二話
聞き飽きたことばかりで暇すぎて眠くなってきたその時だった。
「そこで何をしている。」
その声が私たちしかいない廊下に響き渡ったのは。
声をした方を見れば、私は見慣れたその他の令嬢は到底見慣れていないであろう、怖い顔をしたアルが立っ
ていたのである。
こんなところにいるとは珍しい。
いつも昼は友人と楽しくご飯を食べているはずだ。
何か用事があったのだろうか。
そんなくだらない事を考えているとアルはこちらにツカツカと歩いてきた。
アルが近づくにつれて私を囲んでいたご令嬢たちの顔色が青くなっていく。
面白い。リトマス紙のようだ。
「いえ・・・。」
「あの・・・。」
「「「 すみませんでした!! 」」」
そう言って走り去って行ってしまった。
そんな令嬢たちには目もくれず、私の前に来たアルは相変わらず怒った顔のままだった。
「なぜ、言い返さない。そうでなくとも助けを呼べばいいだろう」
「怒った顔のままだとせかっくの可愛い顔が台無しよ。ね。」
アルの頬を上下左右に引っ張り、最後は笑顔に見えるように引っ張った。
アルは不愉快そうに私の手をのけた。
「質問に答えろ。面倒くさいはなしだからな。」
折角面倒なご令嬢方が去ってくれたと思ったら今度は面倒くさい婚約者が来てしまった様だ。一難去ってまた一難と言うやつだろうか。
これは真面目に答えないと解放されないようだ。
「そうね・・・。ああなったご令嬢方に何を言っても無駄だからかしら。
それに下手に言い返して逆上されて叩かれでもしたら嫌だもの。
痛いのは嫌いだわ。嵐が過ぎるのを待った方が楽よ。
それにあのご令嬢方が言っていることはあながち間違ってはいないもの。
それとこんな人気のないところで助けなんて呼んでも無駄よ。」
「そうかも知れないがそれでもだ!大体なぜこんなこんな人気のない廊下を通ったんだ。」
「それは図書室への近道だからに決まってるでしょ。ところでアルはなぜここにいるの?用事でもあったの?」
そもそもなぜ私は怒られねばならないのだ。
ご令嬢方に囲まれるという結果を招いたことは反省しているが、他は悪くないと思う。
それにあれ以上長引けば鬱陶しいので自力で逃げていた。
囲まれていると言っても隙間はあったし、相手はこちらが何もしてこないと油断していた。
体力瞬発力のないご令嬢方を撒くのなんてとても簡単だ。
たびたび撒いて逃げるので余計いじめられるのかも知れないが。
「いやそれはその…ッ用事というか心配で」
小さい声でぼそぼそと話すので何も聞き取れなかった。
「なんて?聞こえなかったわ。」
「なんでもない!!」
赤い顔で怒鳴られてしまった。
何もそこまで怒らなくてもいいのに。
「そう。」
少し気になったがツッコむと余計に怒るのでやめておく。
怒らせると面倒なのだ。
最近気づいたのだが、彼は大変外面が良い。
その反動でか家では大変感情的らしく使用人にあたることはないがそのかわり不機嫌を隠しもしない。
家族も使用人も慣れているから特に生活に支障はないが鬱陶しくて仕方ない。
と、彼のお姉さん、未来の私のお義姉さんは語っていた。
因みに私は家から学園が遠いため寮暮らしだが、家から学園が近いアルは実家から通っている。
私が入学する当初アルは自分の家の住んで学園に通えばいいと言ったが、たとえ婚約者でもそんな迷惑は掛けられなかったので丁重にお断りした。
それに私は一度寮暮らしというのを体験してみたかったのだ。
が、断ったことで彼は何故か機嫌を損ねてしまった。
あの時は宥めるのがとても大変だった。
週に2日、休日の日があるのだがそのどちらかに彼の家に遊びに行くことを条件に何とか機嫌を直してもらったのはいい思い出だ。
「それじゃ、用がないなら私はもう行くね。」
そう言って私は強歩で去った。
本当は一連の流れで15分も無駄に消費してしまったため走りたいところだが、走って先生に見つかった場合、怒られる上に反省文を書かされるのだ。
そんな面倒なことはしたくないので、出せる全力の速さで歩いた。
アルが後ろで何か叫んでいたが聞こえないふりをした。
これ以上私は読書の時間を奪われたくないのだ。
歩いてる途中で気付いたのだが、一応助けてくれたことに関してお礼を言うのを忘れていた。
まぁ、半分以上アルのせいなので次回会って覚えていたら言えばいいか。