第27話 平治の乱
この辺の話。変態しか出ない
○10数年前 源義朝の屋敷
「はっはっは。さすが清盛だ。一対一では、最後まで敵わなかったな。」
男はそう言うと、床にドカッと腰を下ろす。上半身の着物ははだけているが、右肩から袈裟懸けに分厚く包帯が巻かれていてそこにかなりの量の血が滲んでいた。武骨で屈強な体を持つ男は常人ならすでに動く事が出来ないであろうような、その傷もさして気にしていないように見える。
「本当に、ここまでなのですか? 」
彼の横で言ったのは常盤御前だ。男は彼女の夫……。義経の父親、源義朝その人である。現在、平治の乱の真っ最中であったが、戦は終始源氏の劣勢に終わり、彼は最後に平清盛に捨て身の一騎打ちを挑むが見事に破れ、命からガラ屋敷まで逃げかえって来たのだ。
「ああ。もうやるだけの事はやった。悔しいが、ここまでだ。頼朝や一族の者達の身の振り方も何とかなりそうだし……、あとは俺の首を渡せば清盛も納得するだろう。」
義朝は既に死ぬことを決めていた。戦に敗れた軍の総大将だ。当然、そこまでの覚悟が出来ている。しかし、その決断を常盤は快しとしなかった。
「まだ……が、あります。」
常盤は自分の後ろに隠していた、小さな勾玉を義朝の前に差し出した。
「お前、これは八尺瓊……、持ってきたのか? 」
「なぜ、これを使わないのです? 今こそあれを使う時ではないのですか? 」
「前にも言っただろ。これを使えば平家は必ず、特異霊装『天叢雲』を使ってくる。特異霊装は単体で使う危険が高い事は勿論、それ同士がぶつかれば、無関係の犠牲者が多く出る。それは、望む所ではない。」
「しかし、それでは源氏は……! 」
「戦に負けるってのは、そういう事よ。だから、今清盛に一泡吹かせる方法を考えている。あいつはきっと生き残りの源氏を一人も殺せずに地団太を踏む。やつの悔しがる顔が目に浮かぶってもんよ。」
義朝はまた楽しそうに笑った。そして、立ち上がり、八尺瓊をもう一度、近くで見つめ「さて、どう隠すか」と、言った。
「納得がいきません。私はそんな思いをする為に、貴方の妻になったわけではありません! 」
「お前が特異霊装に並々ならぬ思いを抱いている事は知っている。だが、これを使うには生贄が必要なんだぞ。いったい、誰が…? 」
「私が……!! 」
常盤は、必死の表情で食い下がる。彼の背中に、そっと頭をつけた。
「何故、戦わないのですか?! 私の命ならばいくらでも差し出すと言っているではありませんか!!」
その様子を、物陰から隠れて範頼はこっそりと見ていた。自分には決して見せない常盤の必死な表情。
「お前……やはりそこまで……。」
義朝は、そう言うとそっと、しかし冷たく常盤を自分の側からひきはなした。
「常盤。お前が何か異常な物に憑りつかれて、特異霊装を使って何かしようとしてたのは知ってる……。だが、俺は心底お前に惚れていたし、お前のその行為も、いずれも俺や源氏の為になるって信じてた。だがな……」
義朝は時はの方までずかずかと近づくと、その腹に手を添えた。
「この子は俺達の3人目の子供だ。上の2人に……。お前、何をした? 」
常盤はそれを聞くと、はっと義朝から目を反らした。
「俺の主観だが、2人とも生まれた時は必ず神器使いになるってくらいの強い生命力をもっていた。だが今は……、まあ、見た目にはわからんが多分、生まれた時は体内にあったはずの神器は失っている。そのくらい内在する力が弱っていた。お前……俺達の子に……。」
常盤は俯いたままだ。
「信じたくは無かった。大義の為、大事を取るって言っても越えちゃいけない一線ってもんがある。だから、俺はお前を……」
そこまで言うと、常盤は、はっと顔を上げる。
「まさか、この前私を襲った刺客は……?! 」
「お前が3人目を身ごもったって報せが無かったら、すぐに次の手を考えていたさ……。」
それを聞くと、常盤は力なくその場に座り込んだ。
「だが、それももうどうでもいい事だ。俺はここで死ぬ。もしお前に少しでも人の心が残ってるなら……3人目は天命を人並みに全うするよう面倒みてやってくれや」
そういうと、義朝は部屋から出て行こうとした。
「私は!! あなたを愛していました!! 」
「俺もだ。常盤。」
「でも、私はそれを置いてでも成しげたい事がありました。でも、貴方への愛に嘘はありません。あなたなら、きっと一緒にそれを成し遂げてくれる伴侶になってくれると思ったから、私は本当にあなたを……。
「知ってるよ。お前は根は優しくていいやつなんだ。だから俺はお前を好きになった。」
義朝は優しく言った。
「どうか! どうか、殺すつもりだったというなら、私を生贄に『八尺瓊』の力をお使い下さい。そうすれば、全ては収まります!! 私はどんな形でも特異霊装が一回でも多く使われる事を目的にここまで……!! 」
「それは出来ない。」
その言葉を聞くと、常盤は大きく目を見開いた。そして、目の前にあった『八尺瓊』を手に取り、逆の手は懐から小刀を抜いた。
見ていた範頼は思わず「えっ」と声を上げる。
そして、その勾玉を義朝の心臓に押しあて、小刀を勾玉ごと突き刺した。普段は硬い勾玉はまるで、その実体がないかのように刃を通し、その白刃は義朝の心臓に刺さった。
「かくなる上は、私が……あなたを生贄に……!! 」
義朝の胸から、とめどなく血が流れていた。
この人、義経の母なんだよな…
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