第23話 源範頼
シークエンス 義経出生
スタートです。
〇十数年前
ーー何故、戦わないのですか?! 私の命ならばいくらでも差し出すと言っているではありませんか!!
いつも優しい笑顔を見せてくれるその人は、その時、真剣な眼差しでそう言っていた。
源範頼の幼少時代は孤独なものであった。父は言わずと知れた、当時源氏の棟梁、義朝。そんな父がどこぞの宿の遊女に手をついて生まれたのが範頼だ。彼の母は側室として屋敷に招かれたものの、元々自由を好む気質だった故か、堅苦しい屋敷仕えと武家の妻のドロドロとした上下関係にすっかり心を病み、意味もなく幼い彼に辛く当たる事が多くなった。彼が義朝の跡取りとなれば、未だそれもマシだったかもしれない。だが、彼が生まれた時、既に義朝には正室、由良御前との間に頼朝が生まれていた。順番的にもまた頼朝の才覚的にも彼にその鉢が回ってくる可能性は皆無であった。さらに母を苛立たせたのは、範頼が武士としての才にあまりに乏しかった事である。特に神器を持ちながらも彼はあまりに長い間その能力を顕現する事ができなかった。その為、彼は特に棟梁の息子だからとひいきされる事もなく、目立たず地味に少年時代を過ごしていた。それでも彼は少しでも源氏の役に立とうと、勉学と神器の知識だけは誰にも負けないくらい努力して身に着けていったのだが……。彼が10歳の時、母親は彼を置いて義朝の屋敷を出て行った。心を病んでいた事を知っていた義朝は彼女を探さないよう部下に指示したが、皆、一緒にいなくなった若い側用人と駆け落ちしたのだろうと噂をしていたものだった。
範頼12歳。後ろ盾のいない彼は早々に元服し、屋敷の警備という一番下っ端のする仕事をこなし、なんとか源氏の家にいる事を許されていた。そんなある日の事、彼が夜番で門の前に立っていた時の事。月明かりに照らされて遠くから牛車が来るのが見えた。話は聞いていた。たしか側室の1人、常盤御前なる人がどこかの偉い公家衆の家に遊びに行っていて、帰りが遅くなるから、彼女の牛車が来たら門を開けるよう言われていた。前を歩いていた、牛車の護衛の兵の身分を確認した彼は、門を開け静かに頭を下げ牛車が通り過ぎるのを待った……。
が、次の瞬間轟音が鳴り、牛車が突如横倒しになる。どこに隠れていたのか、3人の男が飛び出してきた。「襲撃か……」範頼は思う。男の一人は体を覆い隠すほどの巨大な扇子を持っている。警備兵の中に弓型の神器を使う男がいた。彼が襲撃者に向かって弓を射たが、襲撃者はその扇子をブンと振るうとその弓の神器は力なく弾かれた。即座に残り2人が警備兵と牛車の護衛を次々と倒していった。警備兵も抵抗し、男の一人を倒すが、残りの二人の男の力は警備の兵力を上回っているように見えた。やがて、範頼も男達が迫る。顕現も出来ずまた肉体強化もなされていない神器使いの彼では到底そのテロリストに敵わず、あえなく吹き飛ばされ兵に強く背中を打ち付け地面に倒れた。このまま死んでしまうのだろうか? 朧気な意識の中で彼は倒れた牛車から常盤御前が一人、結構な量の血を流して倒れているのが見えた。だめだ。今警備兵の自分が諦めたらこの人が殺されるか連れ去られるか……、どのみち酷い目に遭う。なんとかしないと……。彼は無い戦闘経験を必死に振り絞って頭を捻った。何か使える物はないか? 戦場を見回すと、すぐ近くにさっき倒されたテロリストの一人が倒れているのが見えた。なんの直感がそうさせたのか、範頼はその倒れた男の体にそっと手を触れた。
ーー自分の影に実体を与え、様々な形に変えて操る能力。影の中に発生する異空間に若干の人や物を隠して運搬する事も可能。
ーー!!なんだ?今のはーー
範頼が相手の体に触れた瞬間、瞬時に頭の中にそれだけの情報が一気に流れ込んできた。これは、もしかして自分の能力なのか?
ーー範頼は直感でそれを理解した。この能力でなんとかこの状況を……できるのか?
彼はその頭で必死に考えた。
まさかの範頼編…彼の変態性の秘密が明らかに!
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