0.始まりは求婚から
初投稿です。単に趣味的な物を書き殴るだけなので更新は不定期です。
「一目見た時から決めた。我と婚姻を結んで欲しい」
訳がわからない。繁忙期で仕事に忙殺され、ふらふらになりながらも愛する妹の待つ家に帰る途中、急に足元から地面が消えた。
マンホールにでも落ちたかと焦るも落下時間が異様に長い。そしてようやく地面の感触を腰で感じて後頭部で感じて、両頬を抑えられたような感覚に目を開けた瞬間これである。
顔を固定されているため目の前の言葉を発した相手しか見えないがまたえらい美人さんだった。しかも褐色肌の外人さん。
爛々と輝く金色の瞳とそれに負けじと光を浴びて輝く金髪。目を合わせ続けるのが恥ずかしくなって目線を下げる。
「いきなりの事で混乱しておるかも知らぬがどうだろうか!」
「いやお前男じゃねーか」
男だった。顔は可愛い。こんな可愛い子見たことない。しかし問題はその体だ。南国風というか、殆ど露出してる上半身でまず目に留まるのは見事に割れたシックスパック。そして胸というか胸筋。改めて見ると全身割と細っこい感じなのだがなよなよした感じじゃなくてよく鍛えて引き締まった身体だ。同じ男として惚れ惚れする肉体美だ。
「それの何か問題があるのか?」
「問題しかねーよ、俺にそっちの気はないっ!これっぽっちもな!」
「我の故郷では性別なんぞ気にするものではないのだが。そうか旦那様の世界はそういうものなのか」
何だそれどこの異世界だ性別気にしないって生物的に色々おかしいだろ。と、思ったところで気づく。視界の奥、何やらファンタジー世界の王様みたいなのと、鎧を着た騎士っぽいのがなんだかすごくいたたまれない雰囲気でこっちを見てる。
そして横から感じた視線を見ると、これまた将来有望そうな妹と同い年くらいの美少女が汚物でも見るような目でこちらを見てた。
「うおっほん。すまないがそろそろこちらの話を・・・聞いていただけないかなー、と」
咳を1つ、何やら威厳を込めて喋り出した王様っぽい人。自分の上に乗ってる男が振り向いてどうやら睨んだみたいで言葉は尻すぼみに消えて行く。
「今我の今後の人生設計に関わる重要な話をしておる。その途中で口を挟むなど言語道断である。しばし黙っておれ」
静かだが有無を言わさぬ口調。王様っぽいのを守る騎士みたいな奴らもその気迫にあてられているのか喋る気配すらない。この場は完全に目の前の男が支配していた。
「さて、余計な茶々が入ってしまったがまぁよい。さて返事は如何「いや断るって俺男色の気ねーもん」に・・・なぬぅ!?」
断られるなど微塵も考えていなかったかのような愕然とした表情浮かべるその男。いやさっきから言ってるじゃん男は無理って。俺ホモじゃねーよ。顔このままで女だったら考えたけど。
「馬鹿な、故郷ではこの美貌に落ちぬ者など皆無だったというのに・・・もしや美意識に何か異常が?それともそっちの細いののようなのが好きな幼児性愛者か?」
「人を異常者扱いしてんじゃねーよむしろ同性愛のほうがおかしいだろがい」
何やらブツブツと呟いている男を押しのけようやく立ち上がる。そして王様っぽい人を見ると一瞬ぱっと顔を輝かせ、すぐに威厳に満ちた表情を浮かべる。切り替え早いなこのおっさん。
「まずは、よくぞ遠き地よりこの世界にいらした。異世界の勇者達よ」
何となくそうなんだろうなって思ってたがやっぱりそうらしい。これは巷で流行ってる異世界転移とかそんな感じのやつだ。
「この世界には今大いなる厄災が迫っておる。どうかその力を持ってその厄災を払ってほしい」
「断る。帰る。帰り口はどっちださっさと出せ」
「え、あのもうちょっと考えてくれても・・・即答?」
当たり前だ。何せ家では可愛い妹が料理を作って待っている。こうしている間にも無情にも時間は過ぎていく。本来ならぶん殴ってでも帰り方を聞き出したいところだがさすがに鎧を着た奴が何人もいるし直接的手段には出られない。
「ふ、フフフ。聞いたところで無駄であろう。おそらく其奴ら呼び出し方は知っておっても帰す術など知らぬであろうよ」
先程までブツブツ呟いていた男がゆらりと立ち上がると何やらとんでもないことをのたまった。
「はぁ!?んじゃ帰れないってのか、ふざけんなよ俺には帰りを待ってくれてる可愛い妹がいるんだぞ何としても帰らなきゃならねぇんだよ」
と言ってから気づく。王様と騎士達は間違いなくこの世界の住人だろう。だが、この男とさっきから一言も発さない少女は服装や雰囲気からしてこの世界の住人ではなさそうだ。それにさっきそこの王様が勇者達、と言った。つまるところこの2人も呼び出された勇者ということになる。
その割に目の前の男はいきなり求婚してきたり焦ってる様子が全くない。
「慌てるでない。我が世界は異世界渡航技術の研究が盛んでな。異世界に渡る術が確立しておる。何より我はその世界の統合王国の王族よ。今頃必死になって探しておるだろうさ。汝らも元の世界に帰す事は可能であろうよ」
余裕の正体はそれだったらしい。帰れると聞いてやや落ち着くが、それでももやもやしたものが完全に晴れるわけではない。こうしてる間も妹は1人家で俺の帰りを待っているのだろうから。
そしてなるほど王族か。やたら居丈高な喋り方や高慢とも取られかねない態度はそういう事だったのか。
「焦るのは分かるがまぁ落ち着くがよい。何より我らそれぞれ全く異なる世界より集められたようだし、この世界の事も分からぬ。まずはゆっくり話でもしながら親睦を深めようではないか・・・フフ」
まるで獲物を狙う肉食獣のような視線に背筋がざわざわ来る。断ったというのに諦める気が全くないらしい。
「この世界の王よ。まずは部屋を用意してもらおう。我らはまず同じ境遇にある者として情報を共有し、仲を深めねばならぬ。お主らの話はその後で聞こう」
「む、むぅ・・・こちらの願いを聞いていただけるのであらば異はないが。いきなり逃げるとかないよネ?」
「そんなにすぐに帰れる訳なかろう。後で話はちゃんと聞いてやろうと言っておるのだからそれで納得せい」
と、終始男のペースで話は進み、まずは落ち着ける場所をという事で並んでいた騎士の1人が案内してくれる事となった。
何だかんだととんでもない状況となってしまったが俺の目的はただ一つ。無事に妹の待つ家に帰る、ただそれだけだ。妹の家族は俺だけなのだから。