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ラグナロククエスト 『神々に翻弄されし運命』  作者: 風花 香
第三章 インガドル王国の戦い
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属性

 ヨハンに向かって伸びてくるソリテュードの魔剣。その軌道を確かに見切っていたはずが、突然視界から消え失せる。

 動揺したヨハンは、ここで構わず攻撃する選択肢もあったが、そうはせずに見失った魔剣の行方を探す。

 そして見た! 真っ直ぐ伸びていた筈の剣が、歪曲(わいきょく)しながら弧を描き眼前に迫っているのを。


「うおっ!」

 

 短く吠え、顔面を貫こうとしていた剣を躱すが、顔だけ避けるのが精一杯だった。

 剣は右肩を斜め上から貫き、鮮血が迸る。 

 大理石の床を転がり、膝立ちになったヨハンは右肩を抑えながら、不可解な軌道を描いた攻撃に思考を巡らせる。

 

 しかし、答えを頭の中に思い浮かべるよりも早く、ソリテュードの手元が回答を導く。


「賢明な判断、いや類稀な闘いの勘というべきでしょうか。あのまま私を貫こうとしていたならば、私に手傷を負わせるのと引き換えにあなたは死んでいましたよ」

 

 不敵な笑みを浮かべて言うソリテュードが、血に濡れた剣の切先を摘むとまるで柳の枝の様にしなやかに曲がった。

 その手を放すと血を散らしながら、バネのように柔軟に上下に揺れる。

 切れ味と強度はそのままに、鞭のようなしなやかさを備えた剣。

 それが視界から突然消え、予期せぬ軌道からの攻撃を可能にしたからくりだったわけだ。


「驚かされたが、タネを明かした攻撃をそう何度も食らうと思うなよ」


 ヨハンは臆すことなく立ち上がる。

 肩の傷は決して浅くはないが、ヨハンの戦意を消沈させることは無い。

 そんなヨハンを見て、ソリテュードも顔に笑みを浮かべる。


「いいですねぇ、あなた。中々お目にかかれない強者のようだ。ですが、それはどうですかねぇ?」


「なんだと? うっ!?」


 ヨハンは身体が硬直するのを感じた。

 身体全体に麻痺が及び動くことができない。が、その痺れはすぐに治まり、がくっと膝から崩れそうになる。

 そして次には頭が割れそうに痛みだす。

 

 一体何が起きているのか!? ヨハンが状況に混乱している中、ソリテュードは相変わらず不敵な笑みを絶やさない。


「マナに対する知識が浅いようですね。才能は申し分無いようですが、マナを使っての戦闘経験が圧倒的に不足してますよ」


「属性付与か」


「属性付与?」


ローレスの言う聞きなれない言葉に、ヨハンは顔を顰めながら疑問符をぶつけた。


「そう。マナは使い手によってその属性を変えることができる。属性は火、水、雷、土、風、光、闇の七つ。それぞれの属性は武器や魔法に付与し様々な効果を及ぼす。ソリテュードの使う剣は闇の属性を纏っているのだろう」


「つうか、そういう重要なことは先に教えとけっての」


 淡々と属性について説明するローレスに、ヨハンは突っ込みを入れる。

 シリアスな表情から一転、ローレスは、にかっと白い歯を見せておどけ顔を作り、青い髪を掻き上げた。


「すまない。言うタイミングを逸してしまっていたよ。闇の属性が及ばす効果は呪い。特徴は今まさに感じているだろうが、突発的な麻痺など、受けた呪いの大きさによって身体にきたす変調は多岐にわたり――」


「はあっ!」


 ヨハンの気合とともに、体から光の柱が伸びる。

 右肩の傷口に滞留していた黒い瘴気が、迸る光を浴びてぐすぐすと燻り、そして消えた。


「悪いなローレス。頭痛が酷いし、説明も長くて聞いていられなかったよ。だが、要するに俺にも俺に合ったマナの性質があるってことだよな」


「光の闘気(オーラ)ですか……」


 常に広角が上がっていたソリテュードの顔から笑みが消える。


 各属性は相対関係にあり、それぞれに長所と短所がある。

 火は風を得て燃え盛るが、水に弱い。 水は火を飲み込むが、雷に弱い。雷は水を貫くが、土に弱い。土は雷を受け止めるが、風に弱い。風は土を抉るが、火に弱い。


 しかし、光と闇だけは他の属性とはその関係が異なる。

 強い光は闇を浄化し、深い闇は光を打ち消す。この二つの属性だけはより強い力を持つ方に全てのエネルギーが偏るのだ。


「あなたと闘うことは私にとって宿命なのかもしれませんねぇ。血湧き、肉踊るようですよ」

 

 楽しげにそう言うと、ちらっとローレスを見やるソリテュード。

 その視線に気付いたローレスは腕組みをしたまま口を開く。


「安心しろよ。俺は手出ししないさ。最も、ヨハンがそれを許さないだろうからな」


「済まないな、ローレス」


「構わないさ」

 

 一騎討ちの様相を呈した闘いが再開される。

 ヨハンは光の闘気(オーラ)を纏ったまま、ツヴァイハンダーを素早く一閃させた。直接相手を斬ることを狙ったのではない。衝撃波を飛ばし遠距離からの攻撃を試みたのだ。

 ソリテュードは身を低くして、斬撃の波を躱す。後ろにあった玉座の背もたれが斬り落とされ、赤い絨毯の上に落下した。

 それが地につくよりも早く、ヨハンは抜刀の構えから低い体制のソリテュードに一閃を見舞った。


 一連の攻撃はヨハンの狙い通りだったが、それすらも間一髪の後方宙返りで当たらない。

 さらに宙に浮いたそこから、ソリテュードは惣闇(つつやみ)色の球体を放つ。

 勢い良く飛来する球体をヨハンは横っ飛びで躱した。漆黒の球は死んでいる使者の上を通過すると、なんとその亡骸を引き付け、吸収した。

 球は亡骸を丸呑みにしたかと思うと、そのまま縮小して消え去り、後には使者の亡骸は残っていなかった。

 ヨハンは知る由もないが、それは闇の魔力を使用した暗黒(ダーク)空間(ホール)という魔法だった。


 しかしヨハンは未知の魔法にも臆さず、素早く体制を立て直すとソリテュードに打ち掛かる。

 互いの剣と闘気(オーラ)が激しくぶつかり合い、火花を散らしながらの白熱した闘い。

 闘気(オーラ)の強さは互角で、力と力の斬り合いならば、ヨハンが徐々に押し始め、剣の強度でも劣るソリテュードは受ける剣が流されつつあった。


 やはりこの人間は相当に強い。

 属性付与を今しがた知ったにも関わらず、既に自らの性質にあった闘気(オーラ)を使いこなし、あまつさえこの私の暗黒闘気と互角の強度を誇るとは。

 この私がこうも防戦に回るなど、記憶を辿っても思い出すこともできない。

 ソリテュードは目の前の人間の実力は心底侮れないと感じ、畏怖の感情さえ芽生え始めていた。


 ヨハンの攻撃は勢いを増し、この剣乱の嵐が始まれば、対象者は否応なしに巻き込まれていく。

 スピードに自信のあるソリテュードも体制の立て直しを図ろうとしているのだが、ヨハンが剣を振るうたび、まるで暴風が吹き荒れているかの様に身動きが取れなくなる。


 ローレスはヨハンの闘いぶりを眺めながら、闘うごとに急速な進化を遂げるヨハンに頼もしくも、末恐ろしい感情も抱いていた。ヨハンはいずれ自分にも追い付くかもしれない、それも遠くない未来には。


「これは、不味いですねぇ」


 口元こそ笑っているが、今のソリテュードには明らかに先程までの余裕はない。

 このままではジリ貧。なんとかこの嵐の様な攻撃から逃れねば。と、ソリテュードが逃げ道を模索したその時、ヨハンの攻撃が一瞬止まり、小さく速い動作から突きを繰り出した。

 左右からの連撃から、全く軌道の違う攻撃を防ぐのは容易でない。

 

 だが、ソリテュードはほくそ笑んだ。

 一瞬の間。そして最も得意とする突きに対する返し技。

 意表を突いたつもりだろうがその選択は裏目だと、ソリテュード得意の奇怪な突きが絶妙なタイミングで放たれた。

 

 直後、金属同士がぶつかる音が響く。顔面を貫き血飛沫(ちしぶき)を舞わせる筈だったソリテュードには、あまりにも意外な音。


「ぐはぁっ!」

 

 腹部に風穴が開くほどの衝撃を受けたのはソリテュードだった。口からは血と唾液が混じった液体を吐き、身体は壁に叩き付けられる程に吹き飛ぶ。

 

 ヨハンは前傾姿勢になりソリテュードの突きを背中に掲げる鞘で受け止め、ツヴァイハンダーによる突きから一転、光の闘気(オーラ)を纏わせた拳を思い切り鳩尾に叩き込んだのだ。


「言っただろう? タネを明かした攻撃は通用しないと」


「ぐっ、そのようですね。その自信を過信にしてやるつもりが、見事に破られましたよ」

   

 膝をがくがくと揺らしながら、ソリテュードは立ち上がる。

 笑みを絶やさぬ口の端から血の筋が垂れ、不敵さを繕うこともできていない。


「王はどうした? 殺したのか、はたまた幽閉しているのか。お前に答えない選択肢はないことをよく理解して正直に話すんだな」

 

 勝負あった。そう判断したローレスはソリテュードに問いただす。

 青髪の剣士は普段の飄々とした態度とは打って変わって、氷の様に冷たい視線を魔剣士に向けている。


「くくっ、舐められたものですね。殺されることを恐怖してべらべらと口を割るとお思いですか? それに何をもって闘いが終わったと判断しているのです? 腹を一発殴られただけで降参するとでも?」

 

 含み笑うその表情には、まだ何か切り札を隠しているかのような不気味さを漂わせる。


「確かに予想よりも遥かに手強いですが、私はまだまだ闘える。それに、あなたも観戦だけでは退屈でしょう。とっておきの相手を招待してますよ」


「何だと?」


 玉座の間の扉が勢いよく、粉々に吹き飛ばされたのは直後のことだった。

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