城塞都市スメロスト
滞りなくスメロスト砦へと辿り着いたパウルたち。
ここまでの道中は先行して進んでいたグレンが、時折現れる魔物を瞬時に倒していたので、危険もなかった。
広大な敷地の中に繁華街や訓練施設。更には駐屯兵の宿舎などの施設が充実しており、経済的にも軍事的にも重要な位置にある大都市。
人口ニ八〇〇〇人の他に、行商人や異国の旅人。先に述べた駐屯兵等が滞在している為、総人口は王都であるインガドル城に比肩する。
スメロスト砦は二重の塀に囲われており、その塀の至る所に警備塔や、迎撃用の射撃基地が設けられている要塞である。
遥か昔からインガドル領内の玄関口、国門として幾多の戦いが繰り広げられたが、不抜の砦として名を馳せた過去を持つ。
現在でも要塞としての機能に衰えはないが、内部は繁栄した城下町となっており、その夜でもきらびやかな世界はパウルとユリアを驚嘆させるには十分だった。
夜でも街灯が灯され、店の明かりが漏れ出し、喧騒に包まれたこの街はまるで夜も眠らぬ街のようで、月明かりがなければ外も出歩けない故郷とは別世界に感じる。
道行く人々の格好もお洒落で、まるで舞踏会に参加するかのようなドレスを着飾った女性や、タキシードを着こなす男性。ユリアは自分の粗末な服装を見て暗い気持ちになり、地面に視線を落とす。
「ユリアは着飾ったりしなくても十分に魅力的で素敵な女性さ。そこらを歩く誰よりもな」
ユリアははっと顔を上げ、その頬を紅潮させた。
パウルの賛辞に照れたのではない。自分が羨望と劣等の間で気落ちしている様を見抜かれたことが恥ずかしかったのだ。
着飾ることなど、旅の目的とは全くの無関係なのに、それを少しでも望んだ自分が愚かしく思える。
「やだ、私そんなに羨ましそうな顔してた? なんか恥ずかしいね。行きましょう。取り敢えず今日はもう休むんでしょう?」
「これからのことを話しておくが、暫しこの街に滞在して情報を得るぞ」
「確かにそれがいいわね。ここまで大きな街は当分ないはず。異国の旅人も居そうだし、できればここの領主とも話したいし、情報収集するならこの街ですべきね」
唐突にグレンが方針を口にし、クリストがそれを補填する。
パウルとユリアに異論はなかった。
「では、あそこの宿屋を拠点としよう。情報収集は各々でする。いいな」
グレンはそう言うと、さっさと雑踏に紛れ込み姿を消してしまった。異論を聞く気はないということだろう、その自分本意な態度にパウルは舌打ちをして、グレンが消えた方向を睨み付けた。
「まあいいや、俺達はもう休むとしようぜ」
グレンを除く三人は、繁華街の一角に佇む大きな宿屋に入っていった。