正体は天空騎士
案内された部屋にあったソファに腰掛け、シルアは天井を見上げ大きなため息を吐く。
先程のアルフレッド王への目通りの場で、シルアははっきりと三種の神器について言及した。
おいそれと本当の事を言うわけがないことは織り込み済み。シルアの狙いは国王が三種の神器の存在をはっきりと認知しているかということにあり、反応を見て大凡の事は察した。
アルフレッド王は三種の神器に対する情報を有していると同時に何か大きな事を隠している。
しかしそれ以上の詮索を許す気はなく、神器の事も詳しく分かり次第の情報提供を快諾したが、あれは嘘だろう。
アルフレッド王はシルアを正に剣として扱う気なのだ。シルアが神器の情報を求めた事をいいことに、それを餌に飼い殺す気なのだ。
「とんだ食わせ者ですね」
一人呟き、シルアが他方面に向かった仲間たちの事に思案しかけた時、突然部屋のドアが勢いよく開け放たれた。
そちらに目を向けると興奮した様子のアルフレッド王が立っていた。にやりと笑い「ふっ、寝込みを襲いに来たわけではない。朗報だシルアよ、そなたも既に十傑の一人、軍議の間に参れ!」と告げられる。
何か情勢に動きがあったのは間違いない。シルアも足早に自室を飛び出し後に続いた。
軍議の間にアルフレッド王と宰相、それに十傑全員が揃うと「始めよ」と王が短く指示を出す。
指示を受けた禿頭の宰相が、手にしている文書をその場にいる全員に配った。
「突然の招集に応じていただき感謝する。インガドル王国より急報が入った。まずはそれを読んでもらいたい」
シルアは受け取った紙に目を通す。どうやら原文を複写したもののようだ。内容は。
親愛なる各国の王へ
精霊の月中旬頃より 魔神軍の襲撃を受け候
王都まで迫られるも 勇者たち奮戦の末撃退
各国に於いて徹底事 三種の神器漏洩厳禁也
但例外とし大公殿下 御国に四名の勇者推参
北の大王よ御国にも 一名天空人馳せ参じ候
件の者たちに神器事 隠匿せず打ち明ける可
インガドル国王 シャルア・レオニダス
全員が読み終えた事を確認し、宰相は状況を整理しようと文書の内容を噛み砕く。
「読み終えましたな。インガドル王国からもたらされた魔境を使ったこの文書によれば、先月インガドル王国はあわや滅亡寸前という状況に追い込まれたが、勇者の活躍により辛くも魔神軍の撃退に成功した。そして、各国への要望として、魔神軍へ三種の神器の情報を漏らすことがないように徹底するようにとのこと、但し例外として、大公殿下、つまりジール大公国。それから北の大王、すなわち我等が王ミハエル・アルフレッド様に至っては訪れる天空騎士に神器に関する情報を包み隠さず教えるようにと、こういった内容になっている」
各々頷きはするものの、理解するにはなかなか及ばない。まず第一に彼らの疑問としてあるものを一人の将が口にする。
「ドミディ王国に馳せ参じる天空人とやらは何者か?」
その答えを知るものは当然、本人であるシルアを於いて他にいない。しかし。
「それはシルアよ。お前がそうなのであろう」
国王アルフレッドは確信しているかのような眼差しでシルアを見つめた。
諸将がざわめく中、アルフレッド王は続ける。
「そなたほどの実力者を見落とすほど、余の目は節穴ではない。それに、この文書とそなたが我が国に現れた時期は余りにも上手く出来すぎている。何より、そなたも神器について余に問うたしな」
諸将が不審とも期待とも取れる視線をシルアに注ぐ中、シルアはアルフレッド王が聡明なことは好都合と捉えた。
「正体を明かさずにいた非礼を侘びます。ご推察の通り、私が天空騎士シルアです。アルフレッド王、文書にある通り魔神軍は三種の神器の確保を目的にラー大陸侵攻を開始しました。魔神軍にそれが渡る事はこの国の、延いてはラー大陸全土を巻き込む災いとなります。何卒、神器に関する情報を私にお教え下さい」
全て包み隠さず打ち明けるのは、ここまで至れば化かし合いではなく、誠意の共有が大事と踏んだからだ。
だが、ドミディ王国の国王ミハエル・アルフレッドはシルアの予想を遥かに上回る、類稀な狂王だったのである。




