第三十七話 娘と義父
夜明けの空にある少し欠けた月、それを綺麗に映す湖。
懐かしい、私は満月の中ノアと初めてここで出会ったんだっけ。
エルリアは約束の夜に湖の前にある木をダーインスレイブで切り倒し切り株を作るとその上に座ってお義父さんを待っていた。
足音はない、だが地面と同化し私の背後に接近してくる気配を白眼が教えてくれる。
「やぁやぁエルリアちゃん、待ったかい?」
「足音立てず背後からって
私があなたの嫌いな王国の騎士様だったら切られても当然だったわよ?」
「これはこちらのほうが驚いたわい、完全に気配を消したつもりだったんじゃがの」
「どーでもいいけど交渉するならノアを出しなさい。」
「相変わらずせっかちじゃの」
スミスは相変わらず動かす振り向きもしない私の前に立つとその腕には何も巻かれてない、しかしいつもと違って目の輝きがないノアの姿があった。
湖を背にノアとスミスが目に入る。
またも白眼が役に立つとは
すぐにノアの心を覗くと様々なスラムの現状やリベリオンの目的が見え、そして彼自身は私の言葉次第で行動を決めようとしている、魔王を倒すのは変わらないようだが
スミスが話そうとした時手で静止させる。
そして私は強い口調で言った。
「素晴らしいわよね共産的で平等な世界。
でも世界ってのは弱肉強食で強者の便が立つように出来てるの。」
「なるほどワシの理想は昔から語っておったから云わずとも分かっているか
わしらはそれを無くし弱者も皆等しく生きる世界を創る」
スミスは前会った時と違い生気がみなぎり自身に満ちていた。
「でも貴方達は負けたから今の世の中を乱しスラムの印象を悪化させた。
それどころか犠牲者を生んだせいでその関係者は余計苦しんだ人もいる。」
無論私と私のお母さんの事だ。
私は話を続ける。
「残念な事に何度も言うけど世の中は勝者の便が通るようにできてる。今の王国は勝者であり強者であるから今の世の中が安定して成り立つ。
弱者がこの世の中を回すのならそれはどんなに本人にとっての理想でも安定もしないし潰される。」
ノアは私の言葉に複雑な心境を持っているようだ。
「お主はスラムの出身じゃろ?
お主の父が死んだのも、母親が死んだのも、お主の体が汚されたのも全てが今の王国のせいなのじゃぞ!?
それについて王国に反感はないのか?」
スミスは私に歩み寄ると両肩を掴みとても強い口調で私に急き立てた。
「ない、と言ったら確かに嘘ね。
でも状況は変わった。全人類を敵とする魔王を倒すのが私達の目的。
過去に縛られて前に進めないあんた達程私は弱くない。」
私は両手でその体を突き放す。
「そんな詭弁はいらぬ。
今現在にも病弱な子が死のうとしてるのじゃぞ!」
「事実でありあなたこそ詭弁よ。
あんたらは弱いの、生まれつきその定め
幼いうちに死んでしまう子もその定め
そこから抜けて自分が強者になろうとしたところで例えれば翼のない鳥は飛べないしエラのない魚は水で息できないのよ。
重要なのは本来こなすことの出来ない運命に抗うのではなく定めによって与えられた片付けるべき事をこなすこと
魔王倒さなきゃいずれみんな死ぬんでしょ?
ならむしろ魔王を倒す瞳の勇者に選ばれた貴方こそ私達と共に闘わないと」
「つまり、リベリオンには入らぬと」
「ええ、魔王を倒してもね
貴方達が王国を担っても国のトップに法学、経済、国政何一つ教養が勝てない貴方達が何もできるはずもない
向き不向きの結果誰が一番向いてるかの結果今の王国があるの
古いリベリオンの考えにいつまでも縛られないで」
「…相容れぬな。
わしは絶対に王国には屈せぬぞ!」
「ギルド瞳の勇者第何ヶ条だっけ忘れた
瞳の勇者の裏切り者は総叩き」
私はリベリオンによって父や母や人生を台無しにされた事を思い出たせ力を入れると赤い波動に染まった髪も赤く染まる。
「それは…!第二形態」
スミスが震え後ろに下がろうとするが
「グリムゾンノヴァ!」
エナやエリックが瞳の勇者の能力に技名を付けていたので私も適当に付けてみた。
口から赤いレーザーを放つ。
それはスミスの右腹を消し飛ばし奥の湖で大爆発を起こした。
もうスミスはここで殺し、私の能力の一つにした方が使えると判断した。
「ごめんなさいね、スミスおじいちゃん
貴方の力は私が引き継ぐから」
スミスの体が割れていく筈だが不思議と石化した後崩れていく。
「そうか、残念だ。これはダミー、紫眼の能力の一つじゃ。
エルリアちゃんとは敵になりたくなかったのじゃが
次会う時は覚悟するのじゃな
お主が好きな力による正義を行使してでも
それとノア、お主も残念だ。
魔王を倒す方に最優先に意識がむくとは」
消えゆくと同時にその声が響く。
それが消えきった時、暗い表情で
伏し目がちのノアの顔を私は抱きしめた。
「おかえり、ノア」
「ただいま、エルちゃん…!」




