三話
やっと…目的地の図書室にたどり着いた…。
ここまでの道のりは長かった…。
早く歩きすぎて上がってしまった息を整えてから、図書室の扉を開け中に入る。
相変わらず利用者は少ない。
周りを見渡すが馴染みの顔しかいない。
そのことをなんだか嬉しく思った。
図書室は私のお気に入りの場所なのだ。
ここには授業の資料に必要な図鑑や歴史書から最近はやりの娯楽本まで何でも揃っている。
司書さんに頼めば、新しい本を買ってくれることだってある。
皆なぜこんな素晴らしいところを利用しないのか不思議だが、利用者が増えて自分が読みたい本が読めなくなったら困るので言わない。
図書館では2週間しか借りられないが本の貸し出しもやっている。
だが、私は図書館の静かで落ち着いたこの雰囲気の中で読むのが好きなので、あまり借りない。
それに部屋にも本が沢山あるので、混ざると困るというのもある。
最近のお気に入りの本を持って、いつもの指定席に座る。
室内の端にある小さめの丸い木のテーブルに同じく木でできた椅子に座って読むのが私は少なのだ。
椅子にはお尻が痛くならないようにクッションが引いてあるので座り心地も良い。
何より端っこなので、人の気配で気が散らなくて集中して読める。
一度本を読み始めたら周りが見えなくなるので、関係ないと言えば関係ないのだが。
そこは気持ちの問題である。
今日は珍しく話しかけてくる人がいた。
「やあ、今日は遅かったんだね。いつもは一番乗りなのに。」
私は本から顔をあげ話しかけてきた人を見た。
ロエ・シーマニアだった。
私のクラスメイトにしてリリーの兄で幼馴染みでもある。
彼は、茶色い髪に光の加減によっては濃いオレンジにも見える琥珀のような瞳を持っている。
そして大き目の黒ぶち眼鏡をかけている。
前髪が少し長いせいで折角の美形が隠れてしまっているのが彼の幼少期からの残念な所だ。
彼は名門シーマニア伯爵家の嫡男らしく成績優秀で、運動が少々苦手のようだがそれでも人並みには出来る。
たまに抜けているところがあるが、基本的にしっかりしている。
それにクラスの委員長もやっている。
彼もまた大変とまではいかないがモテる。
ただ彼はアルとは違い密かなファンが多いと言った感じだ。
彼にはアルと同い年の婚約者がいるのだが、二人で並んでいると大変絵になった。
いつも不釣り合いだとか、月とスッポンならぬ太陽とスッポンと言われる私たちとは大違いである。
因みになぜ、太陽なのかと言うとアルの容姿は月よりも太陽のようだからだ。
「ええ。面倒なご令嬢方に捕まってしまって。」
室内で大声で話すのはマナー違反だが、小声で少々話すことは問題ないのである。
「そうか、君も災難だったね。」
「ええ、本当に。アルと婚約してから碌な事がないわ。」
「あはは、君も大変だな。」
そう言って私の頭を優しく撫でてくれた。
ロエは私がアルと婚約した経緯や苦労を知っているので、いつもこうやってからかっているのか慰めているのかは分からないが慰めてくれる。
婚約者がいる身同士こういう事をするのはあまりよくはないが、幼馴染という事は周知の事実だし、ロエは異性というより私的には同い年だが、お兄ちゃんという感じが強い。
ロエの婚約者もその辺は理解してくれているらしく、こういう光景を見ても兄妹で禁断の愛などと呟いていた。
私が言うのもあれだがあの子の頭は大丈夫だろうか。
ロエの婚約者は見た目はさながら妖精のように可愛らしいのだが行動と言動が変な時がある。
大変残念な子である。
「笑い事ではないのよ。他人事だと思って。」
ちょっとむくれてそう言った。
「ごめんごめん。それじゃあ、邪魔して悪かったね。」
「ええ、また。教室で。」
そう言ってロエは手を振り去っていった。
大方私がいる場所の近くの本棚に来たついでに話しかけてきたのだろう。
そんなことで読書の邪魔をしたのは本来なら許されないことだが今回は幼馴染みのよしみだ許してやろう。
ロエが去ったのを見て私は読書を再開した。