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ラグナロククエスト 『神々に翻弄されし運命』  作者: 風花 香
第三章 インガドル王国の戦い
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凸凹メンバー

 パウルたち一行は、ヴィデトの塔へ向かう西へ伸びるか細い道と、大都市スメロスト砦へ続く街道の岐路に立っていた。

 前回ここを通った時は西へと進んだが、今回は当然南へ伸びるスメロスト街道を行く。

 

 ここまでやってくる過程で、パウルたちはガレスの宿屋に前夜立ち寄った。

 泊まることも目的ではあったが、一番はガレスを見舞いに来たのだ。

 だが見舞う気持ちでいたパウルとユリアの予想に反して、ガレスは以前宿泊した時と、何ら変わらぬもてなしをしてくれた。大層な包帯を巻いた姿ではあったが、豪快な料理と大声量のサービスも健在で、クリストとユリア二人の美女に終始上機嫌。 

 そんなだから魔族の女に虜にされてやられるんだよ、とパウルが苦言を呈しても、ガレスは頭を掻いて豪快に笑い飛ばしていた。

 兎にも角にも、そんな様子のガレスに胸を撫で下ろし、今朝別れを告げたのだ。

 

 進む道は大都市へと続く街道とあって、行商人の姿を頻繁に見ることができる。

 スメロスト砦へ近付いているということだろう、行商人の運ぶ積荷がスメロスト砦で(こしら)えたばかりで山積みの場合が多くなっている。


 とりあえず一息つける場所が近付いているのだが、パウルは居心地の悪さを禁じ得ないでいた。

 この四人で旅をして既に一日と半日が経過しているが、パウルはと言うと出発してから殆ど会話を交していない。

 ユリアと僅かに話したのみで、グレンはこちらと関わりを持つ気が一切感じられないし、クリストも手の甲にキスをした一件が原因か、パウルに対する態度は非常に冷たい。

 それに比べ、クリストのユリアに対する態度は軟化しており、女性同士ということもあってか、ここ数時間はおしゃべりをしているのが耳に入る。

 今もそうだ。


「なるほど。じゃああなたは、マナの存在を認知していないにも関わらず魔法を使ったのね」


「ええ。あの時はヨハンが危なくて、只々ヨハンに死んで欲しくない気持ちだけだったわ。そしたら私の叫びに呼応して、緑色の風が渦を巻いて魔物を襲ったの」


「緑色の風……」

 

あまり感情の起伏を感じさせないクリストだが、僅かながら驚いているのがわかる。

 呟いたきり暫し沈黙するクリストに、ユリアは控え目に声を掛けた。


「急に黙って悪かったわね。その魔法は翡翠の突風(エメラルドブラスト)という精風系魔法の高位に位置するもの。本来ならば何も知らないあなたが使えていい代物ではないし、私だって修得するには一筋縄ではいかなかった。正直驚いているわ。あなたはエルザエヴォス様が言うように、類稀な天賦の才能を持っているようね。私もその才能が開花するように手助けしていくわね」


 ユリアに向けたクリストの笑顔は気品があり知的で格好良かった。

 天空の使徒たちを血も涙もない冷徹な人たちだと思っていたが、少なくともクリストに対する考え方は僅かに会話をしたばかりだが、改める必要がありそうだ。


「ありがとう。私も足手まといにならないように頑張るわ。よろしくね……クリストさん」


「クリストって呼び捨てでいいよ。私も、あなたのことをユリアって呼ぶから」 

 

 頼れるお姉さんができたような、そんなほっこりとした気持ちが胸を満たし、ユリアは顔を綻ばせた。


「何だよ、お二人さん。凄え打ち解けちゃってさ。なあ、クリスト。俺にも魔法の極意教えてくれよ」

 

 二人の関係を羨ましく見ていたパウルが、図々しく間に割って入る。

 その途端にクリストの表情が一気に不機嫌そうになり、パウルに視線すら合わせない。

「気安く呼ぶな。お前は魔法云々の前にマナすら見えていないのだから話にもならない」


「冷てえなあ。お前呼ばわりかよ、俺のことも名前で呼んでくれよ」


「お前の名前など覚えていない」

 

「パウルだよ。パウル! おっ!?」


 パウルたちの行く手の先に、城塞で囲われた大きな街が姿を現した。

 要塞さながらのその街は、インガドル王国第二の都市、スメロスト砦だ。


「まあいい! 話は後だ。先を急ごうぜ!」


 お調子者は先頭を行くグレンを抜き去り、我先にとスメロスト砦へと駆け出した。


「パウルのことを嫌わないであげて? 失礼な振る舞いをしちゃうけど、根は優しくて良い子なんだよ? 強くなりたいって気持ちも本心から思ってることだし」


 ユリアの申し訳なさそうにするパウルの弁護に、クリストは苦笑するしかなかった。

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