選抜戦
フィアナの家を出て数日、シルアは王都ドミディ城下の闘技場に足を運んでいた。
選抜戦開催日であるこの日は、たった一つの正規兵の座を手にしようと、ドミディ大陸各地から腕に覚えのある傭兵たちが集ってきていた。
今回の選抜戦は余りにも突然であった為、遠方に住む者たちは間に合わなかったとはいえ、強い傭兵は王都周辺に居を構えているのであまり関係はない。
そして今回の選抜戦にはシルアが参戦するのだから、まだ誰も知る由はないが選抜戦自体が茶番になるのである。
大砲が空に向かって空砲を放ち、選抜戦の開催を告げた。
闘技場の中と外には出店が開かれ賑わっており、ドミディ王国に於いて選抜戦は一つの行事として国民たちに親しまれている。
頻繁に開催される理由には国民たちの要望によるところもあるが、実際の会場設営などは奴隷に行わせることで経費を浮かせ、観戦費用や参加費用、出店費用などで国に入る金が多い事が主な動機になっている。
シルアは出場選手として、二十メートル四方の四角い戦場に立っていた。
開催挨拶がドミディ王国宰相によって行われ、客席からは大歓声が上がる。
出場選手は凡そ二〇〇人。優勝にはざっと計算して八回も勝ち抜く必要があるが、シルアはそんな事には思考を巡らせず、王族が座り闘いを一望できる観覧席に目をやった。
「あれが国王だな」
シルアは国王と思しき人物を特定すると、満足そうに頷く。
あとは、圧倒的な実力を見せつけ勝ち抜くのみ。そうすることで、シルアに興味を持った国王自ら声がかかり、恐らくは近衛兵として側に置かれることだろう。
楽観的な計画に思えるが、圧倒的な実力を有するシルアからすれば、万に一つも失敗はあり得ない簡単な作業に過ぎない。
意味はないと知りつつ、更に観客席を一回り見渡す。もちろん探した人物は見つからず、シルアは自分の闘う順番を待つ控え室へ引き上げた。
フィアナ、あなたは今この場に来ているのでしょうか。僕が何故あなたの事をこうまで気にかけるのか、それは自分でもいまいち理由がわかりません。
ですが、僕にとってもフィアナにとっても早い別れにした方がいいのです。目的を果たせば僕は次へと旅立つ身。共に暮らす未来はあり得ず、依存は悲しみを生みます。
ただフィアナ、あなたの戦士としての誇りを侮辱した事、それを謝れない事だけが心残りです。
控え室で腰を下ろすシルアは静かにフィアナの事を思っていた。
そこへ。
「六十一番、シルア選手。入場です」
係員の呼び出しを受け、シルアは戦場に向かう。




