非日常
「地下通路の入り口がない、ああ、そう言われて見ればここに、子供じみた秘密基地の入り口みたいなやつ、ありましたよね」
安風は、壁を大きく摩って、この辺り、と指さした。
「間違いない。ここに入り口があったんだ。それが今は無い。どういうことだ」
隆司は、非常に冷徹であったが、よくよく考えると、事態を楽観視することは出来ないはずだった。
「つまり、地下に潜りこむことが出来なくなった、ということですかね」
安風は、なおも冷静だった。
「写真部室に行くことが出来ない。なるほど」
隆司の頭を過ったもの、それは、かつて最も居心地のよかった居住スペースが消滅したということ、そして、潮が、写真部室に取り残されているということだった。
「待て。潮の姿が見えないと言ったな。あいつ、部室に取り残されたんじゃないのか」
隆司の口調が次第に熱を帯び始めた。安風は、
「そういうことですかね」
と言った。
写真部室の消滅と潮の消息不明
この二つに何らかの因果関係を見出すことは極めて自然なことだ。
まずやるべきことは?
「となると、塞がれた入口を見つけなければならないな」
隆司は、安風が触れた辺りの壁を探ることにした。
実際に手で触れて、何度か叩いてみる。壁の向こう側が空間であるとすれば、音の高さが変化する。
このあたりはダメ。こっちもダメ。あっちも変化なし。
最近音楽を聴き続けているから、一時的に聴力が落ちているんだ。
隆司は、安風に頼んで、同様の実験を試した。安風は、首を横に大きく振って、
「どこもかしこも音の高さは同じですよ」
と言った。
そんなはずはない。どこか一ヶ所、しかも、それなりに大きな空間があるわけだから。
誰だって分かるはず。
「やっぱり、駄目みたいですよ」
安風は、隆司の険しい目を直視しないように、俯きかげんに言った。
証明は終わっていない。仮説の反論は未だ二つしかない。
次の手は?
「壁を、一つずつ壊してみよう」
「え?」
隆司は、文化祭実行委員会の部室から、工作用ののこぎりを持ち出した。これには、流石の安風も、
「ちょっと、いくら何でもそれはまずいですって!」
と大声で言い、隆司を制止しようと試みた。
「どうして止めるんだ。これが一番手っ取り早いだろう」
隆司は、コンセントを見つけると、すぐさま、プラグに差し込んで、スイッチをオンにした。
「ほら、下がって。体が真っ二つになっちゃうよ」
隆司は、勢いよく唸る荒くれ者を、壁にあてがった。
「見ろ。この壁は相当脆いぞ。少し削っただけで、ぼろぼろだ。このまま、掘り進んでいけば、地下にたどり着くんじゃないか?もっとも、その前に、この棟が崩れ落ちるだろうが」
隆司は、極端な論理主義ゆえ、臆病だった。自らの命を犠牲にすることには消極的だった。
でも……。何とかして、部室への道を見つけないと。
一体、何をそんなに焦っているんだ?
このモヤモヤは何なんだ?




