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01.異世界と世海

「日比野遠矢、25歳。極一般的な社会人だ」


「・・・その顔で?」


あれから玉座の(だったらしい)を抜けて階を2つ程降りた先、談話室のような場所に通された。何かあれば呼んでほしいとだけ告げて案内した騎士は部屋の外へ。その後未だ一言も喋らない少女が指をくるりと回し、


「盗聴防止の結界を張った」


とだけ告げてぽてんとソファーに座る。

何気に初めて魔法を使う瞬間を見たのだが何が起こったのか視覚的効果が何もないため分からない。

とりあえず適当に椅子やらソファーやらに座って自己紹介から始める事にしたのが冒頭。


「たしかに堅気に見えぬ体躯と顔つきよな旦那様。本当に一般人だったのか?」


うるせぇ顔は割とコンプレックスなんだとやかく言うない。目付きの悪さもさることながら、妹にすら顔付きが悪い(人に見える)とまで言われる始末。友人にもサングラスかければどこぞのマフィアか、眼鏡をかければインテリヤクザなどと揶揄されてきた。おまけに少しばかり背が高い。今でこそ普通の会社に勤めちゃいるが、学生時代は不良にいちゃもんつけられる事も多く生傷が絶えなかった。


とにもかくにもあまり語る事もなく自己紹介終了。次はお前と求婚してきた男に目を向ける。


「うむ。我はラーマ。正式名称は無駄に長い上に滅多な事で名乗る事は許されぬゆえラーマでよい。旦那様には名乗ってもよいが」


「それ聞いたら拒否できなくなる類の罠だろ断る」


ちっ、と舌打ちしながら自己紹介を続けるラーマ。歳は18らしいが改めて見ると細いだけでなく小さい。小学生と言われても納得できるくらいだ。おまけに声も2次成長前のように少女のようだ。


「我が世界は国は1つだけでな。その国を統べる王族の第3子、継承権では2位となっておる。まぁ王になる気はこれっぽっちもないゆえに突き返したいところなのだがな」


王族とは聞いていたが想像以上にとんでもない奴だった。いやだがそんなのが同性愛者って大丈夫なのかその国。


「我が世界では同性同士でも子供が作れる。性行など昔の男女による生殖の名残も残ってはおるが、まあ快楽目的以外の意味はないの」


なんかとんでもない言葉が出てきた。異世界にこっちの世界の常識が通じる訳ないのが当たり前なんだろうが、それにしたってなんつー世界だそれ。心なしか隣の少女も目を見開いているように見える。いや待った。


「おま、こんな小さい子の前で堂々と言う事かそれ」


「むう、旦那様が我が愛を理解して下さらんから、まずお互いの常識の軋轢を消すために真っ先に説明したかったのだが。それにそこの者、見た目こそ幼いがおそらく我らより歳上であるぞ?」


できればその軋轢はもっと小さい所から解消したかったんだが。それにこの少女が1番歳上とは。どう見ても小学生6年生となった妹より小さい。140も無いくらいだろう。


「・・・お察しの通り。私はアルカ、歳は30は超えてるとだけ言っておくわ。故郷では訳あってあんまり人と関わらず生きてから喋るのは得意じゃないの。こうしてる今も舌噛みそうなの」


「三十路、マジで?」


にわかには信じられないがそこは異世界クオリティなのだろうと納得することにした。

ちなみにここで補足を受けたが異世界召喚された者には自動翻訳の魔法が強制的にかかり、こちらにわかる言葉、ニュアンスに翻訳しているため実際喋っている内容とは差異があるらしい。特に年齢なんかは数え方や星の周期も影響するため単純に数字をそのまま訳すだけだとあべこべになるんだとか。


「魔法による遠距離戦闘が得意よ。身体能力も高いほうだけど技術が無いから殴り合いは苦手。あと、この世界に来た事で大幅にマナ容量が増えてるみたい。超長距離狙撃でもかなりの数連射出来ると思うわ」


「容量増加の代替技か。ともすれば以外と近い層の世界かの」


「どういう意味なのかしら?私も、そこの彼も異世界間移動というものに詳しくないの。教えていただけると助かるわ」


「無論。というよりこの話合いはこれが本命でな。現地人と話す前にこれだけは説明しておかねばならなかったのだ」


すっと、真面目な表情を浮かべて俺たちの顔を見るラーマ。先程までの茶目っ気たっぷりの表情からはうって変わって、これから話す事が冗談の類ではないと、言外に伝えて来ていた。


「まずは、異世界間の関係から話さねばな」


そういって空中に指を這わせると、真っ白な紙のような物と、それに浮かぶいくつもの多彩な丸い点が現れる。


「この小さな丸が各世界。この空白は各世界が浮かぶ海のようなものと考えてくれればよい。この空間を我らは便宜上"世海"と呼んでおる」


世界と示した丸はゆらゆらと右に左にと揺れている。しかし上下には揺れず、同じ高さにあるものもない。


「各世界には高さがある。高さといってもそれで優劣があるというわけでもないがの。むしろ魔法を使うためのマナは低ければ低い世界ほど濃い」


「ということは魔法なんて全くない俺の世界は?」


「恐ろしく高き領域。我らが天蓋領域と呼んでおる世海の天井付近であるな」


だから魔法を使おうにもそもそも燃料となるマナがないから使えるはずもない、ということらしい。基本的に世海の下であればあるほど魔法技術が発展し、上であればあるほど科学技術が発展しやすい傾向になるようだ。


「おそらく旦那様の世界は天蓋でも最上、科学とやら最も発展した世界であろうよ。旦那様が話したようなものはその殆どが我らが観測し得た世界では見たこともない」


おそらく兵の強さは他の世界とは比べものにならなかろうな、との言葉に何となく納得する。たしかにゲームや本の世界の魔法は強力だが個人の技量に大きく左右される。武器で画一的に強大な力を持つ軍隊というのはやはり厄介なものなのだ。


「そしてここからが本題だ。今回使われた召喚方法というのが、大雑把に言うと魔力で各世界に穴を開け、落ちて来た者をキャッチ。という方法だ」


「・・・随分雑なやり方ね」


「うむ、雑だ。ゆえに我らは運が良かったといえる。なにせこの方法、山の上から落とした小石を捕まえるようなもの。おそらく落とされたのは我らだけではあるまい。少なく見積もっても数十倍の人数が落とされ、受け止められず世海の底に落ちただろう」


「落ちたらどうなる?」


ラーマはそれには答えずふいっと視線をそらした。がその仕草からおそらくもう生きてはいないという事なのだろう。

なんと身勝手な方法なのか。勝手に呼び出した挙句に運が悪ければ・・・いや、良くなければそのまま死ぬなんて。


「怒りたい気持ちもわかるがまずは落ち着けい。救助が来るのは早くとも1年はかかる。それまでは現地人と揉めるわけにもいかんのだ」


「1年・・・そんなに待たないといけないのか?」


まずい。俺はともかくとして、残された妹には頼るべき親族がいない。両親はすでに事故で他界。ちょうど働き始めた俺が妹を引き取って生活していたのだ。このままだと良くて施設行き、最悪は・・・考えたくもない。


「心配しておる事は分かるが焦るでないわ。まだ話には続きがあるでな」


空中に出した紙のようなものをぺしぺしと叩くと、次は横に帯のようなものを何行も表示させた。


「世海には時間の概念が無い。無いというか捩くれとるというか。ともかく世海に浮かぶ世界ごとの時間の流れというのは全く一定ではないのだ」


説明しながら帯のようなものをぐにゃんぐにゃんとねじれさせる。どうやら各世界の時間を表したものらしい。


「異世界の観測も我らは行なっておったがの。どの世界もまともに歴史をなぞって行けたものなどなかった。観測するごとに年代が変わり、まともな観測など行えぬ。だが、異世界からの客人を送り返す時だけは違ったのだ」


その後の説明を噛み砕くと。どうやら異世界に飛ばされた時点で本人自身がその世界、その時間に打ち込まれたアンカーとなり、何らかの方法で世界に帰ると大体2,3日程度の誤差の時間軸に戻れるのだそうだ。


「ゆえに元の世界に残して来た者の心配はいらぬよ。安心して、まずは自分の事を考える事だの」


知らず知らずの内に力んでいた力がぬけ、妙に柔らかいソファーに身を沈めた。帰った後は問題ない。ならまずは帰るために生き残らなければならない。なにせ右も左もわからない異世界、しかもこっちは昔喧嘩慣れしてただけの一般人だ。


「次に、これも大事な事なのだがな。先程言うたように世界には高さがある。物理的な者ではないにせよ世界間には高さによる位置エネルギーのようなものがあるのだ」


「それが先程言っていた代償技?でしたか。それに関係があるのね」


先程まで静かに聞いていた少女・・・じゃないんだよな。アルカが待ってましたとばかりに口を開く。


「うむ。位置エネルギーとはいうたが実際通常のエネルギーと違っての。落ちるのに使われるものではなく、落ちた高さ分のエネルギーが落ちた当人の中に貯まり、何らかの形で発現するのだ」


「つまり私の能力は比較的低い位置エネルギーで発現するもので、だからこの世界から近いと推測できたと。そんな所かしら」


時代翻訳がだいぶ仕事してくれてるのか魔法にはとんと縁の無い自分でもかなりわかりやすい。

それにこれはもしや自分にはかなりの力が与えられたのでは、と柄にもなくワクワクしてくる。


「ちなみに我の代償技・・・一般的にオルタナというのだが。能力は雷の発生と操作。威力の上限はあるようだが使っても体力の消耗もなくいざという時や長期戦では重宝するものだな」


ほうほうそれは中々強力そうだ。それなら1番上から落ちて来た俺はどんな力が・・・はて?


「そういや、なんだが。2人はどうやって自分のそのオルタナ?の能力がわかったんだ?魔法か?」


と聞くときょとんとした顔をむけられる。


「む、こちらの世界に来た時点で何となくどんな力があるのが分かるのだが。言うて見れば身体にとって異物だからな」


「私にもすぐに違和感として感じられたのだけど」


「すまん全然分からない・・・」


「ま、まあもしかしたら魔法に関する能力で旦那様に馴染みが無いゆえによくわかってないのかもしれぬ。少し調べてみよう」


かすかに嫌な予感を感じつつ、とりあえずされるがままに調べてもらうことにした。

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