神々の悪業
「神々の軍の戦士を知っているか?」
「あの方たちが集めた人間の魂から生まれる戦士です。ですが神の軍の戦士はその昔神々に対する反乱を起こした末に破れ、今では存在しない皮肉な悪名です」
「悪名か。では、その戦死した人間の魂をどうやって集めていたかは知っているか?」
シルアは一瞬眉を顰めてから答えた。
「彼らは戦死した人間の魂のはず。戦場に赴いた神々が勇敢な彼らの魂を天空世界に導いているのでしょう」
ガルヴォロスがせせら笑う。
「ふっ、表向きの理由としては正解だが、やはりお前は何も知らないのだな。神々の軍の戦士を集める為の戦争を扇動しているのは奴ら自身、そしてその勝敗を決しているのも奴らだ」
今度はあからさまに疑問の表情を浮かべるシルア。ガルヴォロスは続ける。
「つまり奴らは自らの欲する強者を集める為に、あえてその敵軍に力を貸し死に追いやるという非道な行いをしてきたのだ。神である奴らがだ」
ガルヴォロスの声に次第に怒りの色が含まれていく。憎悪の記憶を呼び覚ましているようだ。
「まさか、その非道な裁きによって殺されたのがガルヴォロス、お前だというのですか?」
神々は尊く正義の存在であると説かれてきたシルアには、ガルヴォロスの話す内容は俄には信じ難く困惑の色を示す。
「お前は聡明だな、察しがいい。その通り、俺は遥か昔に神によって殺された人間、そして神の軍の戦士となり奴らの不正を暴いた罪で反乱の首謀者とされた。結果凄惨な拷問を受けた後魔界に落とされたのだ」
ガルヴォロスが自分の顔をなぞる。
「なぜこの顔になったかはこれでわかったろう? だが、俺自身が拷問を受けるだけなら耐えられた。だがな、やつらはあろうことか神の軍の戦士全体を謀反人として灼熱の業火で焼き尽くし、魔界に突き落としたのだ! 奴らの非道で卑怯な陰謀を棚に上げ、あたかも俺達に罪があるかのように仕立て上げたのだ! わかるか? シルアよ。俺達の怒りが、消して消えることのない怨念の炎が!」
「戯言だ……」
シルアは呟く。認めるわけにはいかない理由がシルアにもあるのだ。神々の命令を果たすことが生きる理由であると、生まれてきた瞬間から定められたシルアにとって、神々の否定は自らの存在意義の否定に等しかった。
「その出来事の後、奴らは神の軍の戦士を完全に廃止し、生産性こそ劣るが忠実な下僕となる存在、つまりお前たち天空騎士を生み出すことに着手したのだ」
「戯言だ……」
「シルアよ。お前たちもあの邪神どもの犠牲者なのだ。心を奪われ、ただ間違った情報のみを与えられ捨て駒のように闘うことだけを強要される。お前はさっき神々への絶対の忠誠が闘う理由だと言ったな? その絶対無二の存在が己の都合で人間たちを殺すのを許すか? 罪を暴かれた途端に潔白の者たちを虐殺することを許すか? 奴らは絶対無二の存在でも全知全能の存在でもない! 傲慢な悪徳の権化に過ぎぬのだ!」
「戯言を抜かすなっ!」
激昂したシルアの叫びが静寂をもたらす。
ガルヴォロスの焼け爛れた顔からは今の感情は読み取れないが、憐れむような雰囲気がシルアの気分を更に悪くさせた。
「強者は全てを手にし、弱者には死が与えられる、それは自然の摂理でしょう。ガルヴォロス、お前の言葉が真実か否かは問題ではありません。神々は強くお前は弱かった、それだけのはず。いくら吠えたところでお前のそれは負け犬の遠吠え。正義も歴史も勝者が作り出すもの、お前の言葉を真実として残したければ先ずは僕を倒し、その後にあの方たちをも倒すことです」
全身にマナを纏ったシルアが臨戦態勢を取る。強化魔法は俊敏性だけでなく筋力や体力をも飛躍的に向上させた。
「あくまでも心を封じ込めるか。悲しき宿命を背負ったものだな、お前も。……いいだろう、全身全霊を込めてその宿命から解放させてやる!」




