家主と僕と 〜そして真実とは〜
ゴボゴボゴボ…。
息が出来ない。
沈んで行く。
真っ暗闇の中に入って行く…。
僕はどうなるんだろう。
気がついたら見知らぬ場所に寝転がされていた。
布団もかけられている。
服は…着ているが、僕が着ていた服とは違うようだ。
だぶだぶの服だった。
この部屋は小さい。
だけど、この家の家主は何処?
見当たらない。
起き上がって布団をめくり、立ち上がった。軽いめまいがしたが、大したことはない。
それよりも助けてもらったお礼を言わなくては。
誰に?
それがよくわからない。
家主なら知っているに違いない。そう思った。
1時間、2時間…3時間経っても家主の姿はなく、トイレに行きたくなった僕はそうであろう場所を探して、用を足した。
帰ろうか…。でも一言言わないと…。
でもね?
帰りたくなったんだ。
だからさ、玄関まで行った時、なんか…こう、おかしな事に気がついたんだ。
玄関のはずのドアが開かない。
鍵がかかってても内側からなら開けられるはず。
そう思ったのに、なぜかドアが開かない。
書かれたドアかと思い調べて見たが、どうやら本物のようだ。でもそしたら何で開かない?
ドンドンとドアを叩くが何の反応もない。
これは本当に困ったことになったぞと考えていたら、ガチャっと音がしてドアが開く音が聞こえてきた。
僕はなぜか慌ててベットに走りこんで布団に潜る。
人が1人入ってきた。
足音は一人分だから間違いないだろう。
布団を動かさないように気をつけながら少し動いた。
ガバッと突然布団がめくられた。
「うわっ?!」
驚いたよ。で、起きてるのバレてしまった。
入ってきたのは女性だった。
髪が長いせいか一つにまとめていた。
「どう?起きた?」クスリと笑われムッとしたが相手にされなかったようだ。
反応がない。
「貴方…ついてるわね。そう…だからあそこにいたのね?」
あそこって?どこのことを言ってるんだろう?と記憶をたどったが覚えていなかった。
忘れてしまっていたらしい。
首をかしげると女も?という顔をした。
「貴方…覚えてないの?」
「はぁ、まぁ…。」
僕はそれ以上言う言葉が見つからなかった。
本当に覚えていなかったから。
「まぁいいわ、じゃあ貴方はそうなの?」
「??」何言ってるんだ?この人。
「違うの?まぁいいわ。でもあそこにいたってことは見えるのよね。どうだった?」
「なんのことだか全く話がわからない。僕が何を見たって?まさか…霊…とか?まさかね。はははは。」
僕は笑っていたが女は笑ってはいなかった。むしろ真剣な顔をしている。
信じてるのか?
この科学が発達した文明社会の中で。
あり得ない…。
「もし見えてたらどうだと言うんですか?」
「知りたいのよ。あの世の事を。どんな世界かってね。」
「そ、そんなの話すことなんかできないのにどうにか知ってどうするつもりなんだ?」
「そうね、そっちに行くって勇気がいるじゃない。だから背中を押して欲しいのよ。とても良い世界よって。」
「だから僕を助けたんですか?何かから…。言っときますけど僕には霊なんか…霊…なん、か、見え…無いですよ?…え?何?」
「どうしたの?もしかして見えてるんじゃない?クスクス。」
おかしい。
見えたことなんか一度もなかったのに…何で?頭で考えても答えは出てこない。
女のすぐ後ろに下を向いた女性の姿が見て取れた。
でもどこかおかしい…。
そう、そうだ!見えてるんだ。
透けて向こうの壁が見える。
おかしくないか?
見える?じゃあ何?霊?
初めて脳が理解をした。
僕は霊が見えるんだという事を。
「貴方大丈夫?おかしくなっちゃったとか?クスクス。それでもいいんだけどね。教えてもらわないとこっちが困っちゃうのよね。どう?見えはするという事は話もできるということかしら?」
「見え、見えるけど、話なんかできないよ。それは無理だ。相手の声が聞こえないから。」
「そう…ならこうしたらどうかしら?」
僕は頭を掴まれそのまま洗面台まで引きずられてく。
そして水を張ったその場所に頭を突っ込まれた。当然息なんかできやしない。暴れたよ。でもね、女の人の方が何故か力が強く僕は息が続かなくなりかけた時、フッと頭を押さえつけていた手が離れ水面から顔を出すと咳き込んで息を吸ったりはいたりを繰り返した。
「どうかしら?聞こえて?」
クスクス笑いながら僕の顔を睨みつける女を見て恐怖した僕は頭を上下に動かすだけだった。
「じゃあ教えて?あっちの世界はどう?」
僕は女のすぐそばに立っている透けている霊に向かって念じてみた。するとね?僕の方を向いたんだ。
聞こえてるみたいだ。
ただ顔は下を向いたままなのでどんな表情をしているのかまでは分からなかったが…。
だからね?覗き込んで見ようと思ったんだ。そんなことしたらどうなるかわからなかったけど、このままだとこの怖い女の人に何をされるか分かったものじゃない。だから恐る恐る…ね。
すると突然腕を掴まれた。
え?掴まれた?
霊じゃないのか?
でも感触がある。
それで腕を振って見た。
すると手がすり抜けた。
一体何がどうなってるのやら??
混乱するばかりで困ってしまった。
思わず「離せ!!」と叫んだ僕はなんだったんだろう…。
そもそもどうして僕がこんなことになってしまったのかが謎だ。
この女が言う霊の世界って死後の世界だよね。じゃあ僕は死のうとしていたって事?どうして??
記憶がない分わからない事だらけ。
唯一言えるのは目の前のこの女のすぐ後ろに謎の霊がいるって事。
下を向いたままなのでまだ表情は分からない。
でも、触られた腕は確かにひやりとした感触を持っていた。
その霊の女に向かって念じ続ける。
なんでこの人についてるのかってことを。
片腕がゆらゆらと揺れこっちにおいでと誘うようだ。
僕は誘われるままにその霊に近寄っていく。
そう、まるで夢遊病者のようだ。
するとそれまで下を向いたままだった顔が徐々に上を向き始める。
怖い。
正直思ったよ。
いったいどんな顔をしてるのやら。
その顔を見た時、悲鳴をあげた。
顔が血で真っ赤になっていたから。
ポタポタと落ちる血に床は血だまりができていた。
その瞬間、一瞬だけフリーズした。
でもね、すぐに回復してアワアワと言葉にならない言葉をしゃべっていたらしい。
怖い家主に頬を叩かれるまで気づかなかったようだ。
叩かれてハッと目が覚めて、ようやく状況を理解した。
「あの〜、ですね、あなたは一体なんでこの女の人に取り憑いてるんですか?何かされたんですか?」
その一言がこの霊の何かに触れたようだ。
霊は両手で家主の女の首をしめようとしていた。
よほどの恨みらしい。
【こいつさえいなければ、私は幸せに慣れたはずなのに。こいつさえいなければ…。】
何があったんだ?
怖いけど、…怖いけどこの霊が哀れに思えた。
それがまずかったのか、霊の顔から笑みがこぼれ落ち、ニヤリと笑った顔を見た後意識をなくした。
次に目が覚めた時には家主の怯えた顔が見て取れた。
いったい何があったというんだ?
聴こうにも怖くて聞けない。
家主は部屋の隅で縮こまったまま。
「あの〜。」
「ヒー!?」
僕は家主の女性の前を通り過ぎて部屋を出た。
振り向くが家主がどうなったかなんて分からない。ドアは固く閉じられたから。
空は晴れていた。
にしても疑問が残る。
僕は何しにどこへ向かっていたというのだ?
家主の女が言っていた場所って…もしかして。。。
自殺の名所??
時間が経つごとに徐々に記憶が戻ってきたのを感じた。
そうだ!
確かに僕はその場所に行った。
別に死のうとか思ったわけじゃない。
ただ単にどんな場所なのか知りたかっただけ…。
何人もの命を吸い込んで行ったその場所がどんななのかを知りたいと思った。ただそれだけ。
でもね、今回の事があって二度と行きたくはないと思ってしまったのも事実。
あの家主、どうなったんだろうね〜?
特に知りたいとは思わないが…。