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ラグナロククエスト 『神々に翻弄されし運命』  作者: 風花 香
第一章 宿命を背負いし者たち
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現れた驚異

「よし、出発するぞ」

 

 月が沈み太陽が昇りきっていない明け方。

 生い茂る分厚い木々の葉は壁を作り、降り注ぐ光を遮断する。 

 それでも幾分か視界がきくようになったこの時間の出発に変更はなかった。

 何らかの不都合な出来事によって目的地への到着が遅れることも考えられるから、行動は早め早めが望ましい。


 ヨハンは小さく灯っていた焚き火を踏み消すと馬に跨った。

 明け方の為か生き物の気配に乏しく、この日の旅の始まりは静かなものとなった。

 風にそよぐ葉の音がやたらと大きく聞こえ、馬蹄が地面を蹴る音も際立っている。

 しかしこの静けさはいつ破られてもおかしくない。

 この森を一日経験した三人に油断はなく、僅かな異変にも即座に反応出来るよう周囲への警戒は怠らない。

 

 だが、予想に反して出発からしばらく経っても魔物の襲撃は一度もなかった。

 昨日の出現率からすれば既に二度三度闘いになっても不思議ではないのだが。


「ここまで魔物に出くわさないとはどうもおかしいな。早い時間の移動が功を奏したか……」


「魔物の連中はおねんね中なんじゃねえの?」

 

 ヨハンの呟きにパウルは楽観的な答えで返したが、どうにも符に落ちない。


「もしかして、精霊水の匂いが私たちに付いているんじゃないかしら?」


「なるほど……。確かにその可能性は考えられるな」

 

 合点がいったヨハン。

 キャンプ地の周囲に撒いた精霊水ではあるが、その匂いなのか成分なのかが自分たちにも付着し、それで魔物たちは近づいてこないのだ。

 確かな効果が精霊水にあるのは昨日既に証明されている。

 だとしたら移動は慎重さよりも速さを求めるべきだとヨハンは即決断した。


「よし! 足を速めよう。精霊水の効果がいつまで持続するかわからないが、効果があるうちにこの森を抜けられればベストだ」

 

 この迅速な決断は吉とでた。

 移動速度を上げたことにより、厄介な森を早めに抜けることができたのだ。

 

 森を抜けるとそこからの道筋は単純なものだった。

 山賊が往来している為だろう、真新しい通り道ができており、それを辿れば目的地のヴィデトの塔に着くのは明らかだ。

 

 太陽が高く昇り暖かな日が差す正午頃。

 ついに遠方に広大な海の青さを視認できるところまでやって来た。

 

 アスタード大陸北部の西の果て。

 突き出した岬のような地形のそこに悠然と聳える建造物も、今やしっかりと視界に捉えている。


「ヴィデトの塔だ!」


 パウルが目を輝かせて叫んだ。

 大海を臨む五〇〇年も前に建てられた塔は、人々にその存在を忘れられながらも確かに存在した。

 ヨハンたちは謎の予言者が残した言葉の真意を確かめるべく推参したに過ぎないが、広大な大自然に不似合いに佇むその塔の姿は美しく、一見の価値がある。

 宿泊施設が設けられれば観光名所になっていてもおかしくないだろう。

 

 自然と勇み足となり、遠くに小さく見えていたヴィデトの塔は既に見上げる程の距離にある。

 その大きさに三人は圧倒され、感嘆の声を上げた。

 スメロスト砦という大都市に赴くヨハンでさえ息を呑む大きさなのだから、村からほとんど出たこともないユリアとパウルからすれば圧巻の一言だ。

 暫しの間塔を見上げていた三人だったが、ふとある事に気付く。

 周囲を見渡すヨハン。


「山賊の気配が全くないな」

 

 その言葉に二人もそういえばという表情を浮かべ、同じ様に辺りを見渡した。


「あそこに馬がいるわ」

 

 ユリアの指差す先には粗末な造りの馬房が建てられており、中には五頭の馬が繋がれていた。

 馬たちは何かに怯えているかのように、落ち着き無く嘶いている。


「塔の中にいるんじゃないか? こんな辺境の場所なんだ。見張りも立ててないんだろうよ」


「確かに、その可能性が高いか」


 馬が繋がれている以上、塔内かもしくはごく近場に山賊たちがいる可能性が高いだろう。

 こんな西の果てから馬に乗らず遠出は考えにくい。

 山賊稼業をするにも、スメロスト砦近辺まで行かなければ行商人や旅人すら見つからないはずだ。

 

 そう結論づけたヨハンは山賊との戦闘を念頭にヴィデトの塔の重厚な扉の前に立った。

 パウルにも気を引き締めるように伝え、ユリアには離れないよう釘を刺す。


「ヨハン……あそこ」


「ん?」

 

 ユリアは馬房とは逆の方向を指差した。

 見ると、そこは明らかに不自然であった。

 周辺は余すことなく草花が生い茂り咲き誇っているというのに、その場所だけが刈り取られたようにすっきりとしている。

 ぽっかり開けたその場所をさらによく見ると、黒煙が薄っすら立ち込めているのがわかった。


 異常事態だと感じたヨハンはその場所へ駆け出した。

 パウルとユリアも続き、近付くとそこには焦げた物体が七、八個転がっている。

 

 全身の血が凍り付く程の戦慄を受けた。

 なんとその黒焦げの物体の正体は人間だったのだ。

 もがき苦しみ転げ回ったと見られる焼死体。

 生き物の焼ける臭いに三人は咄嗟に口と鼻を手で覆った。


「な、なんだよこれ!? 人間じゃねえか! まさか山賊たちに殺された人たちか!?」


「そんな! こんな、こんな酷いことをするなんて!」


 パウルの驚愕と、ユリアの憤りが溢れだしたその時だった。


「まだ仲間がいたのか」


 上空から低く濁った声がした。

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