第8話 和睦
慶次郎、義仲、巴と初対面。
〇一週間前 鎌倉 義経の屋敷
「和睦……? 」
ある日、義経に慶次郎をはじめ5人の直属の家来達が集められた。そして、言われたのは、義仲との和睦交渉をしてきて欲しいとの事だった。もう、雪解けの季節を待って京へ進軍を開始しようと言っていた矢先の話だったため、5人は互いに顔を見合わせた。
「まあ、兄上にお話しをしたが、あくまで名目だけ和睦の降伏勧告ならば良いと言われている。お前達も解っている通り今回の戦、源氏同士で戦っても平家が喜ぶだけの話……。できれば避けた方が良い」
「この条件で……、義仲が応じるでしょうか? 」
義経に渡された、頼朝から指示されたと言う和睦状……というのはあまりに不平等なそれを見た鬼三太が義経に言った。
「まあ、普通の武士なら応じないだろうな。しかし義仲は部下の面倒見の良い情に厚い男だと聞いた。聞く耳を持ってくれるかもしれん」
「戦力的にも政治的にも、こちらが有利……、一応、大義もある。こちらから和睦を持ちだす意味は何? 」
日立のその言葉を聞くと、義経は彼女の方を向いて悲しそうに笑う。日立はそれを見て、それ以上聞くのを止めた。
「使者には継信が出てくれ。忠信と……あと、弁慶も補佐を頼む。」
慶次郎はその問いにうなずきはしたが、義経を怪訝そうな顔をして義経を見つめているだけだった。
義経が去って、部屋には5人の部下のみが残された。
「どういう事だろうな。こんな土壇場になって和睦とは。」
鬼三太が怪訝そうに言う。
「どうでも良い。俺は義経様の命令をただ遂行する。」
継信は表情を変えずにそう言った。
「そうね。普通の武士は今から殺し合う相手と事前に会いたくなんかないし。義経ちゃんはアンタのそういう所を見て使者の役に選んだんでしょうけど。」
日立と忠信が慶次郎の方を見る。
「な……なんだよ。」
「いや、アンタ、さっきから黙ってるから。何か思い当たるフシがあるのかな?って」
「戦嫌いの弁慶なら性格的に和睦は歓迎でしょ? 」
「まあなあ……。でも、忠信よ。今回は……」
「今回は? 」
「多分、義経はまたあの暴走をする事を怖がっているような気がする。皆なんとなくは察しているだろ? 」
鬼三太以外の3人は、それぞれに複雑な表情をする。実際、史実にほぼ忠実な形で現在歴史は流れている。多分、いくら義経が嫌がった所で義仲との衝突は避けられない。義経の為に何かをしなければならないとは思うが、ここは無理に歴史を変えようと動くべきか? 慶次郎は決めかねていた。
「単純な言葉で言える事じゃないだろうな。義経は覚悟を持って戦いには取り組んでいる。でも、あの原因不明の暴走をまた起こしてしまうのは……やっぱり、怖いんだろうな」
慶次郎の言葉を聞き、皆、その場で黙り込んだ。
「ええい、お前ら! ちょっとは俺を見習ってバカになれ。義経様はそんなヤワな武士ではない。結局、我らがお守りすればよいだけの事。戦になったら、義経様をなるべく前衛に出さないようにし、いざ出るならこの身を盾としてお守りする。それだけの話だ」
鬼三太は憮然と4人に言った。
「そうね。アンタのそういう馬鹿な所は確かに私達も助かってるかも」
日立はクスクスと笑いながら言う。鬼三太はそれを聞くと、「なんだと!! 」と、怒鳴った。
〇再び、現在 京 義仲の駐留地
「ふざけるな!! 」
恐ろしくドスの効いた女性の怒号が屋敷中に響き渡った。目を見張る程の美人だが、それを一発で打ち消すこの気迫。彼女が多分、巴(ともえ
)御前だろうと慶次郎は思った。
「何が、和睦だ。これでは無条件降伏も良い所だ。我らは、その全てを頼朝に差し出し、木曽に引っ込んでいろということか!? 平家を京から追い払った一番の功労者は誰か! それが解らぬ頼朝ではあるまい」
巴は一気に、継信をまくし立てた。
「しかし、それは平家側の策だ。結果、京は混乱しそれを抑え込むだけの力はあなた方には無かった。」
突如、ドカっという、音が室内に響き渡る。巴が床を拳で叩いた音だ。床に見事に穴が開いている。
「落ち着け、巴……その床。後で直しとけよ。なあ、継信さん。弟さんもいるから、名前で呼んでもいいかい? 」
継信はうなづいた。
「こんな不平等な和睦、武士なら到底結べるものじゃない。義経さんは、そんな事も解らない人なのかい? 」
「義経様もそうおっしゃられた。しかし、同時におっしゃられた。義仲様なら、大義を取って素直に負けを認めてくれるのではないか? と。このまま源氏同士でぶつかれば、得をするのは平家。今、源氏同士で戦っても、兵を無駄死にさせるだけのこと。」
「ふーむ。こりゃあ、随分と過大評価だなあ……。じゃあ、継信さん。聞き方を変えよう。悔しいが、今回の戦、アンタらの方に分があるのは事実だ。だが、ならなぜそちらから、名目だけとはいえ講和を持ちだした? 何か腹に隠してると思うのが普通だよねえ……」
義仲と継信は静かに見つめ合った。
「少なくとも、義経様はそんな政治的な駆け引きが出来るお方ではありません。純粋に無駄な血を流す事を避けようと思い、頼朝様に講和を提案したと聞いています。」
「と、言われても俺っちは義経に会った事もないからなあ。信じろって方がなあ…。」
「何が……おっしゃりたいので? 」
「お、話が早いねえ。継信さん。どうだろう、今からそちらとこちらの代表一名、ちょいと神器を使って試合うてみないか? 」
「おっしゃる意味がよく……」
「難しく考えないでくれ。親睦を深める為。まあ、それっぽく言うなら拳で語り合えば真の友情が芽生える的なさあ…。」
昭和の硬派ヤンキーかよ……と、慶次郎の心の中。
「もちろん、タダでとは言わない。そちらが勝ったら、今の講和条約、全て飲もう。」
「義仲様!! 」
巴の声が響く。
「こちらが負けたら? 」
「まあ、特に希望は無いんだが……、強いて言うなら、変な小細工無しに普通に戦してくれ。それでいい」
流石に継信も1人でこれを決めていいのか返事に迷う。
「こちらの代表はここにいる彼……手塚三盛に任せよう。」
義仲は、自分の後に座っている若い武士を紹介した。
「ちょっと待って下さい。まだ勝負を受けるるとは。」
「できれば、そちらに代表はそちらにいらっしゃる、武蔵坊弁慶殿に願いしたいのだが。」
へ? と、大間抜けな声を上げた慶次郎を見て、義仲はニヤリと笑った。
意外な提案を意外な提案で返す義仲…
なんか、義仲戦に内に書かなくちゃいけない事が多すぎてまた長くなりそう…
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