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魔闇軍軍団長ダーマフリート

 クリストの放った極大精風魔法がオルフェリアを貫く寸前、その軌道上で陽炎が発生するときのように、光の屈折が起こる。

 始めは小さかったその揺らめきは、一瞬にして直径三メートル程の時空の歪みとなり、気絶しているパウル以外の三人は視認するものの、何が起きているのか理解できないでいた。

 それはつまり、時空の歪みに対しては、この場にいない何者かの力が作用しているということ。

 そしてもう一つ確かなことは翡翠の突風(エメラルドブラスト)がその歪みにかき消され、消滅したということだ。

 消滅したというよりは、歪みから現れた漆黒の空間に呑み込まれたというべきか。


 状況を瞬時には理解できなかったクリストだったが、時空の奥から何者かの気配が迫るのを感じた。

 クリストが纏う闘気とは相対する波動を放ち、二つの力がぶつかり合う事で、放電するかのようにバチバチと闘気が弾ける。 

 オルフェリアの前に立ちはだかるように現れたその存在。

 身に纏う闇の衣から溢れ出る暗黒闘気は、衣の内側の姿まで何も見えないほどに覆い尽くし、クリストの冷静な戦力分析が、この正体不明の存在は明らかに異質で危険だと警鐘を鳴らす。


 一方のオルフェリアも目を見開き驚く。


「ダーマフリート!?」


 ダーマフリートと呼ばれた謎の存在は、振り返るとオルフェリアに手を掲げた。

 するとオルフェリアの身体を闇のエネルギーが包み込み、忽ち傷が癒えて氷の属性付与も消え失せる。

 属性打ち消し魔法(キエタミー)など比べ物にならないその圧倒的な治癒力は、それが暗黒闘気を用いた魔族にのみ有効な術だと理解するのに時間はかからなかった。


 傷の癒えたオルフェリアは不満気にダーマフリートに問う。


「何故貴方がここにいるの? ここら一帯は私のテリトリー。貴方の出る幕はなくてよ?」


 ダーマフリートが現れなければ、翡翠の突風(エメラルドブラスト)に穿たれ、死んでいたかもしれない事など関係ないらしく、自分の狩場に踏み込まれたことを不快がるオルフェリア。

 何か奥の手があったのかは定かではないが、オルフェリアの問いに、ダーマフリートは酷く掠れた低い声で答える。


「戦況が芳しくない」


 声でダーマフリートは男だとわかるクリスト。


「何ですって?」


 オルフェリアは聞き返す。


「インガドル王国の王都に潜伏させていた我が配下のソリテュードが勇者に討たれた」


「あのソリテュードが!? なるほど……奴等は驚異的な速さで進歩しているわけね」


 オルフェリアはハーキュリーズの村で対峙したヨハンを思い出す。

 人間にしては確かに強かったが、あの時点では魔神軍にとって大した障壁ではないと判断した。

 それが僅か一月足らずの間に、魔界でもそれなりに名の通っていたソリテュードを倒すとは。


「更に、インガドル王国攻略に乗り出したゲノシディオが、天空騎士ローレスと交戦し、撤退。インガドル王国攻略に失敗した。そして、お前がこのざまだ」


「なっ? ふざけないで! 私はまだこれからよ! ジール大公国に乗り込んで」

「黙れ」


 一際低い恫喝が、あのオルフェリアさえ黙らせる。


天空世界(スティルヴァース)侵略の計画が滞るのは許さん。ましてや六軍団を集結させながら、ろくな戦果も挙げられぬなど。一旦、濃霧の大地に帰還しろ。そこで、デストの指示を仰げ。二度も同じ過ちを冒したお前に権限はないと心得ろ」


 底知れぬ殺気を迸らせるダーマフリートに、さしものオルフェリアも反論できず、唇を噛み締める。

 そして憎悪の篭った視線をクリストに向けた。


「覚えておくといいわ、クリスト。貴女だけは必ず私が八つ裂きにしてあげる。束の間の生を楽しみなさい」


 吐き捨てるように言うと、オルフェリアの体が白い光に包まれ、西の空へ流星が逆行する様に飛び、消えていった。


 ダーマフリートはクリストを一瞥し、視線を動かしたかと思うと、ユリアの顔を見て動きを止めた。


「え? な、なに?」


 恐るべきダーマフリートに睨まれ、萎縮するユリアだが不思議と威圧感や殺気をそれほど感じない。

 殺気という点では、先程オルフェリアに向けられたものの方が遥かに強かったし、ダーマフリートのその佇まい、雰囲気は何か温かみのようなものすら感じさせる。


 暫しユリアを見つめていたダーマフリートだったが、何も言わず背を向けると、再び漆黒の時空の狭間にその姿を消した。

 ダーマフリートがその場を去ったことにより、まるで空気圧が減じたかのような錯覚を起こすクリストとユリア。

 それほどまでの圧倒的存在感と威圧感。ただユリアを見つめていた時を除いて。


 頬を伝い、顎から地面に吸い込まれる汗の雫を拭い、クリストは大きく息を吐き出した。

 正直、何事もなく退いてくれて助かったという感情が殆どであり、今この場で闘うことになれば勝つ可能性は限りなく低かっただろう。

 一体やつは何者なの? 次に遭遇した時には闘う事になるだろうけど、あの圧倒的な闘気(オーラ)に対抗できるとは思えない。


「クリスト、パウルが」


 黙り込んで思案に耽っていたクリストに、控え目ながら声をかけるユリア。

 クリストはそうだったと気を取り直し、パウルの傍らにしゃがみ込み。


「またこっ酷くやられてるわね。不細工な顔」


 と呆れつつ、回復魔法を唱えるのだった。

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