魔神軍集結
三章に入ります。
ようやく主人公サイドの敵となる魔神軍の面々が登場します。
僅か数メートル先も見通せないほどの霧が常時発生している濃霧の大地。
あらゆる動植物が死滅し、荒廃した大地と毒の沼地がどこまでも続いており、そこから発生し蔓延した瘴気が、再びこの地に生命を吹き込む事を許さない死の島。
この島の中央にはかつて、精霊神アテナを祀っていたギルガメシュ神殿が鎮座していたが、災いの日の大地震により崩壊。
現在この地は巨大な大穴が口を開き、そこを通る風は地獄の唸り声の如く不気味に響き渡っている。
その大穴の遥か下方には広大な建造物があり、それこそが大魔神デストロイアルの根城、地底魔城だ。
その地底魔城に今まさに魔神軍の幹部が集結しつつある。六つの軍団に分けられ、各軍を束ねるそれぞれの軍団長は各々が魔界の王たちであり、凶悪無比の力を有する。
「オルフェリア様、ご到着されました」
巨大な門が重々しい音を響かせ開くと、門兵がオルフェリアの到着を告げる。
既に他の五団長は集まっており、デストロイアルの待つ玉座の間にある円卓はオルフェリアの席だけが空いていた。
「待たせたわね」
オルフェリアが席に着くとデストロイアルは、低く威厳ある声色を響かせた。
「遠路はるばるご苦労であった。同志たちよ」
デストロイアルは同志たちと呼び足労を労った。
そう、ここに集った七人は同志であり、上下関係はない。
席次のない円卓になっているのもその表れであり、デストロイアルを頂点に据えて魔神軍は構成されているが、それはあくまで総意の象徴としてである。
「我々の目的を果たす時が来た。忌々しい天上の神々を抹殺し、魔族繁栄を遂げる時が。アテナは既に封印し、スティルヴァースへと導く三種の神器の一つも手中に収めた。残る二つの神器を手に入れし時、我々はスティルヴァースの邪神どもを屠り去るのだ」
「ただし、障害も出てきたわ。エルザエヴォスが勇者と見込んだ存在と天空の使徒たち」
オルフェリアは美しい顔を不機嫌そうに尖らせる。
今一歩で勇者を仕留め損なったことと、その原因となった天空の使徒たちに憎悪を燃やしているのだ。
「先行した割には特に成果もなく逃げ帰ってきたわけか」
角の生えた髑髏のような顔立ちをし、その中の吊り上がった白目だけの瞳が特徴的な魔王、ゲノシディオが毒突く。
六軍団の一角、鬼神軍は束ねる猛者で、破壊と殺戮を無上の喜びとする残虐な魔王。
「あら? そう言う貴方こそ鬼神軍の幹部を送り込んでおいて、何の成果も挙げていないようだけど?」
「ふん、ディエゴのことを言っているのだろうが、奴は所詮人間如きに遅れを取る脆弱者よ。本来俺一人いれば、軍など必要としない。勇者も天空の使徒共もまとめて血祭りにしてくれるわ」
「言い訳も自惚れるのも結構だけど、どうか情けない姿は見せないことを願いたいわね」
オルフェリアは嘲笑して返し、それを受けてゲノシディオの瞳がギラッと殺気を帯びて光る。
「止められよ。そのような瑣末事で争ったとて、詮無きこと。神器の在り処を求めているのは奴等も同様。自ずと戦うこととなろう」
黒の甲冑に全身を包み、顔全体を覆う兜の中で、目の光だけが異様な威圧感を醸し出している。
死霊軍軍団長ガルヴォロスは、冷静に二人の無益な争いを止めた。
「ふん! ならば俺は先行して、勇者と天空の使徒共をあの世に送ってくれよう!」
「ゲノシディオ、本来の目的は忘れるな。神器の入手こそが最優先だ」
血気盛んに席を立ったゲノシディオに、デストロイアルが釘を差す。
「言わずもがなよ」
ゲノシディオは光の矢となって地底魔城を飛び出した。
「では、我も行かせてもらおう。流石に世界を揺るがすこの戦い。血がたぎるのでな」
ガルヴォロスは重々しい甲冑の音を響かせ立つと、同じく光の矢となり飛び出す。
「無論、私も行かせてもらうわ。ごきげんよう」
オルフェリアも遺恨を晴らすべく、直ちに飛び立つ。
円卓の七つの席の内、三席が空き、残る四人は腕組みをしたまま微動だにしない。
「同時に向かっても仕方あるまい。我等はここで戦局を見据えるとしようか」
デストロイアルの言葉に、間闇軍団長ダーマフリートと覇竜軍団長ガレイオスが同意を示す。
が、一人、赤いローブを纏った祈祷師然とした男が席を立った。
「ん? 向かうのか?」
「ガルヴォロスは兎も角、ゲノシディオとオルフェリアは目的を履き違えているようだからな。私も出向き、邪神どもの抹殺を円滑に進めよう」
「ふっ、頼むぞ」
天魔軍軍団長ヘルガイアもまた、地底魔城を後にした。
天界の神々をも滅ぼさんとする魔神軍。
その内の四軍団が出撃し、今まさにラー大陸を恐怖と絶望に陥れようとしていた。