戦士の街フェルシウダー
第五章開幕です。
この章の中心人物は天空騎士の一人シルアです。
久し振りの登場だけど皆様覚えているかな?(汗)
一番話し方が丁寧だった子なんだけど……(笑)
『第三章 インガドル王国の戦い 十四 シルアとフィアナ』の二人が出会った後からの話になります。
時はインガドル王国にて、国の存亡を懸けた戦いが決着した日まで遡る。
すなわち、ヨハンが魔道騎士ソリテュードを討ち、ローレスが鬼神軍軍団長ゲノシディオを撤退させたあの日。
ドミディ王国の第二都市であるフェルシウダーの街に向かっていたシルアは、道中魔物に襲われていた女戦士、フィアナと出会い彼女を救った。
フェルシウダーの街に住むフィアナは、シルアが当日の宿を探していること。またシルアの目的地である王都ドミディ城に行くには、フェルシウダーを経由する必要があることを説明し、助けられた借りを返すことを理由に家へ招いた。
鬱蒼と茂る林の中をフィアナの後に続き歩いていると、木々の葉の合間から木漏れ日が差し、肌寒さを覚える程だった気温が上昇するのをシルアは感じる。
徐々に伐採された木々が目立つ様になり、人々の住処が近い事を物語っていた。
そして、立ち並ぶ木々が途切れると、視界が左右正面と広がり、正面には堀に囲まれた城塞都市が姿を現す。
「あれが、戦士の街。フェルシウダーよ」
フィアナが戦士の街と評したフェルシウダーは傭兵稼業が主要産業になっている極めて異例の街である。人口は二五〇〇〇人。
ドミディ大陸のほぼ中央に位置し、交通の要所として経済的にも文化的にも潤う繁栄した城下町だが、その実情は南北の富裕街と貧民街とに分けられる。
北の富裕街には、貴族達の荘厳華麗な屋敷が立ち並ぶ他、豪商達が富裕層を相手に商売をする金の市場と呼ばれる広場がある。そこでは日常的に金貨が飛び交う光景が見られ、名前の由来もそこから来ているのだ。
荒くれ者やゴロツキ共が富裕街に立ち入れないように、南と北の境には隙間無い壁が延々と続いており、万一壁を超えたとしても、領主や貴族に雇われた一流の傭兵たちが侵入をその場で食い止める。つまりは容赦なく殺すのだ。
傭兵を稼業にしているのは専ら南の貧民街の人々で、基本的に彼らは自分の肉体以外に財産が無い。
狭い範囲に住宅が立ち並ぶ貧民街には、土地を持つ者は殆どおらず、その日その場暮らしが日常化している。
それでもここドミディ大陸に至っては、他国に比べ傭兵の仕事は多い。
その理由として、ドミディ王国は他国と平和条約を結んでいない為、積極的に海外の国と戦争を行うからだ。
ドミディ王国には正規軍は存在するが、その数は一〇〇〇〇人に留め、そこから増やしもしなければ減らしもしない。
平時にあっても兵士には給与が発生する為、国の財力を圧迫する。
そこでドミディ王国が採った政策が傭兵の戦力化だったのだ。
戦争となれば傭兵を雇い入れ、戦いの後には傭兵の戦果に応じて、働きに見合った報酬を与える。
首一つを戦果の最少単位と定め、逃げ出した者、死亡した者には報酬は与えない。
一見横暴な政策のようだが、土地もなく財産もない人々には、シンプルかつ分かりやすいそのシステムは受け入れられた。
戦士としての誇りを持つフェルシウダーの人々の性格をよく理解した政策とも言える。
そして、その傭兵としての仕事に男女の壁は無い。
シルアと出会った女戦士フィアナもまた、貧民街に住む一人の誇り高き傭兵だったのだ。




