第二粒「聖魔石獣に生まれ変わりました」
「あいててて………。ここ何処だ?」
真っ暗な景色の中、意識だけ取り戻す。頭がガンガンと痛む。喉もカラカラに渇き、気分が優れずにいると奥から水滴が滴り落ちる音がした。水を求め、音だけを頼りに奥に突き進む。いつもならもっと早く走れる気がするのだが今日だけ思うように進まない足にイライラしつついると、狭くて暗い道から広い洞窟に出た。洞窟中に這えている青白い光を放つ結晶が洞窟内を照らす。
「綺麗……!」
幻想的な風景に見とれていると小さな水のほとりを発見した。
「水だ……!」
水があると分かると自然と足も小走りになる。ほとりに駆け寄ると夢中になって水をがぶがぶと飲んだ。水を飲み、喉の渇きが癒えると、そこでようやくほとりに写りこむ何やら奇妙なものに気がついた。後ろを振り返っても誰の姿もない。恐る恐る自身の顔を触ってみたり変顔をしてみたりすると、向こうも同じ動作をする。
「なんじゃこりゃー!?」
全身を覆うのは服ではなく灰色の毛で二つに割れている尻尾、大きい耳と目に、狐みたいに尖った鼻。しかも、両手には猫みたいな柔らかなぷにぷにの肉球までついている。そしておでこに付いた大粒な紅色の宝石。
「服着てないからこれって全裸!?公然猥褻罪?!!っていやそこじゃないか」
愛らしい容姿ではあるものの、どっからどう見ても人間ではない。でも自分は確かに人間だったという記憶はある。これは一体どういうことだろう?取り合えず、ここがどこなのか調べなければと近くにあった岩場を触ってみると。
『スキル分析を発動―――。分析終了__エメラルドの原石を取得しました』
「急に声が頭の中に………」
急に頭の中にメッセージが流れ混んできた。
「スキルということは……これは個体特有の特殊能力ってことかな?」
岩場だと思っていたこれはどうやらラッキーなことにエメラルドの原石だったらしい。
『精製加工合成術を取得。エメラルドの原石に精製加工合成術を使用しますか?』
「ん、なんじゃそりゃ?」
なんのことか分からないで取り合えず『はい』と返事をする。すると原石が青白く輝きを放つ。
『精製と加工に成功。魔石エメラルドを取得しました』
「うほぉー!」
目の前の綺麗に加工されたエメラルドが現れる。初めて見る生のエメラルドに余計興奮が冷めやらない。これは面白いと、どんどんとスキルを使って生産していく。
「あははは、これどうしよう………」
つい調子に乗って取り過ぎてしまった。こんもりと色彩豊かな鉱石の山が出来る。もったいないけどこんな小さな体ではこれ程の量の宝石は持ち運べない。仕方ないけどここに置いていくしかないかと諦めかけていると急におでこに付いている宝石が輝き放つ。
「おぉぉ!何これ凄い!!」
おでこの宝石が輝くと宝石の山がみるみると吸い込まれていく。どうやらこのおでこに付いているこの紅蓮の宝石は持ち物を自由に出し入れができる収納機能も備わっているらしい。
『ほぉ……!聖魔石獣とはこれまた珍しい生き物がまだ生きておったとは』
「んっ?」
声の主を探し後ろに振り替えると、そこにはぽつりと建っている苔色に包まれた随分と寂れた祠とその横に並ぶように岩の上に座る小柄な白ひげを蓄えた一人の老人がいた。
「カーバンクル?って何それ?動物の名前?」
『聖魔石獣。ありとあらゆる鉱石に精通し、宝石や金属をも探知する能力に長けており、生成する才を持つ聖書『六十六聖獣』にも登場する聖獣の一匹。つまりお主のことじゃよ』
「うわぁ!お、おじさん誰?」
『わしか?わしはこの祠に宿る神様じゃよ。元はここの鉱山に宿るドワーフという石の精霊だったんじゃが、人間たちに信仰され今はこの鉱山を守る土地神をやっとる。と言ってももうその信仰も薄れ、消えかけ寸前なんじゃけどな』
「本当だ……おじさんの体が透けて見える」
神なんていきなり言うものであるから半信半疑であったが、老人の姿はもう向こう側の景色が見えてしまう程薄れかけており、まず人ではないことを示していた。陽気に振る舞ってはいるが声には覇気がなく、どこか弱々しく感じた。見知らぬ老人とはいえ放っておくことなど出来ず、声をかける。
「あっ、じゃあ、僕がおじさんを信仰すればいいんじゃないかな?そしたら信仰は守られて、僕一人の力だから弱いかもしれないけど存在ぐらいはできるじゃないかな?」
「いいや。わしは最初から神ではなく人間たちの信仰により神になった者。人間からの信仰ではないと意味がないのじゃよ。最近では精霊を見える者も少なくなってきた。それに祠に奉納されておる宝玉もここ数十年もろくに手入れもされていなかった為に大分がたがきている。依り代である宝玉が壊れ、信仰も失い、そうなれば土神となったわしは形を保てなく消滅するだろう」
ぽつりぽつりと語った老人は穏やかな表情だが、どこか儚げで悟ったような顔をしていた。
「人間は目に見える者しか信じぬ。だが、それもまた時代の流れ。諸行無常が常なこの世界、人間たちを恨みはせぬ。だが、変わりに行く世界の姿を見れず人知れず消えるのはちと寂しいのぅ………」
「おじさん………」
悲しそうに俯く老人の姿に元気だった祖母と祖父の顔が重なった。




