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ラグナロククエスト 『神々に翻弄されし運命』  作者: 風花 香
第三章 インガドル王国の戦い
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シルアとフィアナ

闘い! と思いきや閑話休題的な回です(汗)


 インガドル王国王都にて決戦の火蓋が切られた頃、単身北のドミディ大陸に渡ったシルアは林の中を進んでいた。

 初夏に当たる季節ではあるが、元々寒冷な地方の上、生い茂る木々の葉に陽光を遮られ肌寒さを覚える。

 

 数日前、ドミディ大陸南の玄関口である港町エルプエルトに到着したシルアは、そこで食料調達などの旅支度を整え、王都に向け出発した。

 道筋は地図を見て確認済みであり、頭の中にしっかり入っている。

 途中フェルシウダーという名前の都市を挟み、ドミディ大橋を渡った先に王都、ドミディ城はある。

 今シルアが、進んでいるのは港町から次の都市フェルシウダーに向かう途中の林の中。

 

 シルアは考える。

 王都に辿り着いたとして、どうやって中枢に潜り込もうか。

 神器の在処を知っている可能性が高いのは、やはり古くからその土地を支配する王族なのは間違いないが、一介の旅人風情にしか映らないであろう自分では、接近するのは容易でない。

 それに、事前に調べたドミディ王国の情報では他国との協調性を欠き、独立性の強い国とあった。

 往々にしてそういった国の王は猜疑心が強く、素性の知れない相手に親切にすることはまずない。


「あぁっ!」

 

 思考を上塗りするように、女性のものと思われる悲鳴がシルアの耳を突いた。

 木々のざわめきに混じっていたが、間違いないだろう。

 距離は五〇メートルといったところか。

 シルアは野生の獣のように林の中をしなやかに移動すると、やはり一人の女性が闇の狼(ダークウルフ)の群れに囲まれていた。

 二、三匹は倒れ伏し絶命しているようだが、それでも六匹の闇の狼(ダークウルフ)が涎を垂らしながら、尻餅をついている獲物にじりじりと歩み寄る。

 どうやら手にしていた剣は弾かれてしまったようで、武器も盾もなく、絶体絶命の様子。

 それでも歯を食いしばり、気丈に魔物を睨み付けている表情が印象的だった。

 

 よし、助けよう。

 そう思い立つと後は早い。

 川のせせらぎのような、静かで掴み所のない動き。

 流水の様に闇の狼(ダークウルフ)の前を通り過ぎると、一匹また一匹と倒れ、あっという間に全ての闇の狼(ダークウルフ)が骸となった。 

 

 双剣を鞘に納め、座り込んでいる女性に目を向けるシルア。

 ブロンズの長髪、丸く見開いた目、何より下着の様な服装にブーツを履いただけの異様な出で立ちは文化性のない原住民族を連想させる。


「大丈夫ですか?」


 無事を確認する声を掛け、手を差し出す。

 パン! と乾いた音が響く。

 差し出された手を叩き、手を借りず立ち上がる女性の目は、やはり気丈な力強い眼差しでシルアを睨み付けていた。


「誰が助けてくれと言った! 余計な真似を!」


「っと、これは失礼しました。危険な状況に思えたので、つい」

 

 両手を上げ、敵意が無いことを示しつつ後ずさるシルア。


「危険な状況だと!? 私はまだ戦えた! 戦士が誰とも知れぬ者の助けを借りるなど恥以外の何ものでもない!」

 

 あのまま何もしなければ、あなたは殺されていましたよ。

 と言うのは簡単だが、正論を言えば火に油を注ぐようなものだと思い、シルアはもう一度詫びる事にした。

 女性との口論は正論を述べればいいわけではなく、感情を制することが相手の矛先を収める一番の近道だと理解している。

 これはシルア自身の経験に裏打ちされているわけではないが、今までに周りの大人たちを見て得た知識だった。

 そうした低姿勢が功を奏したか、女性はため息を吐くと幾分か態度を軟化させる。


「まあ、ちょっと危なかったのは確かだし、一応礼は言っておくわ。私はフィアナ、あなたは?」


「僕はシルアといいます。ところで、なぜそのような出で立ちを? 魔物に対して色仕掛けですか?」

 

 にこっと笑いながら、あっけらかんと爆弾を投げ込むシルア。

 相手の心理を逆撫でする無神経な発言をするのは、天空の使徒に共通する悪癖のようなものなのかもしれない。

 案の定フィアナの顔が怒りの為か紅潮し、せっかく多少緩んだ表情も厳しいものに一変してしまう。


「戦士の覚悟を侮辱するか! この格好は最も効率的に闘い、敵を討つ為のもの。古くからドミディ王国に伝わる女戦士の正装だ! 如何わしい目で見るな!」

 

 如何わしいのはその格好でしょう、という台詞が喉の後ろまで来ていたが、シルアはそれを飲み込み再び謝罪した。


「ふん、シルアと言ったな? お前異国の旅人だろう? それならこの国の戦士の格好を知らないのも無理はない。だが、今回は許すが次はないからな」


「ご容赦感謝します。ところで、フェルシウダーという名の都市はまだ遠いのでしょうか?」


 地面に落ちていた剣を拾い、フィアナに差し出す。

 フィアナはそれを受け取ると鞘に収めた。


「フェルシウダーに行きたいのか? そう距離はないが、ふーん、そうか」

 

 フィアナは何か納得したように頷く。


「不本意ながら助けてもらったのだから、礼くらいせねば戦士が廃る。付いてくるといい。私はフェルシウダーに住んでるんだ。もてなそう」


「いや、結構です」

 

 即答するシルア。


「教えて頂けただけで十分……」


「いいから付いて来なさい! もてなそうと言っているのにその心遣いを無下にするな!」


「は、はぁ……」

 

 フィアナの剣幕に押され、曖昧な返事ながら了承してしまったシルア。

 どのみちフェルシウダーで宿泊しようとしていたのは変わらないし、この国の人間であるフィアナから多少有益な情報を得られるだろうと、シルアは一応納得した。 

 女戦士フィアナの後に続き、シルアはフェルシウダーの街へ進む。

 これがシルアとフィアナの出会いだった。


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