預けられる勝負
「ローレス!」
駆けつけた人物は、玉座の間でソリテュードとの死闘を制したヨハンだった。
ローレスとゲノシディオは、ここで初めてもう一つの闘いに決着がついたことを知る。
「ソリテュードめ、敗れおったか」
「ヨハン、無事勝ったようだな。待っていろ、俺もすぐにかたをつける」
事も無げに言い切るローレスにゲノシディオの顔が苛立ちに歪む。
「何度も言わせるな……天空の闘気が使えぬ貴様など敵ではない!」
「一度死に損なったやつが偉そうに抜かすな」
嘲笑するローレス。
それがゲノシディオが攻撃する合図となった。
激しい攻防を繰り広げる両者は、ヨハンから見てもまだまだダメージは浅く、そう簡単に決着がつくとは思えない。
玉座の間からここに駆けつけるまでに、渦巻く炎も轟く雷も炸裂した大爆発も目の当たりにしたが、戦場となっている訓練庭があちこち崩れているだけで、当人たちはまだまだ血気盛んだ。
この闘いはさらに激しさを増すだろう。そう予感させた矢先、王都全体に拡声器を用いた声が響き渡る。
『インガドル城の全国民よ! 私は騎士大将のブラスト! 今まさに我等がインガドル王国は滅亡の危機に瀕している。西の砦群は全て落とされ、更にはここ王都にまで魔神軍の攻撃の手が伸びている! この状況を生み出した張本人こそ、国王レオニダス二十三世に姿を変えた魔神軍の刺客だ!』
声の主はオーギュスタン砦で魔神軍相手に必死の防戦を繰り広げていた騎士大将ブラストだった。
王都が魔神軍によって秘密裏に落とされているかもしれない情報を得ると、無謀な遠征命令を受けた将軍シルキードの行軍を止めに行った人物。
北の港に向かったはずのブラストが、こんなに早く王都に戻ってきたのは、シルキードを止められなかったからなのか、ブラストの放送は続く。
『しかし、何も恐れることはない! 無双の騎士大将ヨハンと、この世界を救うべく推参した天空騎士ローレス。両名が既に姑息な魔神軍の討伐を敢行している! 更に将軍シルキード殿はここより北五キロ付近を南下中である! 引き連れた軍勢三五〇〇〇とともに間もなく帰還される!』
城下で国民たちの歓声が湧き上がった。
地鳴りのように響く歓喜の声にゲノシディオは舌打ちし、ローレスも面白くなさそうな表情を浮かべる。
『インガドル王国の全国民よ! 希望は直ぐそこまで来ている! もう少しの辛抱だ!』
雑音を残し拡声器からブラストの声が聞こえなくなる。
「貴様、ローレスといったな」
ゲノシディオが破滅を呼ぶ枝の切っ先をローレスに向け、語りかける。
「一旦勝負は預けるぞ、貴様との決着はいずれ必ずつけてやる」
「ふっ、まぁいいだろう。横槍を入れられても面白くない」
闘いを妨げられた事に不快感を顕にする二人。
しかし、インガドル王国からすれば魔神軍を退散させることが第一であり、二人の決着がつくか否かは大事ではない。
ゲノシディオが何やら詠唱を始めると、その身体が白っぽい光の泡に包まれ、あっという間に西の空に消えていった。
魔神軍からすれば、インガドル王国に多大な損害を与えたわけだが、第一優先される神器の確保、情報は得られず、又ヨハン、ローレスを討ち取る事にも失敗した。
周到に準備された割には戦果に乏しく、魔神軍の作戦はヨハンたちの活躍により見事防ぐ事に成功したといえるだろう。
「不服そうだな、ローレス」
ヨハンはローレスの心の内を見透かし訊ねた。
相変わらず口元に食えない笑みを浮かべ、「そんなことはないさ」と嘘をつき、ローレスは剣を収める。
一時間後、大軍勢を引き連れたシルキードがインガドル城に帰還し、待ち受けていたヨハンたちは深々と頭を下げる。
「ヨハンにブラスト、大義であった。……あなたが天空騎士のローレスだな?」
金髪の美丈夫は白馬から降りると、戦功者であるヨハンたちを労い、隣に立つローレスにも目を向けた。
三十代前半にしてインガドル王国軍の総司令官を務める将軍シルキード。
「色々と共有したい情報もあるが、まずは王の安否が第一だ。皆で手分けして探すのだ。城の何処かに幽閉されている可能性が高い」
シルキードの命令で、国王レオニダスの捜索が始まった。




