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みなとくんはバカ

作者: 水汽 淋

 みなとくんはバカです。

 みなとくんはいつも笑っています。

 みなとくんはいつも人には理解されません。

「これ、美味しそうだなぁ!」

 みなとくんはそう言って道端の雑草をむしゃむしゃ。人目も気にせずに貪ります。

 もちろんそれを見ていた人達からは悲鳴が上がります。

「きゃあ。あの子何してるの。常識がなってないワ!」

 でも、みなとくんは親がいないので、そんな常識を教える人は誰もいません。



 そんなみなとくんにも、幼馴染の女の子がいます。

「ねえみなと。あなた、いい加減にそれ止めなさい。みっともないわよ」

「嫌だよあきちゃん。ぼくは、こうしたいからしてるんだ」

 みなとくんは公園で逆立ちをして、あきちゃんと話しています。

「でも、そうすると頭に血が溜まって倒れるわよ」

「僕はそうしたいんだ」

「まあ、みなとがそうしたいのならいいわ」

 風がビュウビュウと吹いて、みなとくんとあきちゃんの一日は終わります。ちなみにみなとくんはその後倒れてしまいました。

 あきちゃんが介抱してあげるのもいつものことです。



「ねえみなと。あなた、いい加減にそれ止めなさい。汚いわよ」

「嫌だよあきちゃん。ぼくは、こうしたいからしてるんだ」

 みなとくんは、カラスの羽根を拾い集めて服を作っています。

「でも、そうするとバイ菌がついちゃうわよ」

「僕はこれを着たいんだ」

「まあ、みなとがそうしたいならいいわ」

 ギャアギャアとカラスが泣き喚いて、みなとくんとあきちゃんの一日は終わります。ちなみにみなとくんは体に発疹ができて、体中を掻いていました。

 そんなみなとくんに、あきちゃんが薬を塗ってあげるのもいつものことです。



「ねえみなと。あなた、いい加減にそれ止めなさい。虫が出てくるかもしれないわよ」

「嫌だよあきちゃん。ぼくは、こうしたいからしてるんだ」

 みなとくんは葉っぱつきの枝をたくさん持ってきて、家を作っていました。

「でも、そうすると毛虫や蜂がみなとを刺すかも知れないわよ」

「僕はここに住みたいんだ」

「まあ、みなとがそうしたいならいいわ」

 スーンとした葉っぱの香りが鼻をくすぐって、みなとくんとあきちゃんの一日は終わります。ちなみにみなとくんは蜂に刺されて顔が腫れてしまいました。そんなみなとくんに、あきちゃんが優しく声をかけてあげるのもいつものことです。



「ねえ、あきちゃん。僕、準備が出来たよ」

 あきちゃんの前にみなとくんは二つの泥人形を置きました。

「本当ね。みなと」

「ねえ、あきちゃん」

「なに。みなと」

「僕、あきちゃんのこと大好きだよ」

「そう。私もよ」

 あきちゃんはみなとくんを見下ろしました。

 みなとくんはいつものように笑っています。

「そうだ」

 と、みなとくんは言いました。

「この子達に名前をつけてあげよう。でも、区別がつかないなぁ。そうだ。僕の子供なんだから、僕の腕や足をさせば、もっと僕の子供になるんじゃないかなぁ」

 みなとくんは自分の左腕を抜きました。右足も抜きました。

 そして、右の泥人形に左腕をさしました。左の泥人形に右足をさしました。

 みなとくんは自分の力では立てなくなってしまいました。だから、壁にもたれかかっています。

「僕の左腕だから、左ちゃん。右足だから右くんにしよう!」

 ぽたぽたと流れ落ちる液体が、静かに地面を濡らします。

「そうしてしまったら、みなと。痛いでしょう」

「ううん。全然痛くないよ。痛いのはあきちゃんでしょう」

「……私は、全然痛くないわ。寂しくもないわ」

 みなとくんはにっこり笑ってあきちゃんを見つめます。

 ザアザアと雨が降って、みなとくんとあきちゃんの一日は終わります。たまに、あきちゃんが何も喋らない日もあります。そういう時は、みなとくんが寄り添って優しく微笑みかけるのです。



「ねえ、みなと。あなた、いい加減にしなさい。早くベッドから起きてくるのよ」

「嫌だよあきちゃん。僕はこうしなければならないからこうしてるんだ」

 みなとくんはベッドで寝ています。あの日以来、あきちゃんはみなとくんに付きっきりで様子を見ています。

「でも、私はもっとみなとと遊びたいわ」

「僕はここで終わらなければいけないんだ」

「まあ、みなとが……。みなと、が、そうしたいなら……。嫌。嫌よ。ダメ。みなと。ダメ」

 あきちゃんは心配性です。だから、みなとくんは笑います。

「大丈夫だよ。あきちゃん。僕なんかより、もっと大事な友達を作るべきだよ」

「できないわ。私、怖いもの。いつか必ずいなくなってしまうものより、いつまでも側にいてくれる方がいいもの。みなとはいなくならないもの。私が大切にしてあげる代わりにいつまでもみなとはいなくならないもの」

 みなとくんはいつものように笑います。少し、髪の毛が薄くなっていました。

 あきちゃんの顔は、鼻水をふいたティッシュのようにくしゃくしゃです。

 みなとくんの声は聞こえません。

 


「ねえ。みなと」

「私」

「私ね」

「今日も」

「お母様と」

「お父様が」

「仕事なの」

「ねえ。みなと」

 みなとくんはバカです。みなとくんはいつも笑っています。

 みなとくんはいつも人には理解されません。

 みなとくんは女の子のためにバカです。みなとくんは女の子のためにいつも笑っています。みなとくんは女の子のためにいつも人には理解されません。



「みなと。私。私ね。今日、初めて外に出たの。お日様は明るくて、風は心地よかったわ。そこで、女の子と知り合いになったの。とてもおてんばな子で私はとても苦しかったわ。でも、楽しかったわ。ねえ、みなと」

 みなとくんの声はもう聞こえません。あきちゃんは笑っています。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  文章がとてもいいです。地の文全体に感情が込められていないため主人公のキャラクターを全く関係ない第三者からの視点として見れたので、他人に理解されないという部分に共感させられました。そして、…
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