ガルヴォロスの素顔
ボッ! とそこにあった空気を消し飛ばす音が二人の戦場に響く。
だが消し飛ばしたのは空気のみで本来そこにいるはずの存在はなく、相手を穿つべく突き出された魔槍は虚空を突いた。
「なっ!?」
狼狽の声を上げたガルヴォロスの眼前に二本の短剣が迫り、迎え撃ったガルヴォロスの鉄仮面を強打する。
「ぐああっ!」
金属の割れる鈍い音が響き、ガルヴォロスは呻きよろめきながら、直撃した鉄仮面の額部分を片手で抑える。
一撃を放り込みガルヴォロスの背後に着地したシルアは、ようやく神速を解除し動き回っていた足を止めた。
「大した勘の鋭さですねガルヴォロス。僕の動きが見えていないようでしたが、先程の突きは寸分違わぬ見事なものでしたよ」
「……! なるほど、お前は俺の槍が見えた上で更にそれを超える動きをしたわけか。強化魔法、侮ったわ。いや、シルア。お前が使う強化魔法が桁違いだといえよう」
「僕は魔法の才能がありませんでしたから、血の滲む努力をしてもいっぱしのモノになりそうもありませんでした。ならばどうすれば強くなれるのか、それを考えた時僕にも扱いやすい強化魔法を極める事が強くなる最短の道だと悟りました。闘いの幅は広がりませんし、相手の弱点を突く攻撃魔法も自分が傷付いた時に癒やす回復魔法も使えませんが、今になって思えば最良の選択をしたと思いますね」
「自己犠牲も厭わぬ精神か。何がお前をそこまで闘うことに駆り立てる?」
振り向いたガルヴォロス。その顔を覆っていた鉄仮面の亀裂が大きくなり、真っ二つに割れた。
表情には出さないが、ガルヴォロスの素顔を見てシルアは息を呑んだ。
黒兜の下から現れたその素顔は、ケロイド状に焼け爛れた皮膚が真っ先に目を引く酷いものだった。頬は痩け鼻は削がれ、唇も焼け爛れ、兜の隙間から覗いていた紅い目は逆三角形の鋭いものだったが、実際の目は眼下が窪み、今にも落ちそうな丸い目をしている。
「ふっ、醜いだろう? こんな顔に出会ったことはあるまい?」
顔の筋肉もろくに動かないのだろう。自嘲気味に笑うガルヴォロスだが、表情は殆ど変わらない。
「歴戦の猛者ゆえの傷でしょうか? 酷いとは思いますが醜いとは思いません」
ガルヴォロスが声を上げ笑った。
「ふっはっは、馬鹿を言うなシルアよ。この傷が闘いで負ったものに見えるか? この傷はな拷問によって受けたのだよ」
「拷問……」
「それで、先程の質問だがお前は何の為に闘っているんだ?」
シルアはやや沈黙したが、真っ直ぐな瞳で答えた。
「僕の主、天空世界の神々への絶対の忠誠です」
「何故忠誠を誓う?」
「神に忠誠を誓うのに理由などいりません。絶対無二の存在であるあの方々に仇なす者には死を。理由などそれで十分でしょう」
「それはお前の考えなのか? 違うな。お前はあの邪神どもに刷り込まれたにすぎん。純粋なお前は何も知らぬのだ。いや、教えられていないのだからそれも仕方ない。奴らが以下に醜く下衆な存在か」
「愚弄しますか?」
「とんでもない、真実を述べるだけだ。奴らの悪行を、決して許せぬ怒りの記憶を」
ガルヴォロスが静かに語りだした。