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対峙する敵

 轟々と燃える炎。

 その橙色の高熱の中には、黒焦げになった人々と、既に骨だけとなった人々が無数に存在する。

 既に絶叫は一切聞こえなくなっており、それは長老ローラ・ロッサ以外全ての者が息絶えたことを物語っていた。


「貴様、この様な悪逆非道、神が許すはずがない。貴様にも必ずや惨たらしい死が訪れるだろう!」


 精一杯の憎しみと怨念を込めて、ローラ・ロッサはオルフェリアを呪う。

 無念だが、できることは他にないのだ。


 オルフェリアは嘲笑する。


「助けてもくれない神様をまだ信じてるのね? 認めなさいな? 神なんて、役に立たない。人間なんて奴隷同然、ゴミの様に扱う非道な者たちだと」


「黙れ! 貴様の様な邪悪な醜女の言うことなど聞く耳持たぬわ!」


「あら、私を醜女だなんて。そんな風に言われたのは初めてだわ。負け惜しみだとしても、やっぱりいい気はしないわね」


 飄々としていたオルフェリアの表情が、僅かながら苛立ちを含んだものに変わる。

 ローラ・ロッサはここぞとばかりに畳み掛ける。

 最早、抵抗らしい抵抗もできぬなら、せめて感情を征してくれる!


「自らの醜さにも気付かぬ哀れで愚かな醜女が、何を勝ち誇り説教垂れるか! 自惚れるな! 貴様の様な外道には神々の天誅が下り、必ずや……」


 ローラ・ロッサの両腕が吹き飛ばされ、地に落ちる。

 何が起きたのか分からない程の一瞬の出来事だが、オルフェリアが放った真空の刃が、拘束された腕を斬り落としたのだ。

 苦痛に呻くローラ・ロッサに、追撃で放たれた真空の刃は残っている両足をも切断した。


「【貪り戒める鎖(グレイプニール)】が必要なくなったわね。人間達磨さん。私を不快にさせる気で言ったのなら、上手くいったわよ。お陰ですこぶる機嫌が悪くなったわ」


 ローラ・ロッサは地面に這いつくばりながらも、オルフェリアの顔をしっかりと睨み付けた。

 まだだ、まだ言いたいことはある。

 愉悦で終わるはずだった殺戮を不快なものに変えてくれる。


「神に仕えし儂には見える。天空神エルザエヴォス、大地母神ガイア、人神ゼスタシア、竜神ラシリス。あらゆる神が必ずや貴様の前に立ち塞がり、その醜悪な顔を引き裂き惨たらしい死に様を与えるだろう! その見るに耐えぬ面を冥土の淵から拝ませて貰うわ! はっはっは! ぐあっ」


 一瞬にして目の前に迫ったオルフェリアが老王の頭を掴むと、そのまま軽くなった身体を持ち上げた。

 ぼたぼたと四肢の切断面から血が溢れる。

 このまま何もしなくてもローラ・ロッサの命の灯火は間もなく消えるだろう。

 しかし。


「ごぼっ!?」


 ローラ・ロッサの腹部を杖の柄が貫いた。

 目を大きく見開き、がくがくと震える頭。その耳元にオルフェリアが口を近づけた。


「その引き篭もり共が目の前に現れてくれるなら望むところなんだよ。一人残らず私が奴らの生皮を剥ぎ取ってやる」


 低音で威圧感あるオルフェリアの怒りの声。

 阿修羅を彷彿とさせるその姿を最期に、ローラ・ロッサの目から光が失せ、瞳孔が急速に拡大していった。

 神の祠の守り人を代々務めてきたゴルゴダ人の王はこうして死んだ。




 炎が猛る広場に到着したパウルとユリアは、その鼻を突く臭いに顔を顰めた。

 嗅ぎ覚えのあるその臭いは、ヴィデトの塔を根城にしていた山賊たちが、焼殺された時と同じもの。

 しかも今回の異臭はあの時よりも何倍も凄まじい。

 一体何人の人々が犠牲となったのか。


 炎から目を移すと、金髪のロングヘアーに大胆な格好の女が目に入る。

 忘れる事などできないその女の姿を認めた時、パウルの中で復讐の炎が激しく燃え上がった。


「オルフェリア!」


 パウルの怒声にゆっくりと顔を振り向かせるオルフェリア。

 しかし振り向いたその顔を見て、強い怒りの感情を抱くパウルとユリアも思わず後退る。

 血走った目を向けながら、口元には愉悦の笑みを浮かべ、鮮血に顔を染めた禍々しい鬼の形相。


「あら? 丁度いい所に獲物がきたわね」


 故郷を滅ぼした因縁の(かたき)と相対する二人の心には、仇を討ちたい強い思いと、一抹の恐怖が宿っていた。 


 


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