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ラグナロククエスト 『神々に翻弄されし運命』  作者: 風花 香
第五章 愛を知らぬ剣士 シルアの闘い
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国王アルフレッド

 シルアは事が思い通りに運んでいる事に満足していた。王の賢明な判断と人を見る目があったことに些かの安堵をし、宰相から王直々に城に招きたいとの知らせを受ける。

 そう、全てはシルアの掌の上の出来事。


 闘技場は城下町の北側、ドミディ城のすぐ南に位置しており、シルアは服装だけ整えると宰相に連れられてドミディ城玉座の間に案内された。

 金でできた巨大な観音開きの戸を開いた先の玉座の間は、正に覇道を突き進もうとする独善的な王の居所だった。

 

 足下には大空から見下ろす世界をモチーフにしたのであろう巨大な絵が画かれ、玉座によしかかるアルフレッド王は天空の神か、ラー大陸の支配者を主張しているようである。

 

 シルアはその光景を見て噂や情報に違わぬドミディ王国の王らしい姿であり、ここまで神や世界に対して不遜を貫くと寧ろ清々しいとすら思えた。


「国王様、先の選抜戦優勝者シルアを連れて参りました」


「シルアと申します。この度は国王陛下の温情を賜り、ありがたき幸せに存じます」


 片膝を付き頭を下げながら、形式的な感謝の言葉を述べるシルア。

 そんなシルアを玉座から見下ろすアルフレッド王は、頬杖を付いた姿勢を変えて、前のめりに乗り出す。


「ふっ、よいよいシルアとやら。そなたの闘いぶりに感服したまでのこと。誰が見てもあの大会を優勝するのはシルア、そなたを置いて他におらなんだわ」


「勿体なきお言葉」


 そう見えるように仕向けたのだから、こちらとしても見抜いてもらわねば困る。と、シルアは内心鼻で笑う。


「時にシルアよ」


 何やら粘つくような口調のアルフレッド王。


「余はそなたの強さに心の底から感服し、心酔している。そこで、そなたを正規兵の中でも特別な位である十傑に取り立てようではないか。無論それ相応の条件はあるが、なに、そう難しいものではない」


 シルアが斜め下からアルフレッド王を見つめ上げると王はにやりと笑った。腰を据えて座り、幾つもの豪華な指輪をはめた指を順に立てていった。


「まず一つ。余に唯一絶対の忠誠を誓うこと。如何なる場合でも余の為にのみ働くのだ」


 国の為と言わず、自らの為と言い切る辺りからもこの王の人となりが伺えるというもの。

 天空の神に仕える身であるシルアにすれば早速呑めぬ条件であるが、まさか正直に言う馬鹿は居まい。


「二つ目。そなたには余の近従になってもらう。それこそ住居もこの城に構えてもらい、昼夜問わず余の警護をしてもらおう。たまには夜の相手を頼む事もあるかもしれぬな? ふ、ふっはっは! 冗談よ」 


 この二つ目の条件を聞き、宰相や近衛兵たちが控え目ながらアルフレッド王に視線を向ける。

 それに気付いているアルフレッド王は鬱陶しそうに言った。


「ふん、どうせこの者が余の寝首をかきにきたら貴様等が居たところでどうにもなるまい。ならばいっそ側に置いて余の懐刀になってもらおうではないか」


 この王に男色の気があるのかは知らないが、少なくとも肝の据わった人物だということは間違いないようだ。

 何者かも分からぬシルアをいきなり側に置くなど、尋常な考えではない。かといって、殺されたならばそれまでという覚悟を持ち合わせており、決して愚鈍な王というわけではないと見える。


 アルフレッド王は両腕を膝の上に置き、前のめりな体制に戻った。


「どうだ? シルアよ。そう難儀な条件ではあるまい? 余としても是非ともそなたの力が欲しいのだ。了承してくれまいか?」


 口調とは裏腹に、拒否は許さぬ。という強い意思がひしひしと伝わる。

 シルアは頭を下げた。


「微力ながら、陛下の為に力を振るわせていただきます。ですが一つだけお尋ねしたいことがございます」


「貴様、取り立ててもらう分際でいきなり……」


「黙れ! よい、申せシルア」


 シルアを非難しようとした近衛兵を一喝で制し、アルフレッド王は愉悦の表情で耳を傾ける。


「『三種の神器』をご存知でしょうか?」


 アルフレッド王の表情に影が差したのをシルアは見逃さなかった。

 一瞬の沈黙の後「知っているが?」と訝しむ王。


「所在を知っていれば是非とも教えて頂きたいのです」


 単刀直入に訊くシルアに、アルフレッド王は右手を掲げて制止を示す。


「まあ、待つのだ。神器などという物は伝説上に言い伝えられているに過ぎん。学者共に調べさせるゆえ、その旨は改めてに致そうではないか」


「……はっ、ありがとうございます」


「ふっ、しかしシルアよ。そなたが余の剣となってくれるのであればこれ以上心強いことはない。フリーオ海に浮かぶインガドル王国と紛争地帯となっているロアノーク島も、そなたを戦場に投入すれば一気に片が付くやもしれぬ」


 じろりと宰相を睨むアルフレッド王。


「確か、今まではインガドルの若造一人に幾度も跳ね返されていたのだったなあ?」


「恐れながら、小さな島ゆえ上陸できる人数を限られた寡兵戦となり……」


「わかりきったことをしたり顔で抜かすな、無能が! ふん、精兵を以てしても失敗するとは、我等がドミディ王国軍はインガドルの若造一人にも劣るという訳か」


 アルフレッド王が吐き捨てるように言うと、宰相は広い額を伝う大粒の汗を拭う。


 玉座から立ち上がったアルフレッド王は傍らで直立する近衛兵の一人に顎でしゃくった。


「シルアの部屋を用意せよ。そうだな、余の寝室近くに一室空いておろう。そこに住んでもらうぞシルアよ」


 アルフレッド王はマントを翻し颯爽と玉座の間を後にする。

 王に命じられた近衛兵はシルアを伴い、こちらも玉座の間を後にした。

 


 

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