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義経異聞伝~ZINGI~  異世界行ったら弁慶でした  作者: 柴崎 猫
源平合戦 木曾の太陽編
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第33話 範頼は語る

さあ、語っていただきましょう

〇時間は少し遡り 宇治川の義仲軍付近


 手塚三盛てづかみつもりが義仲、巴と合流して最初に出た言葉は、「なつめがいませんが……」だった。義仲は、娘が何を考えていなくなったか、だいたい理解が出来た。


「能力を見てしまった弁慶に借りを返すつもりなんだろうな。少なくとも、一緒にいれば見てしまった能力の秘密を俺達にすら話していないって証明になる。まったく、メンドくさい心の開き方をする。誰に似たのか。」


「多分、義仲様だと思いますよ。」


 三盛のツッコミに義仲は「ははは」と苦笑いする。


「笑いごとではありません! なつめにもしもの事があったら、どうするつもりなんですか? 」


 巴に言われて2人は、黙る。


「ま、弁慶達に任せておけば大丈夫だろ……多分? 」


 義仲の台詞に、巴は大きくため息をついた。


〇宇治川 鎌倉軍の陣 夜


「私が……特異霊装を核に生み出された人造人間だと、言うのですか? 義兄様」


 義経よしつねの言葉に、範頼のりよりは静かにうなづいた。


「それが、一番近い表現かもしれないね。あの時……『八尺瓊やさかに』と常盤様の胎内で一度死んだ君の肉体を合わせて生まれたのが君という存在だ。」


 範頼は、先の義経誕生にまつわる話を、うまく「大蛇おろち」の存在を隠し、義経に話をした。義経は呆然とその話を聞いた。横で聞いていた家臣達は、自分が人間と言っていいのかわからない存在だと知った彼女の心情を察するにあまりあり言葉を失った。


「あの状態で、我々がどうしても『八尺瓊』を少しでも安全な場所に隠す必要があったという事。そんな狂った信仰に憑りつかれていた常盤様に君の体が宿っていた事、そして特異霊装を制御できる僕の能力の存在……。様々な偶然が重なって君は生まれたんだ。」


 義経は力無く、その場にひざまずいた。


「なぜ、その事を私に今まで秘密にしていたのですか? 」


「そうだね。できれば僕もそんな君を実質放置して、離れたくはなかった。でも、僕は未だ少年だったし、清盛の決定に逆らう顕現なんて無かった。それに頼朝の兄様に無断でそんな事をしてしまったのは、明らかに源氏に対する反乱行為だ。この事を兄様に言えたのは数年前の事さ。」


「頼朝の兄様は、この事を知っていたと? 」


「ああ。僕が説明した。兄様は、富士川で暴走した時も、君の事を案じていたのだよ。君がもう少し大人になったら、兄様自身で話すからそれまで、僕に暴走がまた起こらないように、起こったらそれを抑えるように……総大将の君の補佐に僕を指名されたのさ。」


「ちょっと、待って下さい。あの暴走はいったい何なのですか? 特異霊装が体内にある事と何か関係があるのですか? 」


 日立がたまらずに範頼に聞いた。範頼はその質問に無言で頷いて続ける。


「特異霊装が義経の体内にあり、その力を元に義経は生きているといえる……が、その力はあまりに強大で、何もしなければ暴走状態をずっと続ける事になるのだと思う。正式に機動させた特異霊装に比べると数分の一の出力だろうがね。僕の神器で常に制御がかかってるうえ、普段は君自身も君の神器『鞍馬』で無意識に力を抑えているのだろう。だが、体に何らかの危機が起これば『八尺瓊』は自らを守る為に宿主の意志を乗っ取り力を暴走させる。だが、それは安定した形状でないうえ、きちんと機動されていない。故に鞍馬を通してその力を外に放出しているのだと僕は考えている……。」


 範頼は淡々と言った。


「元が非道な実験を元にしたものだったからね。義経……。本当に君にはすまない事をしたと思っているよ。とても償いきれるものではない。しかし、全ては君を助ける為にやったのだと理解してほしい。」


それを聞いた日立は「そんな……」と、絶望的な表情をした。


○同 少し離れた所


 仲間達と少し距離を置いて、慶次郎は弥太郎、山吹、そしてなつめと共に、範頼の話を聞いていた。慶次郎の『数珠丸』を使っている。囚われていた慶次郎はすでに仲間の手で助けられて、牢には身代わりに日立が能力で作った慶次郎そっくりな紙人形が置いてある。


「衝撃の事実が判明したって感じでやんすね。」


 弥太郎が呟く。しかし、そうなるともう『八尺瓊』諦めた方がいいでやんすかね……と、彼は呟く。


「主様。主観ですけど、今範頼が話したことは辻褄が合ってるし、説得力もありました。義経様も信じてる気がします。」


 慶次郎はため息をつく。


「そうなんだよな。」


 範頼は会話や演技が生まれつき上手いのだろう。そして話が本当だとしたら範頼は、ただの良い人だ。このままでは義経が身柄を預けてしまうかもしれない。


「落ち着いて。弁慶。あの人は嘘をついている。いくつかの真実を隠してるって言った方がいいかな。そしてきっとそこに、彼の本当の狙いがある。」


「なつめちゃん。分かるの? それも神器の能力? 」


「ううん。これただの女の勘。」


 女?……と、言おうとして慶次郎は口をつぐむ。しかし、なつめの言う事に思い当たる節はある。

 範頼はさっきから、「大蛇」については隠している。義仲が止めた暴走を止めた事もさも自分の手柄のように言ってる事もおかしい。


ーー奴から情報を取らないといけない。でも慎重に……。


慶次郎は大きく深呼吸をして気を落ち着けた。


 




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