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ラグナロククエスト 『神々に翻弄されし運命』  作者: 風花 香
第一章 宿命を背負いし者たち
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ヨハンVS魔獣ディエゴ

 上からの突然の声に驚くヨハンたち。

 声の主は空中で浮遊し、三人を見下ろしている。

 あまりの驚愕に声も出ないヨハンたちをよそに、声の主はふわりと地面に降り立った。

 焼死体を挟んで向かい合ったそれは、紫色の筋骨隆々とした身体に頭からは二本の角が生え、顔は鬼の面を被ったかのように恐ろしい形相をしている。

 身長は有にニメートルを超えており、腕組みをした手には棒状の武器が握られている。

 

 もはやこいつが目の前で骸となった人たちを殺した張本人に違いない。

 しかし黒焦げになるまで焼き尽くす常軌を逸した殺害方法は、ヨハンたちの知る既知の魔物たちとは一線を画している。

 強者としての勘が、ヨハンにこれから巻き起こる死闘を告げていた。


「ま、魔物が喋りやがった」

 

 パウルの驚愕がようやく声になり、それを聞いた魔物が含み笑い、声を上げて笑った。

 その口には鋭い牙がずらりと並んでいる。


「人間以外が喋れたらおかしいか? 小僧」

 

 腹の底に響いてくるような低い声だった。

 直接問い掛けられたパウルは、蛇に睨まれたカエルのように身が竦み動けなくなっていた。


「笑わせる。我ら魔族からすれば貴様ら猿どもが口を聞けることこそ驚きよ。貧弱な下等種族の分際でラー大陸を我が物顔で闊歩する貴様らを見ると腸が煮えくり返る思いだ」

 

 憎しみがこもった眼光が向けられ、威圧感にパウルは一歩後ずさる。

 ユリアは震えながらも気丈に睨み返し、レイピアを力強く握っている。


「忌々しい人間ども。その人間どもに力を貸す精霊神アテナ。そしてアテナの霊力により結界が張られ守られているヴィデトの塔。全てが忌々しい! 我の侵入の邪魔をした輩は排除したが、まだまだ足りぬわ!」

 

 黒焦げの遺体はどうやらヴィデトの塔をアジトにしていた山賊たちのようだ。

 山賊たちは自分たちの縄張りに不法侵入しようとした魔物を倒そうとして返り討ちにあったのだろう。


「貴様らが何の目的でこの地に来たかは知らんが、己の悲運を呪うんだな!」

 

 言い終わらないうちに不意を突く速さでヨハンに襲い掛かってきた魔物。

 甲高い金属音が辺りに響き渡る。

 凄まじい速さの一撃ではあったが、ヨハンは振り下ろされた一撃をツヴァイハンダーで見事に防いでいた。

 驚きの表情を浮かべる魔物の顔が目前に迫り、一瞬硬直した敵を力を込めて押し返した。


「二人とも下がっていろ」 

 

 ヨハンは敵を見据えたまま二人に言う。

 とても助太刀できるレベルではないと判断したパウルとユリアも、言われた通り距離を取って自分の身を守る事に専念する。


「人間にしてはやるな。今までの人間はあの一撃で脳天真っ二つだったが」


「その程度の一撃なら人間でも打ち込めるやつはごまんといるぞ」

 

 魔物の顔がぴくりと引き攣る。

 蔑んでいる人間如きに馬鹿にされたことが怒りに火をつけたようだ。

 憤りの篭った微笑を浮かべる魔物。


「いいだろう。手加減なしだ。このディエゴ様を侮辱した事とくと後悔させてやろう!」

 

 額に怒りの筋を浮かび上がらせてディエゴと名乗った魔物はフレイルを振り上げた。

 再び高く響き渡る金属音。

 独特の形状ゆえにあらゆる角度から迫り来る連撃を巧みな剣捌きで防ぐヨハン。

 しかし本気を出したディエゴの一撃は重く、攻撃する隙がなかなか生まれない。

 防ぐ事に徹するヨハンだが、ディエゴの攻撃パターンは次第に掴みつつあった。

 

 上からの振り落としに横からの薙ぎ払い、斜めに奔る袈裟がけの一撃。

 左右問わずの攻撃ではあるが、棍撃の角度に早くも見慣れたヨハンの防戦が変わる。

 全ての攻撃を受け止めていたヨハンが足捌きを使って空振りを誘うようになったのだ。

 ディエゴの間合いに自らを置きながら、圧倒的な手数の攻撃を往なして躱す。

 ヨハンの闘いにおける才能はとてつもないものだ。

 

 苛立ちを見せるディエゴが横薙ぎの一撃を放つ。

 空気を切り裂く音が離れて立つパウルたちにも聞こえる。それほど速い一撃。

 ヨハンはその攻撃を見切り体勢を低くして躱すと、お返しとばかりにディエゴの足を横薙ぎに切り裂いた、はずだった。


「なっ!?」

 

 ヨハンの剣はディエゴの足首に食い込み切断するはずだったが、実際には僅かに食い込んだのみで剣は止まってしまった。

 狼狽するヨハンの脇腹に鈍い衝撃が走り、ヨハンは剣を手放し草の上に吹き飛ばされる。

 脇腹を抑え、咳込みながら起き上がったヨハンは蹴られたのだと悟った。

 予想外の出来事に一瞬何の衝撃だったのかすら分からなかったのだ。


「ふっ、所詮はねずみ。ちょこまかと逃げ回ったところで、その程度の攻撃など効かぬわ!」

 

 ディエゴは足からツヴァイハンダーを抜き、それをヨハン目掛けて投げつけた。

 地面を転がり串刺しは免れたヨハンだが、自分の攻撃がほとんど効いていないことに焦燥感に駆られる。

 回避から攻撃に転ずる流れは完璧だったにも関わらずダメージを与えられないというのは今まで経験のないことだった。

 今、己が対峙しているのが人智を超えた化物だとヨハンは改めて思い知らされた。

 

 だが焦る気持ちは直ぐに消沈し、代わりに闘争心の炎がヨハンの中に燃え上がる。

 一撃で効かぬならば二撃三撃と見舞えばいい。

 あるいは両手を使った渾身の一撃ならば威力は段違いに上がる。

 不退転の闘志こそヨハンの真骨頂であり、強さを裏付ける武器なのだ。

 幸い腹に負ったダメージは大事には至っていない。立ち上がり地面に突き刺さっているツヴァイハンダーを抜くと、ヨハンは再びディエゴに斬りかかった。

 

 ヨハンの闘いをただ見守ることしかできないパウルとユリアは己の無力を感じずにはいられなかった。

 そこらに現れる魔物たちとは段違いに強いディエゴ。

 そのディエゴに一人闘いを挑むヨハンの背に、ユリアはただただ祈りの念を送ることしかできない。 


 先程の攻防を見ても善戦こそしているが、ヨハンの苦戦は明らかだった。

 しかし腹部に強力な蹴りを受けたにも関わらず、怯むどころか果敢に斬りかかるヨハンの勇姿。

 パウルは不安と心配、そして羨望の篭った眼差しで見つめていた。

 

 闘志を燃え上がらせたヨハンは果敢に攻撃を仕掛ける。

 軽い一撃ではディエゴの身体に僅かなダメージしか与えられないことを考慮し、一撃一撃に力を込める。

 さすがのディエゴも重い一撃には警戒を示し、フレイルで剣撃を受け攻撃を防いでいる。


「こんな遅い攻撃では俺の身体には到底届かぬぞ!」

 

 攻撃を受けながらもディエゴには余裕がある。

 一振りに力を込める分攻撃の回転が落ち、楽に防がれているのだ。


「そろそろこちらから行くぞ!」

 

 再び攻守が入れ替わり、ディエゴの振るうフレイルの穀物からものがうねりながらヨハンを襲う。

 剣で防ぎ、身を伏せ躱し、防戦を強いられるヨハン。

 流石のヨハンも息もつかぬ攻防に疲れが見え始め、息遣いが荒くなっている。

 動きに精彩を欠くヨハンは次第に際どく防ぐことが多くなり、対するディエゴの攻撃は激しさを増す。


「貴様が人間でなく魔族に生を受けたなら、或いは俺に比肩する実力を身につけられたかもしれぬなぁ!」

 

 横薙ぎの一撃を間一髪防いだヨハンだったが、衝撃で体勢を崩される。

 好機と見たディエゴはこの隙を見逃さず、低い大勢のヨハンの頭蓋に渾身の一撃を叩きつけた。

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