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ラグナロククエスト 『神々に翻弄されし運命』  作者: 風花 香
第五章 愛を知らぬ剣士 シルアの闘い
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脆弱な種

 アルフレッド王は暗い通路を一人歩いていた。

 そこはドミディ城内の立入禁止の場所で、入れるのは唯一アルフレッド王のみである。

 壁に掛けられた燭台に火は灯っておらず、深淵へと(いざな)うかのように常闇の空間が奥の方まで続いている。


 小気味良く響いていた足音が止まり、アルフレッド王の目の前に観音開きの扉が現れた。玉座の間にある金でできている扉ではなく、無骨な鉄塊のようなこの扉はまるで冷気を発しているかのように冷たい。


 ギイィィィ……。

 と静寂に錆び付いた音を響かせ開いた扉の奥は、たった一つだけの燭台が灯る小さな四角い部屋だった。

 

「言われた通り、シルアをこの国に留め置いたぞ」


 誰も居ないはずの空間にアルフレッド王が独り言を呟く。

 しかし、突然黒い旋風がアルフレッド王の目の前で渦巻きだしたかと思うと、渦と変わらぬ黒い甲冑に全身を包んだ騎士が姿を現した。


「御苦労であったな。アルフレッドよ」


「ふん、あくまで交換条件を満たしたに過ぎん。忘れておらぬだろうなガルヴォロスよ。神器の情報提供、そして天空騎士をこの国に足止めする。この二つの条件と引き換えに、貴様は余に力を与えるのだ」


「もちろん忘れてなどいない。だからこうしてこれを持ってきたのだ」


 既に面識があるこの黒甲冑の騎士こそ、アルフレッド王の言っていた魔神軍の者である。

 その正体は六軍団の一角である死霊軍を率いる軍団長、【不死身の黒騎士】ガルヴォロス。


「これは?」


 手渡されたのは禍々しい模様が浮かぶグラスで、中身は至極色の液体で満たされており、立ち昇る水蒸気は漆黒の霧のよう。


「暗黒液。飲んだ者に闇の力を与える魔界にのみ存在する代物だ。尤も、飲めば人間としてのミハエル・アルフレッドではなくなるがな」


「くくっ、そうか。こいつを飲み干せば余は晴れて魔王となるか! くっはっはっは! こいつはいい!」


 狂気の笑い声を上げるアルフレッド王を、顔面を覆う黒兜で表情すら伺えぬガルヴォロスが見つめる。


「人間にしては骨のあるやつよ。人間の姿に戻れぬ事すら厭わぬとは」


「ふん、余の野望はこのラー大陸の絶対的王になることだ。それは代々の王たちの悲願でもあったが、彼らはドミディ大陸から出ることさえ叶わなかった。歴史が証明している通り、我等の野望は困難な茨の道だ。それを果たせる上に魔王として圧倒的な力も手に入る。くくっ、美味しい話ではないか」


「ふっ、だが俺たちとしては貴様が邪悪な心の持ち主だったことは好都合だった。アテナの結界を破る手間が省けたからな」


「ん? シルアの言っていた邪悪な気の持ち主は入れないというやつか?」


「ああ、本来ならば王都であるここには結界が張られていたのだろうが、国の王たる貴様がその有様ではな。精霊の加護など受けられるはずもない」


「くくっ、要らぬよそんなものは。ところで」


 アルフレッド王は自らの目線より遥かに高い位置にある黒兜の中に光る目を睨みあげた。


「間違いなく勝てるのであろうな? あのシルアという若造もなかなかの実力者であるようだが」


「ふっ、マナも扱えぬ人間風情が人知を超えし魔族と天空騎士の闘いを懸念するか。自惚れるなアルフレッド。貴様如きに測れる闘いではないし、必ず勝つ相手ならばわざわざ留め置くことを頼まぬよ」


 凄むガルヴォロスに臆することもなく、アルフレッド王は暗黒液の入ったグラスを掲げ愉悦に口元を歪める。


「くくっ、今すぐそちら側の住人になるさ」


 アルフレッド王がグラスを呷る。手からグラスがこぼれ落ち、けたたましい音を立て砕け散った。


「ぐ、ぐおあぁぁっ!」


 アルフレッド王は絶叫した。白目を剥き血管は浮き上がり、顔色がどす黒く変色する。

 四つん這いとなり、苦しみのあまり何度も何度も頭を硬い床に叩きつける。


「ガ、ガルヴォロスッ! 貴様っ! これ、は、一体!?」


「ふっ、並大抵の精神力では耐えることはできん。それなりに覚悟はしていたのだろうが生憎と、我等魔族と同等の力を得るのはそんなに生易しくない。耐えられなければ自我は消え去り肉体は滅び、怪物貪喰竜(ウロボロス)に変異するのだ。人間にしておくには惜しいが所詮は人間。脆弱な己を呪うのだな」


「ふ、ふざけるなっ!! 余は死なぬっ! 余は、ラー大陸を統べる、絶対の王だぞっ!! ぐああああぁぁぁぁっ!!!」


 アルフレッド王の身体が次第に漆黒に染まっていく。暗黒の力に呑み込まれたアルフレッド王の身体は朽ち果て、暗黒の力が命だけを取り込みガス状の生命体として生まれ変わった。

 そこには最早アルフレッド王の面影も意識も無く、一匹の悍ましい怪物として存在するのみである。

 アルフレッド王が求めた魔王としての己は存在せず、それどころか肉体も人格も全て失う結果となったのだ。


「はっはっは、安心しろ貪喰竜(ウロボロス)は強力な魔物だ。脆弱な人間如きが変異するには勿体無いほどのな。さあ、アルフレッドよ。後の世の為にこの国を消し去るとしようか」


 ガルヴォロスの言葉にギザギザの歯が並ぶ口を大きく開いて同意を示すアルフレッド王の成れの果て。

 

 ドミディ王国に死霊軍団の総攻撃が開始されようとしていた。




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