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秘計  作者: 大平篤志
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父と兄の来訪


 翌日は雨で、晩冬に戻ったかのような寒さが襲った。

 そして、その翌日からは太陽が力を取り戻し、急に気温が上がった。


 大野の父と兄が、後藤家に美和を訪ねてきたのは、そんな蒸し暑い日であった。


 美和の実家の大野家は、後藤家よりは家格が上である。

 父の格兵衛と兄の康右衛門の二人は丁重に客間に通された。


 まずは、当主の病気を述べ挨拶に罷り出ることができない旨を、隠居の尚之丞が伝える。

 尚之丞の丁寧な応対にも二人は無言で、不機嫌に頷くのみであった。

 格兵衛と康右衛門の無礼な振る舞いに尚之丞は腹立ちを覚えたが、自分に後ろめたさがある手前、卑屈にも愛想笑いを浮かべて、取り留めの無い話題を並べて美和が到着するのを待つしかなかった。


「お待たせいたしました」


 美和が到着し、襖を開けた。

 三人の視線が一斉に美和に注がれる。

 美和が顔を上げ、目を丸くして三人の注視を受け止めた。


「どうしましたか」


 美和が部屋の中に入っていくと、尚之丞がほっとした表情を見せる。


「美和さん、お父上と兄上があなたに急ぎのご用事だそうだ。わしは席を外すから、ゆっくり水入らずで話を」


 尚之丞はそう言うと、そそくさと立ち上がった。


「はい、ありがとうございます」


 美和は軽く尚之丞に対して頭を下げた後、格兵衛と康右衛門のほうに向き直った。


「急にどうなさったのですか父上と兄上二人揃って。家を出てまだ二日しかたっていないのに、父子揃って婚家に様子を見にくるなんてみっともない」


 美和は、後藤家に出来している異常事態を悟られぬよう、努めて明るい口調で軽口を叩いた。


「ば、馬鹿なことを申すな」


 康右衛門が足を崩し、美和を睨みつける。

 格兵衛は美和同様小柄だが、康右衛門は武士らしい堂々とした体格である。

 康右衛門は、幼い頃よりつまらないことでもすぐに涙ぐむ妹の美和の面倒をよく見る兄であった。


「美和、今日は重要な用事があって、訪ねて参ったのだ」


 格兵衛が重々しく口を開いた。

 格兵衛は戦場往来の古武士を思わせる、骨の髄からの侍である。

 美和も実の父親のただならぬ様子に、緊張で掌が湿ってくるのを感じた。


「一体、何があったというのです」


 康右衛門は胡坐をかいたまま、落ち着きなく膝を揺らして話し始めた。


「惚けても無駄だ。こちらは既に全てを承知している」


 康右衛門の言葉が龍之進の失踪を指していることは明らかである。

 美和は身を堅くした。


 しかし、その後に格兵衛が口にした言葉は、さらに恐るべき内容を含んでいた。



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