都市国家 ゴルゴダ
広大なアスタード大陸の中央地域。
この辺りは、昔からインがドル王国とジール大公国が領土を接していた為、戦の絶えない地域だった。
そんな強国に挟まれながらも自治権を勝ち取り、独自の文化性を築いてきたのが、都市国家ゴルゴダである。
広大なアリオーソ平原を一望できる、標高八五〇メートルの『ゴルゴダの丘』と呼ばれる山頂に、その都市国家は存在する。人口は二三〇〇人。
軍隊などは持たず、インがドル王国やジール大公国とは多少の交流はあるものの、文明レベルは両国からはかなり遅れている。
そんな弱小国家ゴルゴダが自治権を確立しているのには理由がある。
それが、山頂一区画に存在する『神の祠』だ。
有史以前、人間が存在したであろう時代より更に昔。既にその祠はゴルゴダの丘山頂に神秘的に佇んでおり、人類誕生の後にはゴルゴダの丘に生を受けた者たちが、その祠の守り人を務めてきた。
倫理を無視する蛮族ではない他国の王たちは、このゴルゴダの丘を生粋のゴルゴダ人たちに全て任せる事に決め、都市国家ゴルゴダは絶対不可侵の法により、今日まで存続してきたのである。
絶対不可侵。
その法が通用しない蛮族が現れた時、都市国家ゴルゴダは自衛の手段を持たない弱者となる。
ゴルゴダの丘の中腹まで登ってきたパウルは、途中ぽつんぽつんとある民家で住民が惨殺されている光景を見て憤慨していた。
「何で、何でてめえらは弱い人たちを狙うんだよおっ!」
火の手が上がる山頂を目指し、駆け上がるパウル。荒い岩肌の山地は馬では登ることができず、今は自らの足で登っている。
「パウル、待って!」
荒い息遣いで、ユリアは何とかパウルの後を追っていた。
逆上していたパウルもようやく気が付き、足を止め振り返る。
「ユリア、来てくれたのか」
手を差し伸べ、ユリアを引っ張り上げる。ユリアは肩で息をしながら、両膝に手を置いた。
「はぁっ、はぁっ。当たり前でしょ。一人で行くなんて危ないわ! 行くならちゃんと私も連れて行って!」
一人で勝手に突っ走った事に怒っている様子で、睨まれたパウルは頭を掻いた。
「ああ、すまねえ。よし、急がねえと」
ようやく辿り着いたゴルゴダの町並み。
人の姿はない。だが、死体が転がっているということもなかった。
民家は燃えていないし、そもそも魔物の姿すらない。
炎が見えるのは町の中央付近だろうか、どうやらその辺りは広場になっているようだ。
不可解な状況を警戒しながら、パウルとユリアは慎重に歩を進める。
そして、遠目に広場で燃える巨大な焚き火が見えた。
黒煙もそこから立ち昇っているようで、どうやら町全体が崩壊しているということはないようだ。
心の中に幾ばくかの安堵が広がるが。
「だから! 知らぬと言っておろう!!」
と、老人の叫び声が聞こえ、二人は叫び声に向かって走った。




