とある冒険者の転職事情
面接室に入ると、厳めしい顔の面接官が2人座っていた。張り詰めた空気の中、僕は2人に履歴書を差し出す。
『冒険歴』
職業『遊び人』
転職理由。遊んで暮らしたいです。
「イチ、ニ、イチ、ニって駆け足でもしてるの?しかも、運だけゴとか、ゴーって、あはは。何処に向かってるのよ!あはは」
(未来だよ)
【大爆笑された初期ステータス】
職業『騎士』
転職理由。笑われたくなかった。
「好き!私と付き合って!君を一目見て、気づいたの!私には君が必要なのよ!」
僕のステータスを見ながら、女の子が獲物を発見したように真剣に言う。
「……!?」
(……僕を肉盾にするつもりか!?)
【パーティー勧誘が紛らわしい】
職業『勇者』
転職理由。女の子と2人っきり。必要なのは勇気だった。
「初めて2人っきりだと緊張するね」
「んー!」
「私の見込んだ通りね」
「んー!」
「君はとても魅力的だわ」
「んー!」
(んなことより、解け!)
僕は簀巻きされながら心から叫ぶ。
【初戦闘が囮役】
職業『盗賊』
転職理由。縄抜けの必要性があった。
「ドキドキするね」
「なあ、やっぱりやめないか?」
「ここまで来て怖気付いたの?男らしくないわよ」
「わ、分かったよ!」
覚悟を決めて、僕はゆっくりと近寄る。
そして……
ガブリ
【ファーストキスの相手はミミック】
職業『戦士』
転職理由。宝箱が怖い。
「ねえ、キスしよ?」
「やだよ」
「いいじゃない、少しだけだから」
「……やだよ」
【キスがドレイン系】
(※50%の確率で即死します)
職業『武闘家』
転職理由。素早さがあればキスを回避出来ると思った。
「やっぱり回復役は必要だと思うの」
「うん」(切実)
「そこで、あの子。勧誘してきて」
カウンターで1人飲んでる女の子の神官を指差す。仕方ないからそこまで行き、その神官に声を掛けた。
「よかったら一緒にドキドキ(生命の危機)の冒険をしないか?」
「うーん。その前にこれを見てどう思う?」
神官はワインボトルを見せてくる。
「?」
「もう、これで分からないなんて……なら、ほら!これも見て!」
今度はコルク栓を見せてくる。
「?」
「コルク栓のここ!ほら、下の部分だけ湿っているでしょ!そしてこれをボトルの口に、情熱的にねじ込むの!嫌がりながらも、まんざらでもないボトル、そして強気なコルク。これはもうボトル受けのコルク攻めよね?」
(何を言ってるのか分からない)
【そこは腐海。3分で心を腐らせる】
職業『料理人』
転職理由。食べ物くらい、腐ってない物がいいと思う。
「ほら、お肉が焼けたわ」
「美味しい!」
「あぁ。うまいな」
「ほら、またお肉が焼けたわ」
「……美味しい」
「……うまいけど」
「まだまだ沢山あるわよ!好きなだけ食べてね」
「……」
(野菜も大事だと思う)
【肉オンリー肉食系BBQ】
職業『占い師』
転職理由。もう未来を占うしかなかった。
「愛情を込めた手料理よ。さあ、召し上がれ」
「女の子2人の手料理が食べれるなんて、この!幸せ者!うりうり」
「お、おう」
そして食べているが、何故か2人はジッと見ているだけだ。
「なあ、2人は食べないのか?」
「ん?ほら、私たちは後で食べるから」
「そうそう!気にせず男らしくモリモリ食べて!」
そして食べていると、意識が朦朧としてきた。
薄れゆく意識の中で、微かに2人の話し声が聞こえる。
「やっぱり毒だったみたいね」
「ええ。このキノコ危険だわ。見てるだけでドキドキするもの」
【毒キノコより危険な仲間たち】
面接官たちが履歴書を真剣に見ている。だが表情が険しい。もしかして、転職しすぎたのだろうか!?
これはマズイ。
僕は急ぎ拝み倒すことにした。
お願いします!
どうか忘年会ギルドで働かせて下さい!
なんでもしますから!
この言葉に面接官たちは顔を見合わせると、2人ともニヤっと笑った。
よし、手ごたえありだ!
「今、なんでもするって言ったわよね?」
(ん?声が女性だ)
「確かに言いました」
(しかも聞き慣れた声……)
その瞬間、面接官2人の姿が見慣れた女性の姿に変わる。
(!?)
状況が把握出来ず驚いてる僕の側に2人は来ると、両脇をがっしりと掴まれた。
「え!?どう言う事?なんで2人がここに?」
「年末で忘年会ギルドが忙しいからバイトを頼まれたのよ」
「臨時の面接官です」
「それにしても、なんでもしてくれるなんて……素敵ね」
「あの、私。是非ともして欲しい事があります」
「あら?何かしら」
「彼をゴブリンの巣穴に放り込んだら、果たしてゴブリンと彼との間に愛が芽生えるのか知りたいの……くふふ」
「まぁ!種族と性別の双壁を越える愛ね!胸がキュンキュンするわ」
そして僕は女の子2人に挟まれ、ズルズルと引きずられながら運ばれて行く。
これを両手に華というのだろう。
幸せそうに笑顔を浮かべる女の子2人に挟まれた僕は、すれ違う男たちにこう言われた。「クソッ。リア充かよ!」「許せん!」「うらやまけしからん!」「リア獣討伐クエストはまだか?」などなど。
僕はリア充らしい。
つまり、リア充とは常に生命の危機に晒され続ける猛者の事なのだろう。
僕はリア充より、平穏な日々が過ごしたいです。割と切実に……
【リア充ばろぅメーター】
☆☆☆☆☆
クリスマスは恋人と楽しみます
★☆☆☆☆
片思いの人に告白します
★★☆☆☆
好きな人は何故かいつも2次元
★★★☆☆
お酒と恋愛は二十歳を過ぎてから
★★★★☆
街にいる恋人たちは全てエキストラ
★★★★★
バルス