プロローグ
蛇足な部分は一週間したら消します。
「あーもー、つまらん、つまらん人生がものすごくつまらん!世界は僕の思い通りに動かないのか!」
いきなり自室でちょっと頭が可哀想な悲鳴をあげているのは、上白 豊葵
この物語の主人公だ。
この物語はこの数奇な運命を辿った、不遇な一人の男の人生についてだ。
豊葵は聡明でありそれ以上に不運であった。
豊葵の不運は保育園に入園したときに始まった。
豊葵は元々大人しく、人に促されないと自分の意見を発しない典型的な人見知りの子供だった。
だからこそ、何かがあっても親には報告しないし、何か嫌なことがあっても何も言わない。
最初の悲劇はそうして始まった。
最初は罰だった。
本人は何も悪いことをした覚えはなくとも、罰を受けたからには何かをしてしまったんだろうと、大人しく罰を受けた。
次第に何をしても怒られてしまうようになり、何もしないようになると今度はまた何もしないことを怒られた。
でもきっと自分が悪いからと、自分の意見を飲み込み、抵抗せずに罰を受けていた。
豊葵は、それをすぐに自分の親に言えば良いものを、罰を受けていると言うよりも、作り話でも保育園であった楽しい出来事を言った方が皆が笑ってくれると無意識でも意識的にも分かっていた。
『みんなにわらってもらいたい』
最初はそんなかわいい子供ちっぽけな願いから始まった。それが自分を苦しめる枷になるとは知らずに。
保育園の虐待が発覚したあと、遠くの幼稚園に転入し、そこの職員たちにも優しくされ、友人が出来た、が。
それは豊葵にとって嬉しくもあり、同時に疑わしきものでもあった。
いつかこいつ等も自分を裏切るのでは無いか、と。
まぁ。それくらいで不遇な、と銘打った物語の主人公がこれだけで終わるはずもない。
―豊葵の姉が反抗期に入った。
それだけならまだ「お姉ちゃん怖い」位で済むはずだった。
だが、力が強くなってきた豊葵の姉を押さえつける際に親が取った手段は、平和な日本で暴力というものに触れてこなかった豊葵には衝撃的過ぎた。
父親は姉が泣きわめき謝っても頭や胸部を、加えて首を隠すような髪型なのをいいことに首や耳といった普段隠れる場所に狙いを付けて、執拗になぶっていた。
それを母親が止めることもなかった。
次第に姉の反抗期は悪化していき、豊葵のストレスは増える一方だった。
上白家は昔、名のある武家だったのかもしれない。
だからこそ本来は育て方が厳しく、どこかで育て方を間違えたと親が反省して厳しくしたのかもしれない。
だが、豊葵は一度も「この家はは誇り高くて豊葵もそうしなければいけない」などといった教育は受けておらず。
少なくとも豊葵にとってはその出来事は予想の付かない不運な事故であった。
そして、「教育」が行われている声はいつしか豊葵の耳にこびり付いていた。
だから豊葵は現実ではなくインターネットに執着した。
常に同じものを与えてくれる機械が、音楽が好きになった。
大きな物音がすると怖くなって夢中で歌を歌う。それでも音が聞こえて、次の日には何事もなかったように振る舞う父が怖くなった。
歌い疲れて、それでも夜が眠れないなら友達と一緒に買ったゲームをする。それでも何かが邪魔して夢中になれるものは少なかった。
それもすべてが親が悪いわけじゃない。少なくとも姉が反抗的な態度をやめればそれで終わりになることは分かっていた。幼いながらも喧嘩をするところを見たくなくて、それを姉に伝えて止めたところで姉も親もどちらも止まる気は無かった。
何が原因だったのか、自分は何も知らずに呑気にしている間に苦しんでいた人に対して何を言えば止まってくれるのか、何も分からなかった。そしていつしか思いつく限りのことをやってみたあと、自分がいかに無力でなのか。これからは何もできずに、この嫌な音を聞き続けなければいけないということを分かってしまった。
自分もいつかああなってしまうのかと。
これからは逆らってはいけないと。
そう思うたびに息苦しくなっていった。
―だから豊葵は考えることをやめた。
保育園に行き、走りたいと思ったら走る、やれと言われたことをやる、それだけをする人形になった。
何故ならどれだけ考えたところでまるで意味がなかったから。だから考えるのをやめた。
それからは自分の夢を追いかけることも誰かの意見に反対することもなくなった。
何故なら言葉で伝えても何も変わらなかったから。だから人とのコミュニケーションに意味を見いだせなかった。
それからは豊葵は自分の心を守るために壁を作って人を信じないことにした。
6歳の豊葵には現実を受け止めるだけの心の強さは無かったから。
現実を、目の前のことを理解するだけの賢さだけはあった。
―――親が子供に暴力を振るっている。
能天気なバカを演じても誰からも、それこそ親からもばれないくらいには賢かった。
――逃げられない
――抗えない
――助けられなかった
――僕たちはなんでまだ生きてるの?
――でも死にたくない
――痛いのは嫌だ
――怖いのも嫌だ
―――そうだ。逆らわなければいい。僕がここから出て行くまで
豊葵が変わったのは中学の二年生の進級間際のことだった。
豊葵が中学に入学した。
中学にもなると、思春期で簡単には言うことを聞かない生徒が出てくる。
豊葵が入学した学校では、生徒を制御するのは恐怖だった。
男性教師が怒鳴って、それを怒鳴られるのが嫌だから生徒は言う事を聞くようになる。
すると、それを見ていた豊葵は昔の怒り狂い怒鳴っていた親の姿がフラッシュバックしてしまい、無意識にその人には近づかなくなっていた。
そして豊葵の学年には女性の担任は一人しかいなかったので、自然にその人しか教師の中で味方はいないと考えてしまっていた。
2年生上がってからの運動会で体力は無かったが、スタミナ以外の反射神経などの運動神経が良かったため、豊葵は運動部でもないのに、一人で出れるだけの競技全てを入れられてしまった。皆が希望通りのところに行きたいと言っている中、豊葵だけがどこでもいいと言ったことで、学級委員が穴が空いたところに入れた結果だ。
「無理ですよ。
測定だって一つ一つ別で測定した結果ですし、体力無いから途中で倒れてしまいます。」
「大丈夫だって、豊葵君だったら出来るよ。
出来なくても誰も何も言わないから。」
当然反対したが、柔らかくも辞退は許されなかった。豊葵がやらなければ誰かがやらなければならなくなってしまう。だからこそ誰も豊葵が辞退することは認めなかった。
そうなると豊葵はいつもどおり深く考えずに成功したら御の字、失敗しても失うものはないと考えて練習はほぼ何もせずにのほほんと開催当日まで過ごしていた。
結果はもちろん大失敗。
豊葵は前日から緊張していたのと、持ってきたはずの水筒が無くなったのと、豊葵の出る競技がほぼ校庭が暑くなる午後からだったことで日光に弱いこともあり最初の徒競走でバテた。
誰かが仕組んだように豊葵にとって最悪の状況が整ったことで豊葵にとってかなり厳しい体調で望むことになった。
消耗が激しい中、次の競技だけ出てみたが、タイムは練習で出た記録の1.5倍程のびていた。
バテた状態で更に運動をしてしまった豊葵は、このあとはクラスの皆に任せようと朦朧とする意識で考えて保健室で眠りに落ちた。
その後の豊葵のクラスは学年最下位になった。
運動会後の豊葵の学校生活は地獄だった。
運動会では事前に登録した人だけしか出れなかった。
豊葵の登録した競技は、基本的に誰もやりたくなかった競技だったため誰も補欠をやりたくなかった。
もうすでに豊葵がやると決まっているんだから補欠を決める必要は無いだろうと自分がやりたくないという感情を棚に上げて、責任をすべて豊葵に押し付けたのだ。
そんな事情があったとしても関係ないと言わんばかりに、クラス内にいた運動会での一番の戦力の運動部の人気者が最下位になった原因を豊葵だと断言したこともあり、はっきりといじめが起きた出来事は無かったが、クラスでは邪魔者扱いされた。
主張としては「俺も同じ数の競技に出たけど最後までやりきった! なのにあいつは練習にも出ずにいた癖に、殆どの競技を休んで最下位すらも取れなかった! 明らかにアイツのせいで負けただろ!」と言うことだった。
その場に豊葵は居なかったが、殆どのクラスメイトの目の前で大声で話したものだから、他のクラスでも話題に出るほどに話は広まっていた。
曰く、「あのクラスは豊葵っていう足手まといが居ながらも頑張ったらしい」と。
それを先生に報告してもホームルームで、「いじめに関して」と黒板に書き。
「皆さんも豊葵君も一生懸命頑張ったんです。なので責めるのは止めましょう。」
の一言だけだった。
当時の豊葵は先生という職業は生徒がいじめやそれに似た出来事を聞いていれば、最低限でも運動部のやつに話をするくらいは、と考えていた。
それが普通の大人のする対応だと思っていたのだ。
それがなぜ仕事を放棄するような真似をするのか豊葵には分からなかった。
生徒たちは先生がいじめ問題に真面目に取り合ってないと分かると、豊葵でストレスを発散するとばかりに嫌がらせを始めた。
そのことを先生に言ってみても、
「あなたも悪いところがあるんじゃないの?ちゃんと話し合ってみたら?」
と、即答されただけだった。
そこで豊葵は考えた。
<人形が動き出した>
―――何故、先生は僕の話を聞いてくれないのか。
―――何故、先生はあのとき嘘をついたのか。
―――何故、こんな先生がまだ先生を続けられるのか。
―――何故、僕がこんな仕打ちを受けなきゃいけないのか。
―――何故、あいつらは自分が悪くないと思っているのか。
―――何故、そんなに怒るなら自分達でやらなかったのか
―――何故、一口も水筒をくれなかったのに。僕に押し付けるんだ。
―――何故、何故、何故、何故、何故、何故、何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故
そんなことを学校にも行かずに、親になんと言われてもずっと部屋で考えていた。
信用ができないから行かない理由も言わなかった。
そして考えてるうちに豊葵はこんな結論に至った。
「自分は過去のトラウマに囚われて、今目覚めた。」
そして周りの人は
「こんなことが起こる社会が作った教師や子供や統治者を含めて、社会の何処を探してもバカしかいない」
という結論に至った。
それからは人と仲良くするのはやめた。
拒絶するわけではないが、約束をわざと忘れたり、天然のふりを痛いところをついたりして相手をイラつかせた。
だけど、豊葵は自分一人で抱えて生きていくのは重すぎると考えた。
このまま一人で抱えていたらいつか壊れると。
だが、警察に行くと親は虐待で逮捕されるかも知れない。
妹もいるし、弟も居るからそれはしたくない。
だから信頼できる人に話した。今までのトラウマに完全に無関係な人にだ。
その人は、豊葵とは小学生からの付き合いで中学に入ってからは仲が良かったがクラスは別れたいじめに関係ない人。
その人に話してみると。
「うん、話してくれてありがとう。他の人にも色々と相談してみるから、今は我慢して。」
と、言われた。
実際、聞いてもらうだけが目的だった。
こいつは話すことも最低限にするし大丈夫だろうと豊葵は、他の人にも話すことをしていいかと聞かれて許可した。
その後の学校で環境はあまり変わらなかった。
強いて言えば、
「豊葵は、運動会のことを過去のトラウマのせいにしている。」という噂と、
「豊葵は、自分の境遇を使って同情を得ようとしている。」等の噂が流れ、いじめがひどくなっただけだ。
それを不審がって、その友達とは距離をおいた。
その後必要な回数だけを登校して近くの高校に進学する事にした。
学校を公休にするために出た高校の説明会で暇そうにあくびをしていたら。
「ねぇ、そこの暇そうにあくびをしている君
僕も暇だからあっちで話そうぜ!」
明らかに変な声のかけ方だったが、確かに暇だったし、話しかけてきたのが明らかに自分より年下で見るからに弱そうだったので「何処かに誘拐されるような危険も無いだろう」とついていった。
何やら単純に遊びたかったらしく、奢りでいいからとカラオケや、スポーツができる施設に行ったりと豊葵は何も考えずに楽しく遊べる事が久しぶりで、いつしか初対面だということも忘れて遊んでいた。
そこで豊葵はなにを考えたのか、今までのことを話した。なぜ初対面なのに遊びに行ったのか、自分の重要な話を自分から切り出したのか分からない。
だが、少なくとも話したくないと考えるほど無邪気な笑顔を信用できないほど堕ちてはいないし、自分を楽しませようと自分の行きたい場所を聞いてきた気遣いに対して鈍感では無かった。
「大変だねー。僕とにてるし。」
話したあと、その相手が言うには、自分の場合は信頼できる人に裏切られたり、親からはあまり愛情を注がれなかったり、賢いがゆえにいじめを受けたこともあったという。
そこで豊葵は救われたと思ってしまった。
自分は一人じゃないと。
物語のような自分の味方をしてくれる人はいないと思っていたから。
自分と同じ境遇の人がいたことに救われたと思ってしまった。
そして豊葵は、この相手は敵か味方か疑う必要はないと思ってしまった。
その後にも豊葵は色んなところを連れ回された、ボーリングや動物園、博物館、水族館、遊園地と様々な場所に行った。
それこそ今までの鬱憤を晴らすように。
何も考えずに。
しばらくして、行く高校を同じ高校にするぐらいには仲良くなっていた。
『そいつ』は豊葵より年下で、その頃の自分は不眠症で目付きが悪いと自覚していたが、それでも話しかけてくれたし年下なのに自分よりも頭が良かった。
自分より頭が良いくせに運動神経も自分よりも高くて、ちょっと自信があったゲームでも負けた。
豊葵と遊ぶうちに無邪気にジェットコースターで喜んだり、ゲームに負けて本気で悔しがったり年相応の様子も見せてた。
豊葵は産まれて初めての純粋な才能への嫉妬を自覚しながら好意を抱いた。
もちろん友達としてだが。
そして一緒に高校に行って、同じ授業を一緒に受けて、家に帰ってからインターネットを使って話したりもした。
そしてその生活も終わりが訪れる。
―『そいつ』が死んだ。
出会ってから半年たつかどうか位で死んでしまった。
交通事故だった。
友人と言うことで警察に教えてもらったのは、暴走したトラックに壁と挟まれて、ぺちゃんこにされたそうだ。
運転手も即死。
責任の所在は弱小企業に行き。
なら、最後に友達としてその会社にやれるだけやってやる!
と決意したが、成人前の友達だったというだけの豊葵には法の力の前で何か出来る訳もなく。
自分の子に対してあまり関心がなかった『そいつ』の親は、最初に警察に提示された金額の慰謝料だけを受け取って、示談に終わったそうだ。
それを聞いてから、身近な人が死んだのが初めての豊葵は荒れて、豊葵の人間不信には拍車がかかり、力を持っていない自分と何もしない社会を死ぬほど恨んだ。
何度も何度も自分が事件の時に一緒に居なかったことを後悔して。
「もっと素直に凄いと言いたかった」と自分の嫉妬に悔悟して。
「もっと一緒に遊びたかった」と自分のそいつへの想いに涙して。
どうせなら自分が死んだほうがいいと、何度も自殺をしようとしたが、泣きそうなそいつの顔が浮かんでしまう。
豊葵は家のドアを開けながら、いつも一緒に登校していた友人の無邪気な笑顔を思い浮かべて、独り呟きながら歩いていった。
「お前は今の僕になんて言うんだろうな。
「情けない」、かな。
「人が一人死んだ位でそんなになってどうする!」とかそんなとこだろ。
合ってるか?」
そんなことを豊葵の思いなど取るに足らないこと、と思わせるような空に呟きながら、あいつと約束した高校へと歩いていく。
登場人物(存在が確定した人物)
・上白豊葵
・両親
・妹
・豊葵が相談したやつ
・交通事故で死んだやつ
・↑の親
・運動部の人気者
・怒鳴った先生と豊葵のトラウマに気づかせた先生
・豊葵の幼稚園の友人
・幼稚園の職員
追記10/2
事件だとか裁判だとかは詳しくないので余り気にしないでもらえると嬉しいです。




