闘う理由
剣と剣がもう何度目かもわからぬほどぶつかり合っている。
二つの荒い息遣いが接近しては離れ、また近付いては離れる。
休むことなく闘い続ける二人、ヨハンとソリテュードが互いに壁を蹴り、玉座の間中央で鍔迫り合いを演じる。
「どうしたソリテュード。笑みが消えているぞ?」
「ふっ、そんな余裕はないもので。しかしこんなに楽しい闘いは初めてですよ」
ソリテュードは心底ヨハンとの闘いを楽しんでいた。
魔界に生を受け、二五〇年余り。
魔界と偏に言っても、場所により治めている王も違えば、思想も違うのだから抗争などは日常的に起きる。
ソリテュードも若かりし頃から闘いに明け暮れ、力と技を日々磨いて来たのだ。
元々才能があったソリテュードは早くから頭角を表し、広大な魔界においても有力な魔王、ダーマフリートの幹部として、各地を転戦した。
何時しかソリテュードの実力は生半可な魔族では太刀打ちできないほどとなり、ソリテュードが闘いの中で高揚する機会はなくなっていったのである。
そんな折、奇しくも今回インガドル王国攻略を買って出たゲノシディオ率いる鬼神族と戦争になった。
ソリテュードはダーマフリート軍の先駆けとなり、敵陣に迫ると、大将であるゲノシディオと対峙したのである。
いつの頃からか闘いの中で、己を高める事ができる相手に出会えなくなっていたソリテュードにとって、ゲノシディオは願ってもない絶好の相手だった。
全力を尽くしても勝てるか分からない敵。そんな相手との闘いに身を投じることは、ソリテュードにとって無上の喜びだったのだが、いざ勝負という時に撤退命令が下された。
魔神軍結成の為、魔族同士の抗争が禁じられたことが理由だったのだが、ソリテュードの燃え上がっだ闘志は行き場もなく燻り続けることになった。
それから時は流れ、今回起こしたラー大陸侵略戦争までずっと燻り続けていた炎。
それが今まさに大火となって、初めて出会えた好敵手、ヨハンとの闘いで熱く激しいひと時を生み出していた。
ソリテュードは思うのだった。
遂に私は私自身の限界を超えることができた。
そう、今の私は間違いなく今までの実力を凌駕し、潜在する能力を全て解放している。
ダーマフリート様、インガドル王国潜伏の任を私に与えてくださった事、感謝の言葉もありません。
おかげで私はこの好敵手に出会う事ができました。
ヨハン、人間にして強き者よ。
あなたとのこの闘いを永遠に続けていたいものです。
全ての力を解放した今、勝機はもうありませんよ。
惜しむらくは、そう……。
「はあっ!」
光の闘気が強さを増し、光り輝く剣刃となったツヴァイハンダー。振り下ろされた光の剣は、防ごうとするソリテュードのアメシストの様な妖しい輝きを放つ魔剣を折り、奥にある身体を袈裟がけに斬り裂いた。
ソリテュードの暗黒闘気が光に呑み込まれる。
私の実力があなたに全く届かなかったこと――。
崩れ落ちる身体を、最後の力を振り絞り立て直すソリテュード。
切り裂かれた胸部と口からは魔族特有の青い血が溢れだし、その生命は風前の灯火。
「あなたと闘えたこと、嬉しく思いますよ。思えば私の生きる目的は強い者と心ゆくまで闘うことだったのかもしれません」
激しく吐血するソリテュードの顔からみるみる生気が薄れていき、瞼すら重いのか目元が小刻みに痙攣している。
事実この時のソリテュードの視界はぼやけ、ヨハンの姿が三人にも四人にも見えていた。
錆び付いた扉をこじ開けるかの様に、ソリテュードはもう一度だけ口を開いた。
「ヨハン、あなたは……一体、なんの為に……闘っているの、ですか?」
「友との誓いの為。そして俺が大好きな全てを守る為だ」
歪む視界の中でもヨハンの真っ直ぐな眼差しだけは確かに伝わる。
錆び付いた扉はもう開かず、思考の中ソリテュードは笑みをこぼす。
守る為ですか。皮肉なものですね。強さのみを求めた私が守る事を信条とした貴方と最後闘う事になるとは。
即答、感謝しますよ。悩まれたらその答えを聞く事すらできませんでした。
しかし、私の求め進んだ道は正しかったのか。最後に分からぬ問いが残りましたよ。
あなたのこれからの生き様を冥土より見物し、その答えの穴埋めをさせて頂きます。
ソリテュードの身体がぐらりと傾き、今度は糸が切れた人形のように倒れた。
真紅の絨毯に青い血の花を咲かせ、鮮やかなコントラストを描き、高潔な魔導剣士は息絶えた。
ヨハンはソリテュードの死体を静かに見下ろし、剣を収めた。
崩落した壁の外、遠くに見える訓練庭で激しい戦いが巻き起こっているのが分かる。
「さらばだ、ソリテュード」
ヨハンは好敵手に別れの言葉を告げ、激闘繰り広げられる訓練庭へと急いだ。




