怠け者の幼馴染
パウル。
ヨハンとユリアの幼馴染みで村人からの評判はすこぶる悪い。気立てが良く働き者で器量好しのユリアと、腕が立ちインガドル王国軍でも有名なヨハン。
そんな二人と比べてしまえば、顔はそこそこだか人相は悪め、唯一の特技はギャンブルでのイカサマだけ。
そんなイカサマも見破られタコ殴りにされた回数は数知れず。
村人から出来損ないが一人と揶揄されるのも仕方ないことだった。
馬小屋に入ってきたパウルは、ドカッとユリアの隣に腰掛ける。
座り方一つ取っても横柄な態度。
細く切れ長な目とオールバックにした金髪が一層人相を悪く見せる。
「いつからいたんだ? そんな所で盗み聞きとは悪趣味だな」
ヨハンの声に先程までとは違う鋭さが増し、あからさまに敵意を放つ。
「バカ言え。丁度来たとこに聞こえただけだよ」
こちらもヨハンを睨みつける。
二人の刺々しい態度にユリアは小さくため息を吐いた。
「パウル、今日はみんなで食事をするって伝えていたでしょう? なんで来なかったの?」
「ああ! 悪い悪い! ユリアの飯楽しみにしてたんだけどな、仕事が長引いちまって」
ヨハンと話すときの態度とは打って変わってにこやかに応じるパウル。
「悪かったなヨハン。飯をご一緒できなくて。せめていつ死ぬか分からない親友に一目会いたくてここに来たのよ」
ヨハンに歩み寄り肩に手を置き、心にもない事を言う。
ヨハンは足の位置を変えて、やんわりとパウルの手を払った。
「そいつはありがたい。俺もいつ魔物に殺されるか分からない親友に会っておきたかったんだ」
皮肉には皮肉を。腐れ縁ならではである。
「二人ともやめてよ。ところでパウル、仕事は何をしているの?」
二人の険悪な雰囲気をユリアが和らげるのはいつもの役目であり、ユリアが諌めれば大抵は収まる。
パウルは背中に掛けた剣を得意げに指差す。
「護衛だよ」
「護衛?」
ヨハンとユリアが声を揃えて聞き返す。
二人にとって予想だにしない回答だったのは言うまでもない。
「ああ。この辺りの魔物は弱っちいからな。行商人の町から町への移動を手助けしてやってるのよ」
本来護衛の仕事というのは、大きな街にある傭兵ギルドに登録して、依頼人に護衛を要望されて成り立つ。その際、傭兵としてのランクや実績によって報酬額は変動する。
しかしながらハーキュリーズの村には当然傭兵ギルドなど無いし、一番近くの大都市となれば一ニ五マイル(ニ〇〇キロ)も離れているのだからパウルが正規に護衛の仕事をできるはずはないのだ。
「傭兵でもないお前に護衛を頼む商人がいるのか? 護衛どころかお荷物が増えるだけだろう」
「てめえは本当に口が悪いなヨハン。この辺りには傭兵ギルドなんざねえから、不正規でも護衛をしてほしいって商人はいるんだよ。ハッタリもかませば結構な金額で依頼されるぜ」
「口八丁は相変わらずってわけか」
「でも、凄いわ! 魔物と闘えるなんてそうそうできることじゃないと思うし、そんな危険な仕事を率先してやるなんて立派だわ」
二人の口論の間に割って入るようにユリアが賞賛の言葉を述べる。
パウルの顔がぱあっと輝き、忙しく変わる表情を見てヨハンは苦笑する。
「じゃあ、村の外に行きたいときにヨハンが訓練でいなかったらパウルに頼もうかしら。今日もゴブリンに襲われたところをヨハンに助けてもらったのよ」
「おい、ユリア」
ため息混じりに非難するようなヨハンの声。パウルでは心許ないし任せられないのだろう。
「ああ、任せておけよ。今の俺ならゴブリンに囲まれたって切り抜けられるぜ」
「囲まれるようじゃ駄目なんだよ」
「例えだろ! た・と・え!」
その後も何度か突っ掛かる二人だったが、ユリアの仲裁もあり、程なくして三人は家路についた。