巴の場合ー
タイトルのバリエーション…
○京都近郊 鎌倉軍の陣
義経軍は義仲の軍勢と最後の決着をつける為に、粟津の地に陣取った。義経と家来一同は引き離され、彼らへの命令は範頼が彼の家来を通じて行っていた。
決着をつけると言っても、それはもう殲滅戦。落武者狩りと大差は無いくらいの戦力差が両軍にあった。
その日、戦に向かう兵達に総大将の義経が直々に激励を行う事になり、多くの兵の前に義経が姿を表した。慶次郎達、義経の家臣一同は久々にその姿を目にする。5人の家臣には何か物悲しげな雰囲気が漂っている。
「久々に見たけど元気そうで良かったよ。義経様。」
その暗さをなんとかしようと忠信が無理に明るく言う。しかし、家臣達の表情は変わらない。
「どうするのよ。」
慶次郎に日立が訪ねる。
「戦が始まったら、俺、別行動とるから。皆宜しく。」
「ちょっと! 」
殆ど無視して慶次郎はスタスタと行ってしまう。日立はため息をつく。
「まったく、あんだけ義経様一色だったのに、肝心な時に役に立たないんだから。男ならこう……なんとかしないのかしら。いや、それはそれで腹立つけど。」
「だが、それは我々も同じ事だ。今は義経様をこの距離から見ている事しか出来ん」
珍しく鬼三太がツッコミ、日立も黙り込む。
「そんな事より、別行動とはなんだ? 弁慶はいったいどこへ行こうと言うのだ? 」
継信が言う。
「ああ、なつめちゃんだよ。義仲の元へ送り届けなきゃいけないって。」
「ああ、あの娘……よく、この陣に居れたな」
「その辺は、皆苦労したよ。必死に隠してさ」
「ああ、いや、そうじゃなくて……。もうすぐ義仲は死ぬんだぞ。俺達の手で」
4人は、また黙り込んだ。
○粟津 戦場近く
なつめを連れて陣を後にした慶次郎は、彼女おオブり、顕現した『虎徹』を使って山道を急いでいた。義仲達は多分、山道で奇襲をかける気だ。陣の位置は未だ分からない。慶次郎は時折、『数珠丸』を出して周囲を探索する。
「覚悟は決まった? 」
背中から、なつめが声をかける。
「覚悟ならある……でも、自信はない。」
「義経もあいてがこんな男じゃたいへね。悪い男じゃないと思うんだけどな。父様ほどじゃないけど。」
「女の子に容姿を褒められたのは初めてだよ」
「あ、私、あんたの外見は見えてないから。だいたいの形とかしか分からないの。この能力。」
包帯で巻かれた目を慶次郎に向け、彼女はニッと笑った。
「そうだったね。ますます自信が無くなる励ましをありがとう。」
「ほんっとうにヘタレね。そんなんだから、彼女に……」
と、なつめが言おうとした刹那
「まった! 話し声が聞こえる。陣があるぞ。義仲の声も。」
「本当!? 」
『数珠丸』がその気配を捉えていた。なつめは、嬉しそうに声を出す。
もう義仲の敗戦は確定しており、なつめはこのまま陣で隠したままにしておいた方が良いのではないか? と言う意見も出たのだが、彼女は「私は、稀代の武士源義仲の娘だよ。その最期はちゃんと受け止めて見届ける。」
と、言った彼女の気丈さを見て慶次郎達はなつめを陣に送り返す事を決めた。
そして、慶次郎は彼女を連れて、その隠れるように作られた陣のそばまでやってきた。そして、陣のすぐ側……少し離れた場所に義仲と巴の気配を察知してそちらに向かう。そこで彼らは見た。
そう、今まさに巴は義仲の首に薙刀の刃を突きつけていたのだ。慶次郎は咄嗟に2人の間に入って何か言おうとしたが、なつめがそれを制した。
「ちゃんと見届けないと……。そんな気がする。」
彼女は一言だけそう言った。
「『八咫』を渡して下さい。」
巴は義仲に言った。
「お前さんが、特異霊装をどうするつもりだ? 」
「私が使います。あなたを殺して。それしか木曽源氏の家が残る術はありません。」
義仲は巴の方に向き直っていた。ずっと真剣なかおで彼女を見つけていたが、急にふっと笑い出した。
「何がおかしいのです! 私は……」
「いや、悪かった。悪かった。お前を信じてなかったわけじゃないが、あの操作能力を見た後だったからな。安心したよ。いつものお前でさ。」
「私は真剣です!! 」
巴の声が静かな森に響く。陣の中にいる部下気にしてともえは少し声を顰める。
「これが私の……あなたへの忠誠の答えです。」
「ああ、わかってる。お前が冗談を言わないってこともな。だから、ほら。」
義仲は、懐から、あの『八咫』の鏡を取り出し、巴の方に投げてよこした。巴は最初慌てたが、手に取ったそれはすぐに本物とわかったようだ。
「どういう……事ですか? 」
「どうもこうもねえ。お前から言ってきたら最初からこうするつもりだったんだ。俺はお前を殺せねえ。でも逆なら……お前が生き残る道があるならそれでも構わねえ。」
義仲は巴に向かって両手をあげ無抵抗の意思を示した。
「その鏡を通して、俺の心臓を突き刺せ。それが特異霊装を起動させる式だ。一発で決めてくれよ。死んだ事はねえが、痛いのは嫌だ。さあ……」
義仲は一歩も動いていないが、その雰囲気は巴を圧倒していた。巴の薙刀を持手が少し震えているにが慶次郎達からもわかる。
なつめは、おそらくはっきり見えていないだろうその目を彼らに向けて必死に拳を握りしめているようだった。
詰め込まないといけない情報がたくさんあり、話も盛り上げないといけない。物語を作る事は大変だ。
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