復讐するは我にあり
文明度の低い地域で医療活動をしたことがある。
田舎でお大尽をしたことがある。
弱きを助け強き(勧善懲悪)を挫く。
そうすると。
弱者がわらわら寄ってきて、感謝感謝の雨霰。
何処に隠れていたのかというくらいの人間が、英雄を一目見ようと巣穴から出てくる。
ハイエナのように湧いてくる。
それが悪いとか浅ましいとか言ってるんじゃない。
全てただの生存戦略。
赤ちゃんが可愛いのも。
若い女が可愛いのも
子猫子犬が可愛いのも。
弱者が可愛いのも。
感謝は気持ちがいい。
生きている実感すら湧く。
特に弱者のものが。
だからたくさん寄付をするし――弱者救済のためだけに寄付をするわけではないが――人道的支援――弱者救済のためだけに支援をするわけではないが――もする。
「ミロク殿には、是非我が家を継いでいただきたい」
褐色の異国の奴隷にこの地の殿様が縁談を乞いにきたのも、その一環だろう。
「はぁ。そうは言われましても、私はこの国の人間ではないので難しいのではないでしょうか。肌の色も風貌もまるで違いますし、この地に住まう多くの方々が納得しないのでは?」
お前らってばほぼだいたい顔平たいしね。黄色いし。
俺はお前たちの向けてきた侮蔑や恐怖の目を忘れないよ。
「いやいやそんなものは些細な事。肌の色など。世の中は食うて糞して寝て起きてさてその後は死ぬるばかり。しからば貴殿はそれをお許しくだされた御仏の使わせし救世の光。まさに弥勒菩薩」
「ぼさつ……」
なるほど。
言葉の意味は分からないが、悪い意味ではないのだろう。すげー褒められている雰囲気すらある。
そんな気の利いたセリフをすらすらと言えてしまうとは。この地の人間らしからぬウィットなお言葉。
賢者かな。
なんだっけ? ここに住んでいる人間は二つ名とか三つ名とか名前をいっぱい持っているというのは男女のノートで知っているけれど、この人も出家してたくさん名前を持ってる偉人だったっけか。
確か、いっきゅうそうじゅんぜんしとか言われていたような。
つまり僧侶の中でも一級だという意味なのか。
あぁ。賢者か。
理解。
「露も貴殿の事を慕っておる。まさに親兄弟と接する、いやそれ以上に」
「え……はぁ、さようですか」
あれが?
あのクソガキジャリたれが?
あれ慕ってんの? まじで?
「まぁその、保護者の代わりになるくらいのお話という事でしたら、お力にはなれるかも知れませんが」
「はっはっは。ミロク殿。貴殿は器が大きいな。なるほど保護者ときたか」
何がツボだったのか。本間宗純氏はえらい笑い出した。
だって小学生と成人が結婚しちゃダメだろ。
小学生をママにはできないだろ?
子供が子供産むって……あ、文明度の低い地域は寿命が短いからそういうのもあるのか。
とはいえ、どうかな。遺伝子的に。
受精はしても着床はしないんじゃないかな。
「民も貴殿を慕っておる。崇めてすらおる。貴殿を弥勒菩薩と思って疑わぬくらいに。婚姻に異を唱える者は、この佐渡にはおらぬだろうよ」
「はぁ」
「それに貴殿にも信用が生まれる。本間家の次期当主として正当に認めらたなら、この島に住まう者皆がひれ伏すであろう」
「ひれ伏していただかなくてもいいのですが」
頭を垂れてつくばえだっけ、お宅のお嬢さん。
どういう教育されていらっしゃるの。そういうのやめた方がいいと思う。馬鹿の気が晴れる以外のメリットがないから。
でもまぁ、現地民の協力はあったほうがいい。俺には色々やることがあるし。用意とか仕込みとかに取られる時間は節約したい。
――女神の言う素敵な世界とやらをぶち壊し、俺の土俵に引き釣り出す。
奴の権能を盗めれば、元の世界に帰れるかもしれない。
四次元に干渉できる力があれば元の世界にも戻れるはず。一方通行ってことは無いだろ、相対性理論的に。
――そうしたら、きっと復讐ができるはずなんだ。
復讐するは我にあり。
ならば神をまず取り込もう。物理ともども。




