婚約破棄をした娘と息子各々の母親の独白
普段はひっそりと二次創作を書いております。
今や、ジャンルと化した『婚約破棄もの』、私も好きですが、余りにも簡単に婚約破棄をする王子たちに対して、「責任ある立場の人が、ポンポン婚約破棄なんてするんじゃない! お母さんは泣いてるぞ」という叫びから生まれたのがこの作品です。
よくあるテンプレの婚約破棄後、としても良いのですが、一応設定を書くと「幼い頃から公爵令嬢と婚約関係にある王子が、貴族と一部の平民が通える学園で平民の少女と恋に落ち、その少女に嫌がらせをしたから、との名目で、とある舞踏会にて平民の少女と共に公爵令嬢を糾弾し、婚約破棄を叩きつけた後」という設定でお読みください。
婚約破棄をさせた娘の母親の場合
「この度は、うちのバカ娘がとんでもない真似をしでかして、お詫びのしようもございません。
あたしは、下町でパン屋を営んでいるただの女将でございますが、これまで、お天道様に顔向けできない真似をした事はただの一度もございません。粗悪な小麦粉を混ぜたり、釣り銭をごまかしたりは決してせず、とにかく堅実に、バカ正直と言われるような商売をしてきたつもりでございます。
同じように、娘にもとにかく人の道に外れるような事はしちゃいけないと、教え込んできたつもりでございますが、どうしてこんな事になったのか…。
なんだい? 自分は何も悪いことはしていないから頭を下げないでくれって? 寝ぼけたことをお言いじゃないよ。
今日、どこかの貴族様のお使いだっていう人が来たんだ。あんたを養女にする手続きに、あたしの署名とかが要るって。え? する訳ないだろ。どうしてって……、当の娘から一言も話を聞いていないってのに、そんな怪しげな話に署名出来るかい。
あんたは、容姿だけは良いからね。貴族の名を騙ってどこかに売り飛ばす話だったりしたら大変だろ。あたしにとっては目が飛び出るような金を渡そうとするしさ。とにかく、あんたから直接話を聞かなきゃって思って、慌てて店仕舞いにして、学園に行ったんだ。
そこで、あんたがお城へ行ったって聞かされて、そのまま城に来たんだけど、どうすれば入れて貰えるか分からなくて、門の近くをウロウロしていたら衛兵さんに問いただされて、自棄になって正直に事情を明かしたら、宰相様の使いだって方に入れて貰えたのさ。それで、宰相様に、「その目で見たほうが早いでしょう」ってその、さっきの舞踏会を裏から見せて貰って…、それで、それで…。
まさかあんたが、産みの母親とそっくりの事を言って、そっくりの事をするとはね…………。
あんたの父親――あたしの元亭主は、顔だけが取り柄の遊び人のロクデナシだった。そんな奴でも、結婚でもすれば落ち着くんじゃないかって親同士が決めた嫁があたしだったのさ。あんたの言葉を借りれば、親が勝手に決めた結婚なんて意味が無いって事になるのかもしれないけどね。
それでも、神様に誓った正式な夫婦なんだ。何とか仲良くやっていきたいと努力したつもりだけど、あの人の遊び癖は変わらず、それどころかとうとう愛人と逃げちまった。ああ、愛人じゃなくて「真実の愛を見付けたんだ。運命の恋人なんだ」とか二人で盛り上がってたけどね。その上、眉をひそめる世間様が無理解だ、認めない妻――つまりあたしが悪いとか抜かしてたっけ。
挙句に、「自分達にはお互いの愛以外必要ないんだ」とかって、あの女は生んだばかりの赤ん坊を置いて、あの人は店の金を全部持って、手に手を取って駆け落ちしたんだよ。それをあんたは、愛する人と逃げるなんて何て素敵な純愛なんだと思うかい?
その赤ん坊? あんたに決まってるだろ。あんたは――顔だけは良かったあの女とあの人の、更に良い所だけを受け継いだような顔立ちで、赤ん坊の頃から、将来凄い美女になるのは間違いなかった。そのせいで、娼館が引き取ろうとしてるって聞いたあたしは…、あたしは…。
親のした事がどうあれ、赤ん坊には何の罪もないし、元はといえばあたしの亭主の不始末だ。施設にでも引き取られるのならともかく、娼婦として仕込まれるのはあんまりだと思って、あんたを引き取って、周りにも口止めして、今日まで育ててきた。あんたがこんな事を仕出かさなきゃ、一生言う気は無かったよ。
方々から借金して店を立て直しながら、一日中働かなきゃあんたを食わせていけなかったから、贅沢なんて全くさせてやれなかった。どんなに粗末な格好をしていても、天使みたいな見掛けのあんたを皆チヤホヤしたから、そのせいであんたが思い上がらないように厳しくも育てた。
でも、道に外れた事をしながら、自分は何も悪くない、悪いのはみいんな周りだって言うような、そんな娘に育てた覚えだけはないよ。
別に店を継がなくったって良いさ。あんたが、身を立てて行けるような仕事を見つけるかーーいい人に出会えれば、その人の仕事を手伝うんでもいい。とにかくお天道様に恥じないような生き方さえしてくれればと、それだけを願って育ててきたのに。
でも、ずっとひどい嫌がらせを受けてきたんだ? 当たり前だろ。人様の前で堂々と不倫紛いの真似をしておいて、応援するような人がいるもんかい。ついでに言えば、平民が、雲の上の人に擦り寄るような不敬な真似をしていたら、貴族だけでなく、同じ平民であるあたし達だって良い気分はしないね。
さっき学園に行ったって言ったろ。そこで、同じ平民の生徒さんが泣きながら教えてくれたよ。自分たちもあんたに嫌がらせしてたってね。
驚いているようだね。仲間だと思ってたのに裏切られた? どこまで頭が沸いているんだい。あんた一人の行動のせいで、他の平民の生徒さん達がどんなに肩身の狭い思いをしていたか、全然気がついていなかったのかい。
「平民の女は玉の輿に乗るために――男漁りをしに学園に来ているんだろう」って貴族の生徒に嘲られたりしているんだそうだよ。おまけに学園のお偉いさんからは、元々貴族の物だった学園に一部とはいえ平民を通わせるようにしたのがそもそも間違いだった、平民は全員退学にするべきだって動きがあるんだって。
あんたのせいで、自分の将来や家族の為に死に物狂いで勉強している平民の生徒全員の人生が滅茶苦茶になりかねないんだよ。
あんたに忠告しようとした生徒もいたそうだけど、あんたは嫉妬だの僻みだのって聞く耳持たなかったそうだね。自分が清廉潔白なのに一方的に苛められた被害者みたいな顔をするんじゃないよ。
いいかい、あんたは酷いことをされたんじゃない。それよりずうぅっと酷いことをあんたが先にしたんだ。
ついでに言うと、貴族様からの嫌がらせってやつも公爵令嬢様が指示したとはあたしには思えないね。
偉い方の事情なんてあたしには分からないよ。だけど、公爵様なんてあたしたちには雲の上のお人だ。ご令嬢が本当にあんたを邪魔に思うなら、くだらない嫌がらせなんて遠まわしな事をするより、あんたを追い出す方法なんて幾らでもあっただろうと思うよ。あんたが言うような、権力を卑怯に使う人ならそうしただろう。
でも、そうしなかった。さっきの夜会ってやつでの態度だって実に毅然としてたよ。その事が無実の証だとあたしは思うね。そのお方を悪し様に罵ってる恥知らずがうちの娘なんだと思うと、あたしは涙が止まらなかった。
婚約者さんに謝らず、自分の家族にも説明せず、婚約者さんの家族も説得しないで、一方的に相手だけを責め立てる。こんなひどい裏切りがあるかい。
あんたは筋を通してない。確かに、気持ちってやつはどうしようも無い物かもしれないよ。でもね、もしあんたに婚約者がいて、解消せずに他の異性と真実の恋に目覚めたなんて盛り上がって人前でイチャついていたら、あたしはまずあんたの尻っペタを引っぱたいてでも、まずその婚約者さんに頭を下げてこい、と言うよ。それから、その婚約者とその家族にあたしも一緒に謝りに行って、何とか円満に婚約解消して貰えるようお願いする。そういうものじゃないのかい。
あんたに悪意があったとは思ってないよ。王子様と結ばれるとか、貴族になれるとか舞い上がって、お伽噺の登場人物にでもなった気分に酔ってたんだろ。元亭主達もそうだった。周りに反対されればされる程、悲恋物の主人公気分だったよ。
あたしはね、今日ここに来るまではあんたが心配だった。悪い貴族にでも弄ばれて、舞い上がって妾にされそうになってるんじゃないかって。それなら、店を潰されても国を出ることになっても――命を落とす事になるかもしれなくても、何とかあんたを助け出す為に体を張ろうと思ってたよ。
でも、あんたは、自分のした事で他の生徒やあたしに迷惑が掛かるかもしれない、なんて考えもしなかったんだろ。おまけに相談ひとつせず貴族様の家に養女に行こうとする――親であるあたしをあっさり切り捨てた。平民であることも家も捨てたんだ。今後どうなろうと、あんたに帰る場所はないよ。今日を限りに、あたしの方から親子の縁を切るからね。
あんたは人として恥知らずな真似をした。家族でなくとも、同じ平民として、人間として恥ずかしいよ。
そもそも学園に行かせたのが間違いだったのかもしれない。あんたが軽はずみな子に育ってしまった事は分かってたんだ。あの時、何としても引き止めておけば……。
それともあの時――、そもそもあたしが引き取ったのはあんたにはいい迷惑だったのかもしれないねぇ。その事だけは、悪いと思うよ」
※
婚約破棄をした息子の母親の場合
「もし、国王陛下がどこかの女性を連れてきて、執務もせず、その女性に正式な身分も与えず、王宮内で人目もはばからず寵愛した挙句に、その女性を王妃に付けるからお前は出て行け、と私に言い放ったらどうです。そなた達がしたのは、そういう事ですよ。
そちらのご婦人の言うことは全面的に正しい。正直、こんなまともなご婦人の娘が、どうしてと思わずにはいられません。婚約者が居る者と、異性が人目もはばからず親しくしていれば、白い目で見られるのは当たり前ではありませんか。
そして王子や、王族が特定の人物を気に掛けすぎれば妬みを買うのは当たり前なのですよ。
そちらの娘は勿論、今は王子にも王族たる資格はありません。王族たるものは正道を行かねばならないのです。約束を守る、という人として当たり前の事を平然として踏みにじるような恥知らずな真似をする者に権力を振るう資格はありません。
倫理だけの問題ではありません。そなた達は横車を押すには余りに無能だった。真実恋し合っていたのだとしても、お互いが好きならばそれで良いのは恋人だけ。結婚とは、本来、周りに認められ、祝福されて行う物ではないのですか? まあ、夢見心地だったからこそあんな芝居がかった真似が出来たのでしょうが…。
他人が勝手に決めた婚約でしょう? 王族というのは、その、『他人が勝手に決めた約束』を守る事と守らせる事が仕事なのですよ。
例えば法律。例えば条約。何代も前の王達が、『勝手に』決めた約束を私たちは、日々、何とか守ろう、守らせようとしているのです。
勿論、時代や状況の変化に応じて変更や撤廃は有り得ます。でも、それならそれで、代案を示したり、その事によって不利益を被る人たちに便宜を測ったり、埋め合わせをしたり――とにかく、約束を『勝手に』破ったりはしない、という信頼こそが、王家の伝統や権威を作り、また守ってきたのです。
例えば、民は法律を守って税金を収める代わりに、国に守られる。それが民と王家が交わしている約束です。税金を収めようとしない民が、「王子様だって約束を破った上に相手の方に罪を擦り付けて何のお咎めも受けていないじゃありませんか」と言われたら何と答えれば良いのです。他国から「そんな王子がいる王家――ひいては国は信用できないから、条約も見直す」等と言われたら、どうすれば良いのです。
それを切っ掛けに戦が起きるかもしれません――。脅かしではありませんよ。平和とは、本当に危うい均衡の元に成り立っているものなのです。例えば、我が国に攻め入ろうと考えている国があって、名目を探していたら良い口実です。
どういう事か分かりますか? 民の家が焼かれ、子供や年寄りが殺され、女は乱暴されるかもしれないのです。国が傾く、というのはそういう事です。真っ先に犠牲になるのは平民達でしょう。
命はみな平等? その通りだと私も思いますよ。その平等な筈の大切な命を一つでも多く救う為に、あえて命に順番を付ける。これが王家のもう一つの役割です。
北では疫病が流行り、南では落盤事故が起こり、西では川が氾濫し、東からは攻め込まれそうになっている――そんな時、「命は皆平等だから全員助けなくちゃ」等と寝言をほざく者が王族に居ては全滅です。一人でも多くの命を救うため、もしくは失われる命を減らす為、あえてどの順番で救っていくか非情な判断をくだすのが王族です。確かに身分制度にも様々な欠点はありますが――そなた達は自分達にとって都合の悪い部分を否定し、破壊しようとしているだけ。それによって起こる混乱や巻き込まれる人々の事など考えもしないで。
確かに王族も人間です。情を捨てる事は出来ません。ですが、情を超えなくてはならない時はそのように振る舞える。その覚悟を生まれた時から――いえ、生まれる前から叩き込まれているのが王族なのです。
もし仮に、王子が身分を捨てて愛する人と平民として生きたい、と言ったとしても決して認められません。恐らく、諸外国の間諜にでも拐われ、良いように利用されるでしょう。そうなったら、私は母である前に王妃として、あの子の命を見捨てなければならない。
そんなのひどい? 命は平等だとおっしゃったのはどこのどなたです。王子一人の命の為に、何千何万という民の命を危険にさらす訳にはいかないのですよ。
王子の手引きで、こっそり城に侵入してきたそうですが、それを許したことで何人の衛兵が責任を取らされる事になるか想像が付きますか? そなたの軽はずみな行動が、何人もの人間の生活や人生を狂わせるのです。
可哀想? 彼らはそれが仕事なのです。そなたが間諜や暗殺者であれば、それこそ大変な事になるのですから。そう、現時点でもそなたが、例えば王子を誑かして骨抜きにする密命を帯びた間諜ではない、と証明する術はありませんね。身元が確かな売国奴など幾らでも居るのですから。
ただ、その覚悟や責任を生まれた時から叩き込まれている筈の王子がまず、軽はずみな真似をしたのです。そのような教育を受けていない平民の娘に全責任を負わせるのは酷だ、というのは分かっていますよ。王子がたぶらかされた、とも思いません。
正直に言って、善意か悪意かは問わず、権力者をそそのかし、取り入ろうとする人間など幾らでもいるのです。そうされない為の教育を受けてきた王子がもしたぶらかされたのだとしたら、たぶらかされた方が悪いのです。
そもそも王子や、あなたに王が認めた――いわば王命である婚約を勝手に破棄したり、公爵家の令嬢を断罪したりする権限等ありません。公爵令嬢が、身分を笠に着て権力を悪用した、と糾弾したそなた達こそが、王子という権力を悪用したのです。王命に逆らうどころか踏みにじったことは、悪いことでは無いのですか?
私はね、公爵令嬢から相談を受けていました。王子から婚約解消の申し出があれば、自分はそれを受けるつもりだと。そして、王子が他の女性と婚約したい、と言ったなら、その事で公爵家が抗議しないよう説得するつもりだから、出来るだけ前向きに考えて欲しいとも。
はっきり言いましょう。あの子は傷ついていましたよ。あなたの心変わりにも、その事についてあなたが何の誠意も示してくれない事にも。それでも、あなたへの愛情や貴族としての誇りにかけて、正しい態度を取ったのです。未来の義娘として可愛がってきたあの子の傷心を思うと辛くてなりません。
そのあの子の献身をあなた達はめちゃくちゃにしてしまった。こんな真似をしなければ――あの子の言葉を聞く耳があなたたちに少しでもあったなら、あなたたちの結婚が正々堂々と認められる可能性も無くは無かったのに。
私は、本当に不思議ですよ。自分達がした事をよおく省みてご覧なさい。どうしてこんな無茶が通ると少しでも信じることが出来たのです? 公衆の面前で、何の証拠もないことで公爵令嬢を罵倒して、公爵家から何の抗議も来ないと思いましたか。王が認めた婚約を足蹴にするような真似をして、陛下や私達が認めると、ほんの少しでも考えられたのですか。皆が王子の言葉をごもっともと聞き入れ、新たな婚約を祝福してくれる――そんな夢物語が実現出来ると、本当に――どうしてそこに至るまでに、冷静になる事が出来なかったのか……。
王妃として宣言しましょう。人から盗んだ物を自分の方が大切に出来るから自分の物だ、所有していた者のほうこそ犯罪者だ、と主張するような真似を認める訳にはいかない。あなた達は、神も王も法も、更には人の心までも裏切った。故に、あなた達の結婚は決して認められない。ついでに言えば、無能である上に倫理観にも客観性にも欠け、独善的な正義を振りかざすばかりの人間を王族に迎えるなどという事は想像するだにおぞましい。
そしてあえて言います。私は母である前に王妃である、と言いましたが、自分の息子が、いわば幼馴染でもある婚約者を裏切っただけでなく、謝罪するどころかその名誉をおとしめ、彼女の家族の名誉まで踏みにじり、無論、その婚約をまとめた私達王族――この母や父、家族の顔に泥を塗った。それが腹を痛めて産んだ息子のしたことだと思うと――ひとりの母親として、本当に情けなくて、情けなくて…。
そしてね、同じ理由で、そんな恥知らずな真似をした――息子にもさせた――お嬢さんを嫁に欲しい、と思う母親は、世界中何処を探したって居ませんよ。まして、国母である私であればなおさらです。
ーーーーさて、まさかそなたたちは、ここに至るまで私達が何も知らず、何の手も打たなかった、と思っているのですか?
政というのは、右にいくか左にいくか、といったものではないのです。今年豊作だったから来年も豊作だろう、といった希望的観測に基づいていたら、あっという間に国は滅びてしまいます。凶作の場合・疫病が流行った場合・隣国が攻めてきた場合……、と、あらゆる事態を想定しながら、今現在どうなっているか情報を収集分析しながら5手先、10手先を打っていかなければなりません。その中には勿論『王子が無能だった場合』という事態の想定もあります。もはや、国にも王家にもそなたは必要ない。
この舞踏会に外国の貴族や下級貴族がひとりも招かれていない事に気付かなかったのですか? そなたが馬鹿げた真似をしでかすらしい、と聞いた為、あらかじめ、ここだけの話と出来るよう、箝口令が通用する貴族だけを招いてあったのです。つまりそなたは、何が起こるか全員が知っている前で、体の良い見世物を演じたのですよーーよくも騙した? おやおや、そなたこそ私達を騙し討ちにするつもりだったのでしょうに。それを放置していたら、今頃この国はどうなっていたことか。それに……、母として王妃として、そなたが、最後の最後で思い直してくれるのではないか、思い直さないまでも何か違和感に気が付いてはくれないかと、それこそ最後の望みを託したのですがーー、それも、無に帰したようです。
さあ、民のために死ぬのもまた王族の義務ですよ。最後の責任を果たしてらっしゃい。
ーーーー茶番劇は、これでおしまい!」