第11話 勝負あり
尺いっぱい使ったから三ちゃんにはいっぱい活躍してもらおう。
〇京 義仲の駐留地 庭
「いや、おかしいだろ。128倍って!! 抗力は? 絶対自分の拳……っていうか、体がバラバラになるやん! 」
慶次郎は動揺して、騒いだが同時に心の中で、まあ神器の力を使ってるならそんな能力もあるのか? と、思っていた。
「弁慶。当たったら危ないのは通常の拳でも一緒だ。その神器の真価はその威力を目くらましに組手を有利にすることにある。つまり……。」
「おおっと、継信さん。それ以上の助言は反則ってやつだよ。」
義仲が、継信の言葉を切る。
「うるせえよ!! 継信。だったら、お前がやれよ! 距離とって戦えるだろ! 」
義仲は「あ、あんま助言になってないか」と、楽しそうに言った。
「ははは。楽しそうな組だな。お前らの所も……。」
手塚三盛は笑いながら言う。
「やっぱ、嫌だよな。これから殺す相手と先に会うってのはさ。やりにくくなる…」
悪びれもせず、言った言葉に慶次郎は少しムッとして言う。
「勝てると……思ってるのか? 義経に」
「え? だって、義仲様が負ける訳ないだろ。」
慶次郎は、三盛を睨む。
「お前ら……。いつまでおしゃべりしている気だ。まだ試合中だ」
言った言葉に慶次郎と三盛は会話を切り上げてお互いに構え合った。
「行くぞ……。」
と、三盛が言い終わらないうちに、慶次郎は三盛に向かって走り出した。そして、虎徹を使って、次々と蹴りを繰り出した。
「なるほど」
三盛は慶次郎の蹴りを受けながら思う。確かに、拳を打つ間を与えなければ、神器は使えない。まして技名を呼称しなくてはいけないという式は近接戦闘では、かなり重たい。しかし……。
刹那、慶次郎は顔の横に僅かな風圧を感じて思わず、上体をのけぞらせた。三盛の上段蹴りが慶次郎の顔前を通過する。
「一の拳、杜若」
素早く追撃した、三盛の正拳が慶次郎の肩をかする。
ーーダメだ。当たった……。
「二の拳、巌蓮華」
間髪いれない追撃がさらに慶次郎の顔を捉える。4倍の拳。顔面に当たったら死ぬ。慌てて慶次郎は右手でそれをガードする。ゴキっと凄まじい轟音が周囲に響き、右手に焼けるような痛みが走る。
「弁慶!! 」
忠信の声……。
「まずい。折れたな。あれでは一発逆転の『鬼丸』が……。」
流石に、止めるべきだと、継信が立ち上がった瞬間……。
「神器、『数珠丸』!! 」
慶次郎の左手で鈴が音を出す。三盛は苦痛に顔を歪ませ、耳を押さえる。いつか、義経に使った音を増幅させ、相手の鼓膜を破るほどの轟音を聞かせる、最後の最後の切札。三盛の隙を見た慶次郎は左手の拳が三盛の顔面を捉える。間合いが近過ぎて蹴りが打てなかった。でもその脚力と体重を存分に乗せた拳。これで落ちてくれ。慶次郎は心のなかで祈る。が……。
「三の拳、はまなす」
ーーやっぱりダメかーー!!
慶次郎は腹部に凄まじいボディブローを受けて瞬間で意識を失った。
「弁慶!! 」
忠信が慶次郎に駆け寄る。継信も続く。
「はい。そこまで。」
義仲が言った。三盛は、よっしゃ。と小さく声を上げた。
「三の拳が、ほとんど交差法で入ったな。忠信。早く手当を。っていうか、生きてるか? 」
忠信は涙目でコクコクうなづく。そして慶次郎を担いで義仲の家来に案内されて奥の部屋へと帰っていった。
「やりましたよ。義仲様。やっぱ俺の方が強かった! 」
「なーに、言ってるの、三ちゃん。弁慶は本気を出してない。そうだろ? 継信さん」
継信は黙っている。
「どういうことっすか? 」
「なつめ、巴、いるんだろう? 出てこいよ。」
義仲に呼ばれて、奥の障子が開き2人が出てくる。2人は申し訳無さそうに見える。
「全く、つまんねえ事しやがって。男の勝負に水刺すんじゃねえよ。今の勝負、なつめが『照神眼』を使って弁慶の神器を解析してたんだ。多分、弁慶は最初からそれに気づいてた。弁慶は何かしら切札の神器を使ってない。動きがどうも最初からぎこちなかった。」
「そんな……。」
三盛は呆然とする。
「なつめの解析によると、弁慶は最大7つの神器を顕現できる。使ったのは3つだけ。今の攻防も、2回目の二の拳を防御したのが左手だったら……、三盛は負けていました。すまない。お前の勝負を私が汚した。」
巴は三盛に頭を下げた。継信ため息をつく。
「神器を封印したのは弁慶の判断だし、肝心な時に右手が使えなかったのは奴の誤ち。負けは負けです。」
「ま、こっちの土俵に上がってもらったんだしさ。勝ち負けは俺が預かるよ。それでいいな。三ちゃん」
三盛はそれを聞くと静かにうなづき、自分の拳を見つめた。
技名を繰り出すときに叫ぶのは分かりやすいし、リズムが出る。と書いてみて改めて思う。何事にも理由あるものだ。
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