相入れぬ二人
久し振りにパウルたち四人サイドの話です。
気温が上昇し、インがドル山脈山頂の溶けきらなかった雪も溶け、山肌を露わにしだす季節。
作物も良く取れるようになり、町や村が活性化して人々の暮らしが安定する王の月は、本来街道を往く商人たちの姿が後を絶たない。
しかし魔物が現れてからは、経済力に乏しい商人たちは傭兵を十分に雇う事ができず、満足な商いができないでいた。
傭兵を雇わず行商に出た、無謀な商人たちの亡骸が野に転がっている事も珍しくない。
「うっ、またか」
パウルは商人の遺体を見て、顔を顰める。
近くには傭兵を務めていたであろう、遺体が二つ転がっており、万全の準備をしても楽観できないことを物語っていた。
天空騎士のグレンは、その亡骸を無造作に掴むと、遺品の物色を始める。
「あっ、てめえ、グレン! また!」
今回を除いても既に二回こういった場面に出くわしているが、グレンはそのどちらでもやはり遺品を漁っていた。
その度にパウルはその行為を非難するのだが、グレンは全く聞く耳を持たない。
傭兵と商人の懐から路銀を頂くと、遺体は投げ棄てるように手放した。
「山賊紛いの真似しやがって、恥ずかしくねえのか! もう三回目だぞ、これ言うのも!」
グレンはムキになるパウルを冷やかな視線で見据え、路銀の入った袋を弄ぶ。
「俺も同じ事を言い飽きている。死人に必要ない物を頂戴して悪いのか? 最も、お前と討論するつもりはないがな」
「くっ、この人でなしが」
そんな二人のやり取りをさして興味無さそうに聞き流すクリストと、一応互いの言い分に理解をしつつも、パウルを宥めようとするユリア。
現在地はスメロスト砦からジール大公国領に向かう道の真ん中辺り。
まだまだ距離があり、途中宿屋を見つけて宿泊するにもお金は必要だ。
グレンの現実的な対応は、むしろ今のこの世界においては当たり前であり、パウルの方が綺麗事で甘いのかもしれない。
「パウルやめましょう。今は言い争っている時じゃないわ。気持ちは分かるけど、堪えて」
腕を捕まれ、吸い込まれそうに美しい瞳で見上げられては、頑固なパウルも引き下がるしかなかった。
釈然としない気持ちを抱きつつも、パウルはユリアの意を汲み馬の歩みを進める。
右手前方には、標高八五〇メートルのゴルゴダの丘が大きく近づいており、ここまでくればジール大公国領に入るのに十日とかからないだろう。
日が高く昇り、じりじりと焼き付くような日差しがパウルの先に進む気力を減退させ始めた頃、ユリアの大きな瞳がゴルゴダの丘山頂の異変に気が付いた。
火の手が上がっており、黒煙がもくもくと上空に伸びている。
「あれを見て!」
叫んだユリアの指差す方を見て、気だるそうにしていたパウルの表情が驚愕に変わった。
「町が、町が燃えている!」
そう、ゴルゴダの丘山頂には、古くからその地に根付いているゴルゴダ人が住む町がある。
パウルの脳裏に故郷ハーキュリーズの村が襲われ、人々が逃げ惑い殺されていく光景がフラッシュバックした。
パウルは叫んだ。
「町を救おう! 今ならまだ間に合うかもしれねえ。さあ、行くぞ!」
しかし、グレンの反応はやはり冷淡なものだった。
「俺達がすべきことは人助けではない。町一つ焼かれる程度の瑣末事に付き合ってはられん」
「瑣末事だと? てめえ、グレン! 人の命をなんだと思ってやがる!」
「人の命は尊いものだとでも思っているのか? 魔物が現れた今、あるのは狩るか狩られるかの弱肉強食。弱い者は殺され強い者の糧となる。本来あるべき摂理、それが表に出てきただけだ」
手綱を握るパウルの拳が固く握られ、怒りに震える。
「俺の……俺達の村が襲われてた時も、てめえは助ける気なんざさらさらなかったってことか!?」
「そうだ。目の前に殺すべき奴がいたから殺した。それ以外の雑念など抱いていない。しかし」
グレンは馬首を巡らし、パウルに背を向ける。
「貴様が行くのを止める気もない。行きたければ勝手に行くがいい。貴様のお守りを頼まれてはいたが、勝手な行動で死ぬ分には俺は知ったことでは無い」
「へっ、ああそうかよ。所詮てめえみたいな冷血野郎には仲間の生き死にすら興味がねえってこった。あばよ!」
怒りで顔が引き攣り、上手く笑い顔を作れないのを感じつつ、パウルはグレンに決別の言葉を述べた。
同時に馬をゴルゴダの丘へと走らせる。
「あっ! パウル待って!」
慌ててユリアがその背を追う。
暫しその後ろ姿を眺めていたグレンとクリストだが、クリストは目を閉じて桃色の美しいロングヘアーをかき上げた。
「追わないわけには行かないわね。グレン、あなたは先に行って。私は二人を連れてから後を追うわ」
「そうか」
一言呟くと、グレンは馬の腹を蹴り、ジール大公国領方面へ走らせた。
「全く、大変なのは私ばかりじゃない」
愚痴をこぼし、クリストはパウルとユリアの後を追った。




