第25話 黄泉比良坂
「そこから先は地獄だぞ。」
黄泉比良坂とはそんな場所の事です。(多分)
〇やはり十数年前 源氏の屋敷
神器『黄泉比良坂』
この時、源範頼が顕現した神器である。その顕現体は、小さな鉈である。前話で書いた通り、その能力は対象である神器使いを意のままに操る事が出来る能力……と、ここではしておこう。
式……というか使用方法は、対象である神器使いの体に左手で触れる。すると、左手にその神器使いが使用する神器の顕現体が握られる。だが、その顕現体は細い糸で対象の体と繋がっていて、そのままでは引き離す事は出来ない。そこで、彼の顕現体である鉈でその糸を切ると相手の顕現体を自分の物にできる。ただし、この過程は全て相手が意識を失っている、もしくは相手の同意の元に行わなければならない。
顕現体を取られた相手は意識を失い、範頼の意のままに操れる。しかし、あくまでそれは神器を使う事を前提にした行為に限られているらしい。顕現体を範頼に取られていても相手が能力に使う際の顕現体(例えば鬼三太の薙刀のようなもの)は相手にきちんと残ったままである。これは一人の人間の神器を範頼が二つに分けているのではないか? と、常盤御前は予想した。
そして、常盤が目を付けたのは、まさにその神器を二つに分けるという、一点である。
「これは……。」
ある日、範頼は常盤御前に案内されて、義朝の屋敷の最奥にある空間に案内された。設置された祭壇に安置されている、勾玉……。神器に良く似た……。しかし明らかに異質な、そして桁違いに強力な圧力をそれから範頼感じ取った。
「話くらい聞いた事あるでしょ? 特異霊装『八尺瓊』よ。」
それが本物である事はある程度神器が使えるものなら……あるいはそうでなくても、一目瞭然だ。
「い、いいんですか? 父上に内緒でこんな所に来て……。」
既に義朝との間に2人の子がいる常盤だが、いくらなんでもこれに近づく事すら許されない、それだけの代物だ。
「大丈夫よ。ちゃんと話は通してあるし……これは元々私の一族が義朝様に献上したものだから。」
この人は本当に何者なのだろう? と、範頼はまだ幼い頭で考える。
「あなたの神器でこれを分割できないかしら? まだ、あなたの神器はその姿が定まっていない。今から能力をみがけばきっと……。」
ーーああーー。
常盤が自分に何をさせたいのか分かった。「神器を支配する神器」特異霊装を支配できれば、それを顕現させた能力者をも支配できる。生贄など何も危険を冒す事無く……。顕現に男女の強い情愛が必要になるという特異霊装を顕現した者を催眠、洗脳、あるいは誘惑する事はまず不可能と言っていい。だが、元の神器そのものを操れたら……。しかし、相手はあの特異霊装だ。自分なんかの神器でどうこうできる物ろは思えない。
そこまで考えると、常盤の手がスッと範頼の肩に伸びてきた。彼は抱き寄せられる。香の良い香りが鼻をくすぐる。
ーーあなたは、自分が思ってる以上に歴史にとって重要な存在なの。大丈夫。私に全て任せて……とっても素敵な景色を見せてあげるから……
範頼は、常盤の胸で静かに目を閉じた。この時、既に範頼の心は常盤に鷲掴みにされていた。常盤の笑顔が見られるなら……。特異霊装を操る為、神器に自分の命を捧げる式を組み込んでも構わない。範頼はそう思っていた。
〇現在 宇治川 近辺の丘の上
そこを歩いていた人は、その時、突如何も無かった道に急に数人の人を乗せた巨大な馬が現れるのを見た。黒蹄獣に乗っていた慶次郎が『三日月』を解除した為、それに乗っていた数人が姿を現したのだ。
義仲が切られそうになったあの時……。慶次郎は、咄嗟に『三日月』を発動して義仲を拾い上げて助けた。そのまますぐ側に立っていた、巴と三盛の体に触り、範頼の前から姿を消す事に成功したのだ。
巴は黒蹄獣の前に義仲、後に慶次郎を乗せ、片方の肩に三盛を最も簡単に担ぎ上げて3人の男をここまで運んできた。
ーーまったく、なんて怪力だよ……。
と、これは心の中の慶次郎。
「もう大丈夫だ。一回仕切り直しといこう。」
言ったのは義仲だ。3人の男は次々と巴の黒蹄獣から降りる。
「助けられちまったな。弁慶。だが、なんで助けた? 得する事なんざ一つもねーぞ」
「あの状態から誰にも気付かれずに離脱できるとは、凄いな。完璧な隠密能力だ。あれがお前の隠していた切り札というわけか」
言ったのは巴だ。
ーー本当に何故、義仲を助けてしまったのだろう? きっと、『三日月』もなつめに見られた可能性が高い。
「多分……、範頼が嫌いだから……だと思う。」
義仲はキョトンと慶次郎を見つめてから、大きな声で笑った。
「はっはっは。なんにせよ助かった。死ぬ覚悟はしてたつもりだが、まだ少しやる事ができちまったからな。」
死ぬ覚悟ーー。一同が、その言葉に固まった直後……。
「父様!! 」
突如走ってきたのは、なつめだ。どうやら、なつめはこんな所から戦場を見ていたようだ。もう、『三日月』は彼女の神器で見られてしまったのだろうか? だとしたら、もう『三日月』は終わったと考えていいだろう。義仲はなつめを抱き抱える力も残っていないようで、力なく彼女の頭を撫でた。
「いったい、どういう事ですか? 義仲様……。」
口を開いたのは、三盛だ。
「さっきの野郎……いや、さっきの野郎と関わりのある組織と何か取引をしてたって事ですか? それに特異霊装って……。」
「いや、三盛。気持ちは分かるが、今は少し義仲様を休ませてはやらんか? 」
巴が宥めるように言ったが……。
「答えて下さい!! 」
三盛の声が響いた。義仲は一つ、ため息をつく。
「しゃあねえな……。弁慶に借りを返さないといけねえ。俺が知る限りのことを話してやる。特異霊装の事……、大蛇の事、そして……」
義仲は間をためて慶次郎を見ながら言った。
「源義経の事を。」
おねショ○…なのかな?これは。
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