第29話 伊邪那美
なんか、この話に出てくる神器や技は地獄とか黄泉の国に関する単語が多い気がする。まあ、登場人物が厨二なんでしょう。
義経はまだ幼少の時から、たまに夢を見る。同じ夢を何度もだ。
その夢で母は見知らぬ男を小刀で刺していた。必死な形相の母。険しくも悲しそうな、それでいてどこか優しい表情で母を見ている刺された男。自分は、その光景を2人のすぐそばで見ているような、俯瞰しているような不思議な視線で見ている妙な夢だ。
今回もまた、同じ夢を見た。最近、この男は自分の父なのではないか? と思う。当然義経は生まれる前に死んだ父の顔を知らない。もし、父だとすると、この夢は母が父を刺している事になる。所詮夢なのだが、いったいこれが何を意味するのか義経は、その意味を見いだせないでいた。今回のこの夢はいつもと一つ違う事があった。それは…。
〇現在 宇治川 源氏の本陣
寝かされていた義経ははっと目を覚ます。起き上がり自分は義仲の神器の中に入った所まで思い出す。しかし、あの神器の中で義仲とどんな話をしたのか、義経は思い出す事ができない。義経は傍らに範頼が立っている事に気が付いた。
「義兄上……。」
「目が覚めたかい? 義経。」
「なぜ、宇治川に? 私はなぜ気を失っていたのですか? 」
「可哀相に。義仲に酷い目に遭わされたようだね。その質問に答える為には、一つ聞いておかないといけない。君は義仲と二人きりの時、何を話たんだい? 」
義経は記憶をたどる。たしか、あの神器の中はどこぞの山の中の景色になっていて…。そこで……。
「聞かれたのは……大蛇について……。」
「そうか、あの男、そこまで……」
そうつぶやいた、範頼の言葉を義経の耳が捕らえる。
「義兄上は何か知っているのですか? 私はたまにある夢を見るのです。母が父と思しき人間の心臓に刃を突き立てている場面です。そして、最近気が付いたのですがその場面にはもう一人側で見ている少年がいる。それは……」
そこまで言うと、義経は意識を失いまたその場に倒れる。
「『八尺瓊』に残された残留思念のようなものが、夢となって義経に認知されているのか……? あるいは……。いずれにしても良い傾向とは言い難いな。」
倒れた義経は不意に立ち上がる。範頼の手にあの『鞍馬』の顕現体によく似た指輪を持っている。
「さあ、義経。掃除の時間だ。」
神器『黄泉比良坂』
範頼の神器であり、対象の神器を操る能力。と範頼は理解しているが、実質、神器の顕現体のコピーを対象から取り出す事で対象を自在に操れる能力と言った方が理解が早い。
義経は既に範頼の支配下にあった。
〇十数年前 「大蛇」の隠れ家
「神器『伊邪那美』? 」
「神器と呼んでいいのかすらわからん。なんせ、その能力の詳細を聞けば、気が狂った人間が考えたとしか思えんぞ。」
常盤の神器につて、説明をしてくれるというその老人と範頼は話をしていた。どうやら大蛇の中で医術全般を担当しているらしい。大正坊は『八尺瓊』に変な細工をされないか見張ってはいるが、興味が無いのか少し離れた場所にあぐらをかいて座っている。
「で、先生……」
「呼び方は、ドクターがええの。遠く海の向こう、はるか西の土地では医術の心得がある者をそう呼ぶらしい。」
小柄でどう考えても自分の方が頭おかしいだろ と、突っ込みたくなるマッドサイエンティストな老人に範頼は、はあ…」と答える。
常盤の神器は、特異霊装に人格を与えて新たな生命……、否、人間を作り出すものらしい。
「お前さんの神器と発想は近いかもしれん。要は特異霊装をなんとか制御しようという所が出発点だ。」
彼らの目の前には、眠っている常盤がいる。このドクターの能力で麻酔をかけているかのだ。
「だが、特異霊装を制御できたとして……。いくら強力な神器を核にすると言っても、1人の人間を丸々1から顕現する事などまあ不可能だ。脳みそに心の臓、筋肉神経、血管に至るまでな。故にこの女はその逆……禁忌に触れるほどのその方法を思いついてしまった。生まれてきたばかりの赤ん坊の体を丸々その神器に捧げれば……。似たような事ができるだろう……と。」
範頼は目を見開く。さっき義朝の話に出てきた、常盤と義朝の間に先に生まれた2人の子供…範頼も何度かみたことがある。2人とも、今のところ普通に成長しているが、神器も持ってないようで死んだ魚のような虚な目をして生きていた。
「自分の子供だけを使ったのは、この女の異常さ故かはたまた最後に残った良心だったのか。とにかく2回とも移植は失敗した。2人の子供はなんとか一命を取り止めているようだが」
流石の範頼も黙り込んだ。
「そんなおり、お前さんが現れた。お前さんの能力なら、別の方法もあるかと思ったのだろう。以来この女は自分の神器の改良をやめた。が、ここにはその助手をしたワシと彼女の研究資料が全て揃っている。」
「今回の……すでに死んだとされるお腹の中の子供を使って同じことをする……と? 」
「ああ。先の2回の失敗は、特異霊装と宿主に本来あった魂のような物が拒絶を起こした故だとワシも彼女も思っている。故に魂が完全に宿っていないが、生きている体を仮に用意できれば……」
「待ってよ。魂がないなら、生まれても意識が無い…ってか結局成長できないんじゃ? 」
「その辺は、この女の『伊邪那美』の性能次第だな。そもそも魂とは魂魄と呼ばれる幾つかの精神体の集合で、この子が欠損しているのは……っと、この話は長くなるからやめておこう。魂については未だよく分からん事が多い。」
範頼はもう一度、常盤の体を見る。
「この子の体にお前さんの『黄泉比良坂』である程度制御した特異霊装を移植すれば……成功する可能性は高い」
範頼は話のスケールの大きさを掴めず、生唾をゴクリと飲み込む。いずれにしても自分も源氏の者だ。ここで「大蛇」に逆らえば、仮に命が助かっても、敗戦の武士として負け犬人生が待ってるだけだ。何より……
範頼は常盤の顔をみた。色々な物を見てしまったが、やはり彼女の事は愛おしい。自分の力が彼女のためになるなら……。
「そう気負う必要は無い。俺達は、八尺瓊隠せればそれでいい。失敗したらまた別の方法を考える」
大正坊がポツリと言った。
「まあ、なんにせよ。まずはお前さんの神器が特異霊装を制御するに至る物かどうか? が問題だ。どうするね? やってみるか? 」
老人は範頼に向かいニヤリと笑った。
説明回はサクサクと
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