第9話 手塚三盛
この人に尺を使い過ぎな気が…
〇京 義仲の駐留地
なぜ、こうなった……?目の前でストレッチをしながら、やる気満々でこちらを睨んでいる手塚三盛を見ながら慶次郎は思う。
「悪いけど……手加減はしない。殺す気でいくよ。」
「うす。構わないっすよ。」
慶次郎は、冗談じゃない……と、思いながらも答える。
当然、継信は意味が解らないまま、この試合を断った。しかし、元からダメ元で頼んできてくれと言われた和睦。もし、この試合で義仲の考えが変わるなら……また、義仲の心中を何か察する事が出来るのではないか? と思い、一度受けてみて欲しいと慶次郎に継信は言った。そして、心配そうにしている忠信を「まあ、死なない程度にやってみる」と説得した。
ーーまあ、ダメ元だからな…
と、慶次郎はため息をつく。
当の義仲は随分と楽しそうに2人の若者の試合を見ている。そういえば……。
慶次郎はふと気づく。さっきまで随分と煩さくしていた巴御前がいない。あの性格からしてこの場を離れるとは思えないけど……。慶次郎は無意識に数珠丸をこっそりと衣服の下に顕現して使った。
ーー 本当に7つも神器を顕現できるのか? 奴は。
義仲が座っている裏の障子の向う側にいるに巴御前の声を拾う。7つの神器……まさか、自分の『七つ道具』の事なのか?
ーー うん。今やっと一つ……神器を顕現したよ。名前は『数珠丸』効果は……あ、これ、まずい……。
巴のすぐ横に、幼い女の子の声が聞こえる。そして、その言葉を最後に巴の言葉もその子の言葉も聞こえなくなった……。どういう事だろう? 慶次郎はひとしきり考えて思い当たる。解析系の神器か!?
おそらく顕現している所を目で見ることで相手の神器を解析できる。慶次郎が勝手に決めた『数珠丸』と言う名前。そして……慶次郎が神器なのかどうかもはっきり把握していなかった『七つ道具』も神器と認識している点を考えると相当な解析能力と見ていいだろう。そしてあの女の子は数珠丸が音を操る能力だと気付いて、話す事をやめた……。
こっそり障子の裏から見ていた事を考えても義仲に黙って慶次郎の神器を解析しようとした……っという感じだろうと、慶次郎は予想する。
ーーまずいな……。
慶次郎は思う。切り札に使うはずだった『三日月』が使えない。三日月は解析されたら弱点はまさに一目瞭然。しかも情報として敵軍……そしてさらに外部にも伝わったらジ・エンド。今ここで見せるわけにはいかない。三日月無しで果たして勝てる相手だろうか?
慶次郎は手塚三盛なるその武将を見る。若いが肉体は鍛え上げられていて、体育会系のエースと言った面持ち……何より何故かこの試合にやる気満々だ。普通に戦ったら絶対勝てない。
「決闘の前に考え事? 余裕だね。」
三盛が話しかけてきた。
「あ、いや別に……そう言うわけじゃないです。」
「君、歳いくつ? 」
「こ、今年で二十歳になります。」
「なんだ……タメかよ。」
タメって言葉あったの?と、慶次郎は思う。そして彼は静かに拳を慶次郎に向けた。
「弱そうだから、もっと年下と思った……。」
決して油断はない。慶次郎では到底及ばない神器のプレッシャーを感じる。残念だが、この男、相当強い。慶次郎は冷や汗をかく。
「おーい。三ちゃん。殺気になってるぞ。ごめんね。弁慶君。そいつ、若いのに既に戦場で武勇を上げてる君に嫉妬してるのさ」
「いや、それ、言わないで!! 」
悪いやつではないのか……。その漫才みたいなやりとりを見て慶次郎は思う。やはり戦の前に相手に会うのは色々と良くない。
「ま、まあでも弁慶。一度手合わせ願いたかったのは本当さ。この状況は願ってもない。」
「うす。」
「同い年なんだから、タメ口でいいよ」
少し笑顔に戻って三盛はそう言った。
「よし。準備はいいか? 始めるぞ」
義仲はいった。慶次郎はふと、継信と忠信の方を見る。「頑張って」と、忠信はうなづき、継信はこちらをただ見つめていた。
義仲以下、家来とこの2人は縁側から庭の慶次郎と三盛を見ていた。2人は庭の中央でお互いを見合う。
「刀……使わないの?」
三盛は言う。
「あんま、得意じゃないのと……神器使うのに邪魔になるから。そっちこそ、やっぱり手加減してくれるんすか? 」
「いいや。俺も本領はこっちだから……。」
三盛は静かに拳を構える。拳法家のようだ。そして……。
顕現…神器『百花』
三盛の両手に手甲が顕現された。
「気をつけたほうがいいよ。俺、義仲軍の中じゃ一番強いから……。」
三ちゃん、神器をもったいぶる。
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